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ギルド祭の準備をしよう! ⑥

 準備は順調だった。

 ベテラン書記官達にオルトリンデの身柄を預け、宰相からギルド祭に関する全権を委譲された弥生は実に有能だった。予算を常識的範囲で決め、各書記官が楽しめるよう企画を決め、集められた実行委員会のメンバーを先輩が支え、それと並行して各ギルドの出し物を管理していく……その手腕は関わった全員が認めるしかなかった。


 唯一難点があるとすれば……。


「弥生さん! 外壁を蜘蛛で登ってこないでください! ちゃんと正面玄関から入ってきてください!! 子供が真似しようとするんで―!」

「ごめーん! ちょっと急いでたのー!」


 蜘蛛で建物の外壁や屋根を飛び回る事や。


「弥生、建築ギルドと魔法士ギルドが出し物の境界線について喧嘩してるから仲裁してだって」

「おっけー、キズナ。ゴム弾と閃光弾装備で行くよっ!」

「おう、晩飯まともに食えると思うなよっ!」


 屈強な建築ギルドのギルド員ですらあっさりとおとなしくさせられてしまう個人武力である。

 先日は酔っぱらった獣人族同士の喧嘩を護衛の金髪美少女、キズナが一瞬で気絶させてしまった。そんな彼女らの働きを王城の一番高い物見やぐらの中からクロウは見ている。

 

「まあ、お前の若かりし頃とそっくりだ。将来が楽しみだな本当……」

「苦々しい顔して頭掴むの止めてくれませんか? 宰相閣下」

「私の秘蔵のワインを勝手に飲んだ罰だ……本来なら氷漬けにしてやりたいくらいなんだが」

「それはそれは……ちょーうまかったですよ!」


 寒風吹きすさぶ、とまではいかないが今日は風が冷たい。そしてクロウの表情も冷たかった。

 ついうっかりこの国ナンバー2を魔法の氷に閉じ込めてしまいたい、と思ってしまうほどに。ここ数日……何十年かぶりだろうか? どこかのできる幼女が宰相の執務室に居座り酒を飲んで王の食事をつまみ食いして彼の仕事の邪魔ばかりするのだ。

 

「……オルトリンデ、旧友として一応言っておく。拗ねた時にまず私を巻き込んでストレス発散するの止めろ? 50年もこのやり取り続くと思わなかった」

「だって……だってぇ!!」


 宰相のローブの端っこを掴んで涙目オルトリンデを手慣れた様子でクロウは引っぺがす。

 そのまんま片手で眼前まで吊るし上げるとぷくぅ、とほほを膨らませたオルトリンデに目を合わせてため息を一つ。ここは妥協するか、とクロウが折れた。


「わかったわかった、アルベルトの所で今晩飲もう。まったく、手が離れたらいいのにとあれだけぼやいてたくせに、いざ手が離れたら寂しいとか……子供か? あ、すみません……子供だった。主に身長」

「クロウ・バトネード……鬼籍に入る覚悟はできてますね?」

「名前の通り苦労はしてるが覚悟はしてない。本当に仕事にならんから一旦離れろ……私は私で幼少部の歌のお稽古があるんだから。お前も初等部での演劇があるだろう?」


 ちなみにクロウは保育園に相当する統括ギルドの幼少部の先生でもあるのでギルド祭では歌の発表会をする。オルトリンデに構ってる暇など本来無い。

 

「ううう……そっちも文香がぁ……」

「秘書官の妹か……」


 なんかもう徹底的にオルトリンデに準備をさせないと根回しがされている。

 ある程度手を抜いて、徐々に後進に任せているクロウと違いオルトリンデは一気にそれが進んだだけなのだが……急すぎてオルトリンデも受け入れられてなかったりするだけだ。


「最近一日が長いんですよ……」

「良い事じゃないか。年を取ると一日が短くてしょうがない」

「手持無沙汰だって言ってんでしょうが!? わかりなさいよ幼馴染!?」

「だったら答えもわかるだろうが!? 俺の仕事の邪魔をすんな外見幼女!!」

「中身も若いんですぅ―!」


 こんなの間違っても弥生達には見せられないやり取りをするこの国の重鎮の二人。

 見ていても動じないのはこの国では限られている。


「おい、いい加減に蘇生してこの暴走幼女を止めてくれないか? お前しかこいつに命令できる奴が居ないんだからこの国で」

「アルは私の味方ですよねぇ!? ほら起きてこの薄情宰相に辞令をくれてやりなさい! 冷たい床に倒れてれば、助けてもらえると思ってる場合じゃないんですよ!」


 限られているというか、冷たい床に倒れて白目をむいているアルベルト国王だけであった。

 流石に高い所に来るので動きやすい服を着ているが……その高級な服とは裏腹に、浮浪者のような疲労感を浮かべている。


「おま……え、登ってきて挨拶代わりに俺を殴ったくせに……」


 ひでぇ幼女が居た。


「アルベルトが元気そうで腹が立ったんです!!」

「お前、本当に三人でパーティ組んでた時に精神戻ってやしないか?」

「クロウ……忘れてるかもしれないが……俺に回復魔法かけてくれると助かるのだが……」


 薄情な宰相も居た。


 本来なら周りが卒倒するかのような三人の様子ではあるが……通りかかる衛兵も、お使いに通りかかった不死族のメイドも、楽しそうなその三人の声に気づきながらも聞こえないフリをしてそれぞれギルド祭の準備へと向かう。記念にして新たな走りだしとなるであろうお祭りへ。

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