閑話:エキドナの実力試験~変態と真司の不幸を添えて~ 前編
※令和4年4月24日に改稿されました。
「で、僕の相手は誰なのかな?」
ウェイランド鍛冶国家にある探索者ギルド本部。
その試験場でエキドナは不敵な笑みを浮かべた。
探索者としての登録はすでにノルテリア村で可能なのだが、昇級や荒事の依頼を受けるには相応の実力が求められる。ということで弥生達が生活基盤を作っている間に面倒くさいことを済ませてしまおうとエキドナが行動した。
しかし、いきなり訪問してすぐに実力試験を受けさせろと言っても……都合よく相手をしてくれる試験官がいるとは限らない。
当たり前であるが予約が必要なのである。
だが、受付の男性が『今日であれば……空いてる事は無いんですが、日が悪いというか』などと歯切れが悪い返事を返してきた。
当然エキドナは、今日受けるよっ!! と受付さんの様子も意に介さないで主張してしまった。
その判断には並の相手には負ける気がしないエキドナの自信がある。
「あの、防具や武器は……使われないんですか?」
審判役の男性職員がエキドナを心配して声をかけた。
「うん? ああそっか。ありがとうね、僕身軽さが信条だからあんまり使わないんだよ。相手によってこの箱の中身を使う位かな」
一抱えほどの大きさのアタッシュケース。
これがエキドナの切り札でもあり、本気の証だった。
戦うのが前提の場合には携行するが……今の所お試しで使って以降、出番はなかった。
「エキドナさーん! がんばれー!」
「エキドナ姉、手加減しなきゃダメだよ!」
「エキドナおねーちゃん! ケガしないでねー!!」
試験場の控え場所から飛ぶエキドナへの声援、もちろん上から弥生、真司、文香である。
この3人は何しに来たのかというと単なるにぎやかし、あくまでも今回はエキドナが主役だ。
「へっへー、おねーさんの勇姿をその目に焼き付けるんだぜぃ!!」
左腕を水平に、手元はピース! 右手を腰に当てて。さん、はい!
ばちこんっ!! と……うざいレベルMAXのウインクを決める。
…………エキドナが絶好調だったのはここまでだった。
「吾輩が試験官のフレアベル・ウザインデス三世であるっ!!」
ぴちぴちでへそ出しのラメ入り白タキシード。
整髪油でてっかてかのオールバックは黒髪で……そのテカリ具合からGを連想させて……気持ち悪い。
挙句の果てに高い身長とボディビルダー顔負けの筋肉、本人はおそらく洒落者を気取っているのだろうが……動くたびにみちみちと躍動する筋肉が果てしなく不気味だ。
名前もウザインデスと名乗ってしまっているし、その場にいた全員が意識を別次元に旅立たせてしまいそうだった。
「…………チェンジで」
ぽかんと間抜けに口を開いたエキドナはそれだけを告げる。
そしてなんで今日は予約が入ってなかったのかを正しく理解した。
それはそうだろう、こんなのと正気で試験などできようはずもない……
「はっはっは! 今日は吾輩しか試験官は居ないので大人しくかわいがられるである!! 巨乳幼女は吾輩大変お得なのである!! くんずほぐれつだとなお良しであるっ!!」
「………………チェンジで」
「今なら試験後のマッサージも吾輩丹精込めて施すのであるっ!! もちろん全身隈なく!! ちょっと大事なところも触るかもしれないがそれもまた吾輩役得!! ほとばしるのであるっ!」
「ちぇんじだっつーの」
弥生達には間違っても見せちゃいけない笑顔でエキドナが吐き捨てる。
「老い先短い吾輩の楽しみであるっ!! 寝所までコースもあるよ!!」
全身をぴったりと覆うタキシードと肌の隙間……どこの部分かとは言わないが宿の予約表を取り出してこれ以上ないほど恍惚な笑みをエキドナに向けるウザインデス三世。
ちょっと何かで湿っているのが生々しい。
「…………わかった。もういい、審判さん、僕も、ちゃんと、装備、トトノエル」
ウザインデス三世が出現してから絶句している弥生達は見た。
エキドナの肩から陽炎のような靄が立ち上っているのを……しかも幻覚じゃない、その背中からぷしゅーっと白煙も排出している。
「ねえちゃん、あれって……」
「排熱だと思う……」
「おにーちゃん、あのおじさんへん『文香! お菓子買ってあげるから外に行こう!! 速やかに』」
「だめであるっ!!」
まさかのウザインタラプト。
試験場のありとあらゆる出口が封鎖される。
がしゃんがしゃんと鉄格子まで下りてしまって……地下闘技場かここ。と弥生が頭を抱えた。
「いいよ、弥生、文香、真司……僕が君たちを護るよ」
一周回ってエキドナの感情がどうにかなってしまったのか……溌溂とした、それでいて穏やかな天使の微笑みを浮かべながらの宣言。
「いい! そのほほえみ吾輩ねっとり愉しみたい!! 最近妻も相手をしてくれないからっ!?」
そっかそっか、大変だねえ……と相槌を打ちながらエキドナはアタッシュケースのロックを解除する。
軽い音を立てて開かれたケースの中にはエキドナ専用装備が整然と収められていた。
「むうっ! 面妖な箱であるっ! 肉と肉のぶつかり合いを吾輩所望! きっと挟まれたらちょっと油断しちゃうかも、何年振りかっ!! ははは!!」
「そっかそっか」
まずエキドナが手に取ったのは銃だった。
それもただの銃ではない、生体認識で登録されたエキドナだけが使える銃。
総弾数6発+1発、口径50、オートマチック拳銃。
ついでに三点バースト射撃可能。
それを丁寧に薬室をチェック、弾倉を入れて……安全装置を解除する。
「ギブアップは認めるのであるがその場合は吾輩から猫耳しっぽ装備を進呈するのである!! きっと似合うである!! 難点は胸のサイズ的に零れ落ちるかもしれんのであるが! それはそれでさいっこうなのであるっ!!」
「そうかいそうかい」
次に取り出したのはまあるい形の爆弾。
安全ピンが刺さってるので今は爆発しないが、火薬と一緒に小さな鉄くずを混ぜてあるので殺傷能力は折り紙付きだ。
あまりにも強力なので家族が近くにいると使いづらく、なかなか使う機会がなかった一品。
それを腰のベルトに吊り下げる。
「さらに今ならウザインデス家の家紋入りレオタードをサービスするのであるっ!! 家紋の都合上大事なところは手で隠す仕様であるっ! 吾輩ほどともなれば堂々と! 堂々と見せつけるのであるが!!」
「すごいすごい」
さらにエキドナは毒を仕込んだナイフと反応炸薬装甲を加工した手甲を黙々と装備した。
動きが阻害されるのを嫌がってワンピースの端を遠慮なくナイフで切り裂き、結んでベルトに止める。
いつもはふんわりとなびかせている金髪も、先ほど破ったスカートの布で後ろにくくり……弾倉ベルトを両足の太もも部分に巻いてありったけの弾倉をぶち込んでいく。
「ぬふううううぅっ!? ナ、ナント! 白、白であるか!? ぜひそれを金貨10万枚で吾輩に売ってもらえぬか!! 昼食に――ぬ?」
準備完了。対人戦用エキドナが出来上がった。
普段は生体パーツで覆われた肌の一部がかしょんと開き、排熱のために蒸気を噴き上げる。
その様子にさすがのウザインデス三世も何かを感じ取ったのか、言葉を止める。
息の根も止めておいてほしいと全員が思っているが。
「バンカーツク共和国、王宮警護主任……エキドナ・アルカーノ。これより駆除を開始するよ。IFF(敵味方識別信号)は破棄でいいね、目標1……」
「あのー何をしてらっしゃるのしょうか?」
ようやくウザインデス三世がエキドナが怒っていると気づいたが時はすでに遅かった。
「えっ!? 汚物はね? 消毒しなきゃいけないんだよっ! きらっ!!」
きゃるんと片足を上げて、左手を水平に、親指を下に。
首を掻っ切るしぐさと共に、エキドナのてへぺろが合図となった。




