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統括ギルド改め『闇を覗く覚悟はあるのか』③

筆が乗りました、休憩潰れましたが満足です!!

「やべぇ……はぐれちまった……ヤスリンが居ねぇと仕掛けが見破れないぜ」


 荷物を預かった子供と見た目が全く同じ子供が案内役で反対側から出てきて……恐怖に負けて走って弟分のヤスリンとはぐれてしまったアニキサス。

 彼の心配はしていないのが彼らしいと言えば彼らしい、とりあえず入り口で数分待っていたがヤスリンが戻ってくる気配がなかった。どうしようかと思案する彼の耳に、小さな声が届く。


「……ぃよう……るしぃよう……」


 それはちょうどアニキサスが向かうべき先、お化け屋敷の区画の中から聞こえてくる。

 はっきりと聞き取ろうと思えば進むしかなく、耳を閉ざそうにも絶妙にノイズとして響くその声に彼はたじろぐ。


「こ、ここで進むとなんか出てくるんだろう? ふ、ふふふ。ここで行かねぇのが俺様だ」


 強がるアニキサスだが、こういう事に全力を注ぐ弥生に死角はなかった。


 ――ぱさり


 後ずさりするアニキサスの足元に一枚の紙がどこからともなく落ちてくる。反射的にその紙を拾い上げたアニキサスが紙を見ると何か書かれている。しかし、薄暗い今の現状ではその文字を目で追うのが困難だった。

 仕方なく灯りを探すアニサキスの目に留まったのは暗幕がかけられた廊下の窓、よく考えれば真は昼過ぎだ。暗幕を開ければ文字を読む程度の灯りは手に入る。


「へへ、持ち込まなければルール違反じゃねぇしな」


 確かにその通りなのだが、アニキサスはもう少し先まで見ておけばよかった。

 一番手前の窓は確かに暗幕で光を遮っているのだが、等間隔で並ぶ他の窓には板が貼ってある……。


「さて、何が書かれているのか……」


 しゃっ……


 暗幕を適当に開いて明るさを確保したアニキサスが紙に書かれている文字を読む。

 そこにはとてもきれいな字で『もう逃げられない』……ただそれだけが記されていた。


「はっ……こんな子供だまし、誰がビビるかって」


 ――カツン


「ん?」


 ふと、窓の外から何かが当たる音が聞こえた。

 アニキサスが手の持った紙から目線を窓の外に向けると脚があった。


 だらりと力なく垂れ下がる足、その足は見慣れた統括ギルドの男性用制服を身に着けており。こげ茶のズボンは黒く変色していた……だが、アニキサスが動きを止めた理由はそこではない。


「あ、あ……」


 下半身、人間が人間として認識できるために通常備わっている上半身がどこにもないのだ。

 鋼鉄製のフックで太ももの辺りをくくられて窓の外に垂れ下がっていた。


「あああ!」


 しかし、次の瞬間。唐突に窓の外は闇に閉ざされる。

 そこには何も映っておらず。裂けるほどに口を開き、目をむくアニキサス自身の顔がガラスに反射していた。


「あ、ああ。脚……脚だけ」


 一歩、また一歩と後ずさり。今見た内容をアニキサスは反芻する。

 あれが作り物? 血が滴っていたし、白い骨のような物も見えていた。


「そんな……」


 まさか、と思いつつも否定する材料を見つけられず額の汗を手で拭うアニキサス。

 数歩下がった所で右足の踵がこつん、と何かに触れる。恐る恐るアニキサスが足元に目を向けると手があった。


「え?」


 その手の先は当然肩に、首に、顔につながっており。

 その額には……ナイフが刺さっていた。当然、呼吸もしてなければ動きもしない。

 いくら冒険者とはいえ、ほんの数十秒前に自分が立っていた所にこんなものが転がっていれば即座に気が付くし。こんな状況でなければここまで狼狽したりしない。


 だが、決定的なトリガーになったのは……腰から下だった。


 わさわさと手のひら大の蜘蛛がたかっていた……。我先に、その肉を、骨を貪ろうと数十匹の蜘蛛が一心不乱に生々しい咀嚼音を立てて喰らっている。


「ぎゃあああああああああああ!!」


 もう無理だった。アニキサスはそれほどメンタルが強くない。年下で自分より弱いヤスリン相手ぐらいしか強気で出れず。魔物討伐に出れば少し数が多いと怖気づき、戦略的撤退とこじつけてはギルドに戻り大群だったと嘯く。


 そんな彼はたとえ作り物であったとしても無理だった。

 脱兎のごとく逃げ道もわからずただただ暗い廊下を這う這うの体で駆け回り、途中に立つ得体のしれない人影や闇を這いずる何かに怯え、息を切らしてただただ走る。

 視界はとっくに涙でにじみ、向かう場所すらわからず。曲がり角で足を滑らせてようやく壁にぶつかり動きを止めた。


「やず……リン……」


 そんな自分にいつも付き従っていた弟分が居ない、それをこんなに心細く思ったことはなく。

 軽い気持ちで挑んだこのお化け屋敷が触れてはいけないものだったとようやく気付いた。


 ――りない……


「ちきしょう!! 今度は何だってんだ!?」


 か細くとも、耳にこびりつくような……縋るような声。

 その女の声は曲がり角の先にあるほんのりと青い光の先から聞こえた。


「いやだぁ……帰してくれよぉ」


 鼻水と涙でぐしょぐしょになりながらもアニキサスは這いずる。

 もうすでに腰が抜けているのだ。もう、金貨なんてどうでもいい。あの光の所に誰かが居て、きっとその相手にリタイアを申し出れば出られるだろう。そんな期待を込めて、一生懸命に腕を動かす。


「たのむぅ……もう、リタイアさせて」


 ずり、ずり、と遅々とした動きで光へ飛び込む蛾のごとく誘われていくアニキサス。

 しかし、恐怖はそこにあった。


「かえる、のぉ?」


 がばぁ、とアニキサスの背中に何かが覆いかぶさる。

 場違いな花の香りとサラサラの髪の毛、視界の端に揺れる紅い紅いドレスのフリル。


「リ、リタイアだ!! リタイアだぁ!!」


 おなかの底から絞り出した悲鳴交じりの降参、そうして振り向いた先には大きく白いマスクをした見目麗しい女性の顔があった。


「わかったわぁ……でも、条件があるの」

「じょう、けん?」

「私……綺麗?」


 アニキサスはまじまじとその女性を見て、素直に言い放つ。


「キレイ、です」


 そして、彼女はそれはそれは嬉しそうに……ゆっくりと、白いマスクを外していく。

 そのマスクの下は耳元まで覆われていた。


「本当に……きれいぃ?」


 耳の下から耳の下まで、まるで三日月のように口角が裂けている女は……嗤っていた。

 アニキサスの記憶はここで止まる。


 暗がりに潜む者たちの吐息の中で……

 

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