そろそろ始まりますけど……何してんのかな?
「何これ」
弥生が普段通り統括ギルドへお仕事に行こうかと言う朝の時間。小包が玄関に置かれていた。
正確には大体150cm四方の直方体を何か柔らかい布でくるんだ物の様で。当然ではあるが弥生はこんなものを玄関に置いた記憶はない。
「おはよう姉ちゃ……何これ」
ぼへらぁ……とあちこちに跳ねた髪とだぼだぼのパジャマで通りかかった真司もその箱(?)にすぐ気づき……姉の顔を一瞥して、何事もなかったかのように洗面所へ向かう。
「……なんで今、私の顔見てからスルーしたの? あの子」
聞くまでもないからである。
「何だろう……一回キズナに見てもらった方が良いかな? 夜音ちゃんと糸子さん、ギルドに泊まり込み中だし」
得体が知れない……そもそもいつ置かれたのかが分からない。例えばノルトの民、コストだったら弥生が居る時間帯に来てくれる。他の配達員さんでも何も言わずにおいていくことは無い。
クワイエットなどが一時的に荷物を仮置きするにしても、何も玄関先に放置する必要性はないはずだ。
「うん、怪しいし呼んでこよう」
考えれば考えるほど怪しいこの箱はやっぱり見てもらった方が良い。そう判断した弥生が踵を返してキズナの寝ている部屋に向かった。その数秒後……
――がたごと
ほんの僅かに中のナニカが動いて揺れた。
――数時間後
「だからさ、お前やっぱりあの家から家出しちまえよ……戦い絡まなきゃマジでマトモじゃねぇかよ」
「嫌ですわぁ……ほとばしる血肉あってこそのウザインデスの血筋ですもの!」
「ダメだよキズナ、あのド級の〇態……白ラメあっるぅ! を内側から止める人がいないと」
「ちっ……あの筋肉野郎か。姉貴も居ねぇし勝てる気がしねぇ」
仲良く姦しい同世代女子組(一人は以下略)がお昼ご飯を食べに家に戻ってきた。本日も快晴で町ゆく人々もギルド祭と言うイベントを迎えるにしてはのんびりと過ごしている。
それは一重に弥生をはじめとする統括ギルドの書記官、そして各ギルドの長が慌てることなく準備を粛々と進めているから。その成果が町の日常にも反映されてきてるという事なのだ。
「ご安心くださいませ。お兄様には申し訳ありませんがこのマリアベル。生まれて初めてのギルド祭参加に高揚感が抑えきれませんの! おとなしくしててもらいますわぁ」
「お、おう……お前がやるなら俺が心配する事じゃねぇや。頼むぜ」
そう、弥生がマリアベルを引き入れた理由の一つとしてはフレアベル対策でもあった。洞爺が以前、マリアベルと戦った時にフレアベルよりも強いと聞いた。そして、フレアベルと違い最初は会話が成立したこと。そしてミルテアリアにいる彼らの兄弟、マトモナさんから聞き取りをした結果……もしかして友達になれるかも!! と文香を連れて尋ねたところ……意外と大丈夫だった。
「お前がこっち側についてくれて助かった……」
「まさかキズナが筋肉苦手とは……」
「迂闊に本気が出せませんわぁ……」
「俺の視界内で本気出すんじゃねぇぞ……マジで俺泣くからな?」
「「か~わ~い~い~」」
弥生とフレアベルが両手を合わせて萌える。涙目のキズナは普段とのギャップが天と地ほども離れていて二人ともすっかり虜になっている。本人は不本意なのだがこういうのは本人にはどうしようもできない事だった。
「はあ……あん? おい、弥生……あの箱まだあるぞ? どうする?」
ため息をついたキズナが家の玄関先に置かれた箱に気づく。
朝に弥生が見た時と同じようにぽつんと鎮座している。
「……本当だ。どうしようか?」
「後にしませんこと? お腹がすきましたし、文香と真司の分のお弁当も持って行かないと」
「……お前、そういう所は本当に常識的だな」
マリアベルの提案で後回しにする判断の三人、そのまま箱の横を通り過ぎて家に入り。台所に忘れていった文香と真司のお弁当、それから余り物のベーコンなんかを適当に焼いて挟んだ手抜きサンドイッチを持って再びギルドへと戻る。
――へくちっ
箱の中ではささやかなくしゃみが木霊していた。
――ゆうがた、からすがなくのでかえるころ
「糸子さん、やっぱりあの衣装だとこぼれない? いろいろ」
「でもでも、マミーさんはお化け屋敷の必須キャラですよ~?」
「糸子さん『が』やる必要は無いでしょうに……せめて化け猫とか狼女とかにしてみない?」
「えええ……可愛いのにぃ」
「まあいいけど……あたしはろくろ首かな。菊姉の真似でお皿数えても良いけど」
「皆どこにいるのかなぁ」
数日ぶりにお化け屋敷の衣装を外部アドバイザー的な事をしている座敷童、家鳴夜音と。女郎蜘蛛、南雲糸子が家に帰ってくると汚い字で『○○参上!』と書かれている箱が目に入った。
玄関先のあまりにも邪魔になりそうな場所なのだが……二人はスルーする。
「絶対に白蘭はどっかで引きこもりの医者でもやってる気がする」
「女将さんは影宮ちゃんと百合百合してる気がするぅ」
噂をすれば影、そんな迷信だが怪異なのだからこれ以上わかりやすい呼び寄せ方も無かった。
そんな二人の鼻にじっくりと煮込まれたお肉の香りが漂い、たどり着く。
濃厚な酸味と辛みが薫る晩御飯を二人は一瞬で解析した。
「カレーだ!」
「お代わりあります!?」
旅館で仲居をしていた頃、毎週日曜日の夜はカレーだった。年がら年中お仕事なので曜日感覚を取り戻すための習慣だったが……百年近く続いたおかげで『絶品! 賄い仲居カレー!』とレトルト販売するまでになった。しかし、みんなで交代で寝てしまってからはご無沙汰で久しぶりのスパイシーな夕餉となる。それは妖怪もテンション上がりますよね。
――zzZ……zzZ……むにゃ
おかげで箱の中から聞こえる吐息は誰の耳にも届かなかった。




