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ギルド祭の準備をしよう! ⑧

「文香、吊り下げる紐どうする?」

「えっとねー……ジェノサイドくんにお願いしてるよ」


 初等部エリアでのお化け屋敷の仕掛けは真司と文香がメインに作っている。

 しかし、文香の仕掛けは姉である弥生のお友達である蜘蛛のおかげで……もうちょっと造型をリアルにすると子供が作った仕掛けとは思えないほどになってしまっていた。

 今も魔法士ギルドの仮眠室で使い古されていたベッドのシーツを二人で切ったり縫ったり、お化けの大軍団用の衣装を作っていた所。同じクラスの子達は飾りつけに使えそうな壊れた家具やボロボロの本を図書館などに譲ってもらいに行っている。


「……姉と妹が蜘蛛と心を通わせてる件について」

「お兄ちゃんも一緒に遊ぶ? かわいいよ?」


 そういう問題じゃない! 真司が心の中で叫びたくなるが文香に責任はなかった。

 長女である弥生が大体悪いのだ。きっとこのジェノサイドと名付けられた蜘蛛は弥生の可愛がりと言う名の英才教育で変に頭が良くなっている可能性が高い。


「可愛いとかの問題じゃなくて、使い魔をそろそろ選ばなきゃいけないから考えてるんだよ。三人そろって蜘蛛使いになってどうするのさ」


 さながらアメリカの某コミックに出てくる蜘蛛男よろしく、建物から建物へ飛び移る姉……その糸を編んでトランポリンにしてしまう妹。真司が最近頭を悩ませる事案である。

 エキドナの逃避行と言う名の迷子探しの旅に付き合うジェミニが戻ってきたら、ハンカチでも噛みしめながら泣いてしまいそうだなぁ……と。今からどう慰めようか考えていた。


「使い魔って……猫さんとか?」

「んー……飛べるのが良いな。カラスは嫌だけど」

「文香ニワトリさんが良い!」

「それ絶対に卵が目当てだろう? 僕の使い魔に何を求めてるんだよ文香は」

「非常食」


 迷いなく言い切る文香は逞しさであふれている。多分三人の中で一番したたかなのは文香、真司はそう思っていた。だって今でもちょいちょい木の実とか摘んでジャムを作ったり、おやつ代わりに食べた後、その種を家庭菜園コーナーへ埋めている。いくつか実際に芽が出てきて真司は大変ビビった。


「…………姉ちゃんより文香の方が矯正、必要なんだよなぁ」

「きょーせい?」

「ああ、良いの良いの。文香は心配いらないよ……僕が一人で考えているだけだから、そんな事より文香は楽しんでるか?」

「楽しい!」


 にぱぁ! と実に嬉しそうな文香の笑顔。


「それならよかったよ。あ、そこ縫い間違えてる……」


 ちょんぱ事件のあれこれにも文香は連れて行かざるを得なかったが、洞爺やエキドナが実にうまくフォローしてマイルドな伝え方をしてくれていたおかげで何の問題もなく普段の生活に戻った。

 むしろ姉とは違うベクトルの問題児になりそうな感じではあるが……


「うにゅ? どこ?」

「そのまま縫うと目が三つになるよ」

「……三つでいいんだよ? トーレちゃんのお目目三つだもん」

「あ、そっか……ごめん。僕の勘違いだった」


 文香はすっかりこの世界に馴染んで……馴染みすぎていたりする。

 友人の数だけでいえば真司や弥生とは比較するのもばかばかしい程に多い。ラミア族だろうが不死族だろうが文香は関係なく友達になった。


 なってしまうのだ。


「あらぁ? 文香、縫い物をしておりますの?」


 びっくぅ!! 

 唐突に話しかけられた文香への言葉に、真司が反応を示す。だらだらと脂汗が噴き出て……上品な花の香りが届いてくるのに合わせて真司の呼吸が荒くなってきた。

 

「マリアベルおねーちゃん!」

「いえーいですわ」


 ぱぁん! とハイタッチを決める妹と真紅のドレスの男の娘。

 そう、文香はマリアベルと友人なのである。


「おにーちゃん、お顔真っ青だよ?」


 文香が振り向くと今にも線路へ飛び込みそうな顔をしている真司と目が合う。

 妹的にはそろそろ克服してほしい。


「は、はは。そん、な……わ、けがないだ。ろ?」

「真司様……お痛わしいですわ」


 ここにエキドナか洞爺が居ればまた違ったのだろうが、真司の精神に根強く植え付けられてしまった恐怖はこの二週間程度ではまだまだぬぐえない。それでも三十分もあれば何とか普通の会話ができる程度にはなって来たのだ。


「マリアベルおねーちゃん、それなあに?」


 しばらくは放置するしかない兄を無視して文香はマリアベルが持っている籠に気が付く。

 ほのかに甘くて香ばしい香りが文香にも届いた。


「ガレットと言うクッキーですわ。あなたのお姉ちゃんにレシピを教えていただきましたの」

「わぁい! でも……なんで籠の布がちょっと赤いの?」

「それはクッキーにかからない様にするためでしたの」

「……マリアベルおねーちゃん、なんで左手に真っ赤な棒を持ってるの?」

「ちょっと追い返しただけですわ」

「……く、クッキー食べよ! マリアベルおねーちゃん!」


 これ以上、掘り下げてはいけない。

 文香八歳、悟る。


「ここに置いていきますから二人で召し上がってくださいまし。私はまだ仕事がありますのよ」

「そうなの? ありがとうマリアベルおねーちゃん!」

「ふふ、感想は後日いただきますわぁ! アデューですのよ!」


 ひゅばっとどこから出したのか、純白の日傘を開いて明り取りの天窓の向こうへ跳んでいくマリアベル。原理がさっぱりわからないけれども良いのだ。世の中には深く考えてはいけない事があると文香はマリアベルを通して学んだのだから……。


「……お兄ちゃん、食べよ?」


 一応、現実逃避中の兄に声をかけてみるが反応はない。あっては困る。

 だって……


「お兄ちゃんに声はかけたけど。反応がないから仕方ないよね! いっただきまーす!」


 ぽりぽりと優しい甘さのするクッキーを頬張る(どくせんする)ために。

 こうして弟、妹コンビもつつがなく準備を進めるのだった。

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