弥生改造計画 ②
「では、この水晶版に手を置いてください。はい、そのまま楽にしてくださいね……」
魔法士ギルドの登録所、真司とエキドナがエルクと出会った場所である。
今日は清掃日でも無いのですんなり受付へ、そのまま弥生の適正魔法チェックと進んだのだ。
「これだけでいいんですか?」
「ええ、適性があればすぐにでも……」
B5サイズほどの水晶版はうんともすんとも言わない。
……
…………
……………………
「何も起きませんね」
「何も起きません」
つまり、弥生に魔法の適正はないのだ。
余談だが、真司の時はそれはもう一瞬で水晶版が砕け散った。
計測限界を超えた水晶版に受付の女性は大慌てで副ギルド長を呼びに行くことになった。
「ありませんか」
「ありませんね」
すっと弥生は水晶版から手を引き、両手でむんずとつかむ!!
何をするか察した受付嬢さんが「それ一枚金貨70枚ですから」と慣れた様子で告げると、弥生は無言でその板を丁寧に置いた。
「……お世話になりました」
「お大事に~」
弥生の煤けた背中を見送り、通常業務に戻る受付嬢さん。
もちろん弥生の事はかわいそうだと思うが、そもそも魔法の才能を持つものなどそんなに多くない。
人族であれば100人に1人、ちょっとした魔法が使えるだけでも珍しいからだ。
真司はちょっと異常だったが、姉弟でこうもはっきり素質が分かれるのも稀ではあったが。
とにかく、弥生には魔法の素質はひとかけらも、これっぽっちも存在していない。
それだけははっきりした。
「お帰りなさい、パフェでも氷菓子でも好きな物をヤケ食いしていいわよ」
扉を開けて、開口一番に牡丹は弥生に現実を突きつけた。
なぜかといえば結果はなんとなくわかっていたからだ……だって部屋に入って3分も経ってないんだもん。しかも扉越しでも弥生の負の気配が濃密に感じられている。誰であってもダメだったと思うのは仕方がない事だろう。
「ぼたんさん~~~!! せめてどうだった? 位は聞いてくださいよ!!」
「じゃあ付き合いで聞いてあげるわ……どうだったの?」
「……素質ゼロ。うんともすんとも言いやがりませんでしたあの板野郎」
「世の中そんなもんよ。地道に体力づくりしなさい、若いんだし」
「はぁい……そういえば、真司とエキドナさんは?」
今日は4人で魔法士ギルドに出向いていた。
この数分でどこかに行ってしまったらしい。
「真司が杖の受け取り、エキドナはその護衛ね……受け取るだけだからすぐ戻るって言ってたわ。ついでに慰めといて、ともお願いされた」
「素質無し前提で話を……あのふたりぃぃ!!」
「見事に言い当てられたわ……銅貨3枚か」
「賭けてたんですかっ!? あ、でも負けたってことは牡丹さん! 私に才能ありの方へ賭けてくれてたんですよねっ!! ねっ!!」
「しょぼい魔法が使えるかどうか微妙なレベルだと思ってたわ」
「味方は居なかった!?」
「信じて弥生、私は可能性に賭けたの!! 負けたのは弥生の自分自身の才能に負けたのっ!」
「猶更悪いわっ!! くっそう……神様なんていなかった」
「……そんなところで四つん這いになると服、汚れるわよ。うん、真司とエキドナから聞いてはいたけど。あなた割と面白いわ、弥生……きっと、たぶん、おそらく……仲良くなれるわ」
「そんな初めて見るようなさわやかな笑みで手を差し出されても!! 言ってる事大概ひどいですからねっ!?」
割と、とか。なかなかな言われようであるが牡丹にしては珍しく歩み寄ろうとしているのだ。
コミュ障の塊、と幼馴染から酷評されるほどに興味の振れ幅がひどく……いわゆる変人枠として周りに認識されていたのだが、なぜか真司やエキドナはそれに頓着せず、自然体で受け入れていた。
その理由の一つは弥生なのだが……
「冗談はともかく、本当に残念だったわね」
「牡丹さん……」
今度は信じてもよさそうだ、と弥生が牡丹の手を取り立ち上がる。
しかし、次に続いた言葉は……
「魔法適正はあってもなんかよくわかんない原因で宝の持ち腐れ――だったら私金貨2枚ゲットで好きなもの奢ってあげてたのに」
「…………さっきのは『思った』、で今のは『賭けた』?」
「そうよ? 笑顔のまま涙を流すって……器用ね。コントみたいだわ」
「ここまでの数分間まるまるコントですよっ!! 助けて洞爺おじいちゃん!!」
「洞爺さんはこういう時、大体お茶を入れに行くか盆栽の手入れに行くのよ。残念ね」
「それは処置無し!! と諦められてるんだぁぁぁ!!」
「凄いわ。あなたエスパーなのかしら、よくわかったわね」
「わからいでか!? 何そんなに感心しましたって顔作ってんですか!! しかもさっき私素質無しって知っててエスパーとか死体蹴りスキル高すぎです!!」
「久しぶりにちゃんと突っ込みを入れられたわ。あなた、やるわね」
「もう嫌だこのループ!! 真司! エキドナさんカムバァァック!?」
「待って、ちょっと私も楽しくなってきたの。もう少し、もう少しだけ」
「今あったまってきたの!? これまでの単なる暖機運転!?」
「全裸からが勝負だと私は常々主張しているの」
「真顔で振り切らないでくださいぃぃ!!」
「文香ちゃんにはナイショよ」
「ドヤ顔で言わなくても絶対阻止です!! 洞爺さんけしかけますよ!?」
「なんてご褒美を!?」
「真司!! 真司ぃ!! あんたの魔法でこの人なんとかしてぇ!? それと今気づいたけど牡丹さんが勝ったら金貨で負けたら銅貨ってことは――そもそも勝ち目がないってほぼダメ元で賭けたって事じゃないですか!?」
「本当にすごいわ。突っ込みの素質があるわ!! 私初めて弥生に興味が持てているわ!!」
「エキドナさんっ!! エキドナさん!! 今こそ一発派手にこの人にあの時不発だった爆裂正拳突きを!!」
なんかもう、ひたすらに楽しそうだった。
通路の曲がり角で面白いから黙って聞いてた2人は、やがて受付さんに「いつまでもうるさいですよっ!!」と注意されるまで声を殺して笑っていたのだった。




