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ギルド祭の準備をしよう! ①

「と言う事があったんだよ。酷いと思わない?」

「全然わかんねぇよ……端折るなよ説明。言葉足らずは姉貴だけで十分だぜ」


 段々と風がひんやりとしてきた今日この頃、統括ギルドの食堂で二人は並んで座っていた。

 お昼ご飯のおにぎりと昨晩の残り物である肉じゃがをつつきながらキズナが弥生をたしなめる。

 いまだに鼻の頭が少し赤い彼女に、キズナが心配して何があったのか聞いてみたのだ。


「まあ、結局取れなかったんだけどね」

「ふーん、弥生。ちょっと顔向けてみろよ」

「うん」

「…………」


 キズナも目を凝らしてみれば弥生の額の棘は確認できる。

 こんなものが抜けなかったとは信じがたい所、キズナは何気なく棘を弾き飛ばすようにデコピンしてみた。


 ――ぺちんっ! ぽろん……


「あいたっ!?」

「お、取れた」


 糸を巻き付けて引っ張っても取れなかった棘はあっさり抜け落ちた。

 その棘は律儀にジェノサイド一号君が糸で絡めとって回収する。弥生のおでこには赤い跡が残されたが、確かに棘の存在を意識してから弥生が感じていた違和感が消える。


「え? あ、ジェノサイド一号君」

「なげぇよその名前……ジェノでいいじゃねぇか」

「あ、うん。抜いてくれてありがと」

「どういたしまして、だ」


 手のひらをひらひらさせてキズナがおにぎりの制覇に戻った。

 あまりにも簡単すぎる幕引きに弥生は戸惑い、後で牡丹と夜音に話そうと考える。もしかしたら身体に何か変化があるかもしれない。

 

「とりあえず、午後から監理官の所だろ? ギルド祭の会議だって言ってたが……あたしの出番あるのか? ドンパチ以外役に立てねぇんだけど」

「大丈夫、ちゃんとキズナの役目もあるよ」


 この時、キズナはちゃんと弥生にどういう役目でどういうことをするのか聞いておくべきだった。

 それでも回避できなかったかもしれないが、覚悟ぐらいはできたかもしれない。それはさて置いて、キズナは頬張ったおにぎりの残りをお茶で飲み下し、気の抜けた笑みを浮かべる。


「ま、姉貴が戻るまでのんびりするさ。銃弾の確保もできて偶に狩りもできるから退屈しないしな」

「あんまり景気良く消費されると足りなくなるよ?」

「安心しろよ、別に銃だけがあたしの武器じゃねぇし。コストだっけ? あのデカいのから良い鍛冶屋を紹介してもらった」


 追って追われての生活から解放されて約一か月、最初こそゆったりとした風土のウェイランドになじむか姉であるエキドナに心配されていたキズナはすっかりリラックスしていた。そもそも敵意や殺気の類いに敏感なのはキズナの方である。

 今まで気が抜けない状況下にずっと晒されていたので過敏ともいえる反応が日常化していた。それがこの国は城壁内で争いごとがほとんど起きていない、自然とキズナも警戒度を下げていてよほどの事がない限り自分から突っかかる事などなかった。


「そういえばキズナの刀って洞爺おじいちゃんの刀より短いよね……小太刀、だったっけ?」

「ああ、よく知ってんな。ママの刀のちょうど半分くらいだなあたしの刀」


 それに身近な同年代が弥生なのだ、無警戒の塊のような子なのでキズナにあれこれ物怖じせず連れまわしていてすっかり打ち解けている。


「エキドナさん、今どこら辺だろうね」

「さあな……姉貴の蜘蛛嫌いは筋金入りだけど、その内ひょっこり戻ってくるさ。すげぇ可愛いのになこいつら」


 手のひらを弥生の方に向けるとジェノサイド一号君が軽快な動きで飛び乗ってきた。そのまま屈伸運動なのか何なんなのか意味不明なダンスをしながら愛嬌を振りまく。

 大きさも小指大で弥生の髪の中が定位置らしく、偶に勝手に彼女の髪形をポニテにしてみたり退屈しない日常を手に入れていた。


「キズナは平気なの?」

「こんなのいちいち怖がらねぇよ、あたしもこういうペットが一匹ほしい位だ。パパが猫アレルギーでママが犬アレルギー……姉貴は知っての通り蜘蛛嫌い。困ったもんだぜ……」

「それはご愁傷様。そうだ、ギルド祭で里親募集の展覧会を毎年やってるらしいから見に行く? 案外猫でも犬でもない可愛い子が見つかるかも!」

「……良いなそれ。考えとく」


 そっけない言い方だったが、キズナの口元が緩んでいるのを弥生は見落とさなかった。こう見えて案外可愛い物好きだという事を本人は隠しているようなのだが弥生と文香にはすっかりバレている。


「じゃあ午後からの会議、しっかり乗り切りますかぁ……」


 んーっと背筋を伸ばして深呼吸する弥生。キズナも残りのお茶を一気に飲み干して手際よくテーブルの上を片付けていく。

 

「そうだな、あたしはどうからかってやるか……ちぃとばかり派手にやってみるかな」

「……クワイエット、そろそろ胃薬処方されちゃうよ?」

「はっ! あの程度で胃薬とか軟弱だぜ? うひひ、今日はゴム弾にするかな、それとも粉塵爆発にしてやるか? あの頭をアフロヘア―にしてやるぜ」


 先日のちょんぱ事件の後、クワイエットは自主的にエキドナと洞爺に師事を仰いでいたのだが二人とも現在ウェイランドを離れているため二人の推薦でキズナがクワイエットを鍛える事となったのだが……現代兵器と近接戦闘の申し子である彼女は圧倒的な戦闘力でクワイエットを手玉に取っていた。

 しかも罠などの配置もとんでもなくいやらしい配置と種類を熟知しており、ベルトリア共和国の衛兵さんは良くキズナを一時的にとは言え拘束に成功したとクワイエットは感心している。


「……この間は三階から吊るされてたね。あんまりいじめちゃダメだよ?」

「あいつ根性あるし、同じ手が通じねぇから面白いんだぜ。姉貴が戻るまでに一端のゲリラ兵に仕立て上げてやる」


 とんでもない子に目をつけられたというか目をかけられたクワイエット。実は急激に実力が上がっていて隠密衆の中ではすでに回避力だけはトップクラスだったりした。そもそも魔法ありきの戦闘法が染みついていたクワイエットに対してキズナの戦い方は泥臭く、地道で、なおかつ合理を徹底追求する方法。新しい刺激でクワイエットに何かが目覚めたのかひたすら愚直にキズナに鍛えられている。


「……ねえ、キズナ」

「あん?」

「クワイエットって隠密であって兵隊さんじゃないからね?」

「隠密もゲリラ兵も似たようなもんだろ?」

「……まあいいか」


 弥生もどこに向かうのか分からなくなってきたクワイエットさん23歳であった。

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