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王城見学会 ③

※令和4年4月24日に改稿されました。

 どこまでも突き抜ける青い空。

 身体を撫でる心地よい風……大空の広さを全身で受ける。


 初めての感覚に弥生はただただ身を任せるしかなった。


「大丈夫ですか? 怖くないですか?」


 飛竜の手綱を握るウェイランドの女性空挺騎士『イスト』は背中につかまっている弥生に声を張り上げた。

 魔族と獣人のハーフである彼女は風の音でなかなか聞き取りにくいこともあり、自然と声は大きくなる。


 風除けを兼ねる兜と鎧にスタイルが隠れてしまっているが、それでもグラマーだと弥生がちょっと興奮していた。まあ、別な理由が9割以上を締めているが。


「ぜんぜん怖くないです!! 気持ちいいですよ!!」


 はしゃいでいるのが手に取るようにわかる弥生の声に、イストは気を良くして自分の相棒である飛竜『ジェミニ』に頼む。もうちょっとだけアクロバティックに、と。


 ギャウ! 


 一声答えて、ジェミニは振り落とさないよう慎重に、でも大胆にぐるりとその身をひねる。


「ひゃああぁぁ!! さんびゃくろくじゅうどがみえるぅぅ!!」


 笑い声とともに木霊する弥生の嬉しそうな悲鳴を聞いてイストもジェミニも穏やかな笑みを浮かべた。

 普段は自分たちが飛ぶ空にこんなに楽しんでもらえるのは率直に嬉しい。


 年に数回、天気が良ければこうして体験飛行を行っているが……弥生ほど怖がらない相手も珍しかった。空挺騎士団にあこがれる子供が少し飛んだだけで泣いてしまうこともあるのでイストもジェミニもほっとしてる。


「楽しいからってベルトから手を離さないでくださいねぇ!!」


 イストはきゅっと手綱を引いてジェミニにもうちょっと速度を出すよう指示する。

 本来であれば高さも速度も単なる体験を通り越しているのだが、弥生のためにとサービス精神で飛んでいた。


「っと、これ以上高く飛ぶとさすがに危ないや」


 騎士でもよほど急ぐ時にしか使わない気流の高度がもう少しといったところで、そろそろ戻らないといけない時間が来た。

 それに上昇すればするほど気温は下がる。

 弥生の服装では肌寒いから寒いに変わる頃合いだろう。


「うわぁ! 国が小さく見える!! みえ……あれ?」

 

 それでも変わらずはしゃぐ弥生の声が疑問に変わった。

 どうしたのかとイストが振り返ると弥生の眼は一点を追っている。


 カタカタと肩を震わせているのは寒さだけのせいでは無い、イストは即座に弥生の視線の先を追う。

 そこに移る光景は王城のある北区画の反対、南に広がる工房区画から立ち上る黒煙と……


「なんだっ!! あの影……まさか死霊か!?」


 黒煙に紛れて影が飛び交っていた。それも一つや二つではない……工房区画全域に溢れそうなほど集まってきていた。


「し、死霊って……あれ全部ですか」

「多分、間違いない……弥生、今すぐ君を降ろして私はあそこへ向かう。申し訳ないがここで飛竜体験はおしまいだ。ジェミニ!! 急ぐぞ!!」


 手綱を引っ張るまでもなく、イストの指示を理解したジェミニはくるんと反転し王城の中庭へ飛翔する。その速度は今までの比ではなく、ゆったりと流れていた景色はジェットコースター並みに吹っ飛んでいった。


 他の飛竜体験中の騎士も気づいたのか一斉に反転して戻ろうとしている。

 その光景の中に、弥生はありえないものを見つけてしまった。


 戻ろうとしていた飛竜、その背には騎士と体験者……その体験者が金髪碧眼、シャツとスラックスの青年だった。

 ついさっき、城の中で弥生が見かけた人物。


 違和感の元凶が……弥生に振り向いた。


 ――ぞくり


 直接心臓に刃物を差し込まれたかのような幻覚が弥生を襲う。

 明らかに弥生を視ている……そして、その唇がゆっくりと形を変えていく。


 ――――みぃつけた


「ひっ!?」


 弥生はわかってしまった。あれはワザとだ。

 ずっと前からこちらをうかがって、気が付いた時にただただ恐怖を与えたかった……いたずらだ。


「ジェミニ!! よけろっ!!」


 イストが無理やりジェミニの手綱を力いっぱい引き、左に急旋回させる。


「きゃああ!!」

 

 弥生が上げる悲鳴に反応するのももどかしく、イストは体重をかけジェミニの旋回を助けた。

 その甲斐あって、ほんの数秒前まで弥生達が飛んでいたコースに一陣の閃光が駆け抜ける。


 じゅうっ!!


 少しだけ間に合わなく、飛竜の翼膜が光をかすめた。

 その痛みにジェミニは鳴き声一つ上げず姿勢の維持に無理やり務める。


 肉が焦げる嫌な臭いを置き去りに、最短距離で空を落ちていく。


「城にまで……!! 近衛部隊はどうしたんだ!!」


 間一髪攻撃を回避したイストは城の中庭にも異常が発生しているのを確認した。

 数体ではあるが明らかに意思をもって暴れている影……先ほどの一撃もその影の中の一体から放たれたとみて間違いないとイストは判断する。


「まずい……」


 現状空挺騎士団でイストを含めた3組が民間人を乗せていた。

 避難させることが出来なければ満足に戦うことができない、おそらく他の騎士も緊急で出動しているだろうが……簡単には中庭の奪還も難しい。


 今できる最善の手を模索して、周りの騎士に目を向けた。


 しかし、状況はさらに悪化する。

 ぽたりとイストの頬に落ちてきた滴、雨かと思い指で拭うと……真っ赤な血だった。


「まさか……」


 先ほどの地上からの攻撃で怪我したのかと頭上を見上げると……胸部から腕をはやした騎士が虚ろな瞳で手綱を手放している。


「イストさん!! あの男の人が!!」


 弥生が指を差してイストに伝えるが、少し遅かった。

 

「あの野郎……!! ジェミニ!!」


 ぱぁん! と手綱を打ち鳴らして再び空に向けて舞い上がるイスト。

 頭に血が上り、普段なら絶対やらないような直進での接近を行ってしまう。


 弥生が急上昇に必死で耐えるが……声も出せずにただただしがみつくのがやっとだった。


「お前じゃないよ……欲しいの」


 三日月のようにゆがむ口元を見せつけるように青年が嗤う。

 無造作に右腕を騎士の背から抜き、飛竜の背から蹴り落とす。


 残酷な男の行為にイストの手綱を握る手からは血がにじんでいた……


「ほしいのはその背にある玩具だよぉ!!」


 どこまでも暗く、いびつな男にイストは異様な圧迫感を受けつつも……怒りでそれを抑え込み。腰の短剣を抜いたのだった。

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