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弥生の新しい乗り……友達!

「無理だ」

「無理ね」

「無駄ね」

「無理だよおねーちゃん」

「無理だよ姉ちゃん」

「三人目!! しれっと混ぜるな!?」


 クワイエット、夜音、牡丹、文香、真司が順番に断じる。

 三人目だけが混ぜた別な一言には、弥生が律儀に突っ込みを返したが……概ね総意はくつがえらない。だって今まで何度かこの企画を立ち上げたが何人もの猛者が崩れ落ちる結果しか得られなかったんだもん。


「だって姉ちゃん、どう頑張っても文香に50メートル勝てないじゃん。いい加減諦めてジェミニが帰ってくるまでおとなしくしておこうよ」

「甘いわね真司! 私は今をときめく秘書官なのよっ!! おいでませ!! 我が相棒、ジェノサイド一号君!!」


 ぼふん!!


 弥生の髪の毛に隠れていた小さな蜘蛛がぴょん、と飛び降りて煙幕と共に巨大化する。

 丁度人一人が乗れそうな大きさになって器用に前脚を『やあやあ』とフレンドリーに挨拶をするかの様にゆっくりと振るのは……なんかシュールだ。


「糸子さんの眷属じゃないの、弥生……あんたとうとう蜘蛛まで乗り物にしたの? まあ、本人(?)が喜んでるから良いんだけどさ」


 夜音が身も蓋もなく正体を看破するが関係ないねっ! と言わんばかりに蜘蛛、ジェノサイド一号君はくるくると踊り始める。非常に軽快で警戒心など微塵もない。


「この子、もともと大きい蜘蛛さんだったんだけど。この街に住む以上小さくないと目立つから糸子さんファミリーに入って静かに暮らしてたんだって」


 そこで誰かのペット扱いなら、と蜘蛛を怖がらない弥生に白羽の矢を立てた。


「確かにノルトの民はともかく、こんなでかい蜘蛛が居たら普通は驚くわな……数日前に秘書官執務室で目撃された謎の大蜘蛛はこいつか……お仕事終了。報告書には『原因:秘書官』とだけ書けばいいか。仕事増やさないでくれ弥生秘書官」

「オルちゃんも知ってるはずだけど?」

「俺は王城の隠密でもあるんだよ。まったく、蜘蛛を見て不死族が気絶とか何の冗談だったんだか」


 ちなみにその不死族さんは王城の夜間メイドだった。


「とりあえずその蜘蛛……ジェノサイド一号でいいんだっけ? 姉ちゃん別に運動しなくてもいいじゃん。ジェミニは怒り狂うだろうけど」

「ジェミニが? なんで?」

「……まあそっちは良い、名前はそれでいいの?」

「ジェノサイド一号、かっこいいでしょ!」


 ねえよ。誰もが……文香ですら心の中で呆れている。

 真司と文香はそもそも承知の上だったりするのだけれども、姉のネーミングセンスは壊滅的だった。父親の一番引き継いじゃいけない所は長女が丸ごと受け継いだ。


「本人たちが良いなら、外様(とざま)がとやかくいう事じゃないわね。それより運動なら弥生はしてるじゃない。全然身についてないんだけど」


 夜音が言う様に、ここ一か月ほどは弥生が自主的に筋トレや走り込みをしている。しかし……どういう訳か一向に足は速くならない、筋力もそれなり、スタミナは文香の半分以下である。


「……一度、施療院で見てもらうべきじゃないか? こう言っては何だが弥生は結構頑張って鍛えてると思うんだが……普通これだけ地道に継続していれば少しくらい足が速くなったりするもんなんだ」

「クワイエット兄……やっぱりそう思う?」

「一か月飽きもせず新兵訓練より真面目にやってる所を見るとなぁ……弥生の努力の問題と言うより身体を疑いたくなる」

「おねーちゃん、どこか体痛いところない?」


 クワイエットが神妙な顔で提案してきたので、さすがに夜音と牡丹も少し考えこむように真剣に考えてみた。振り返ってみればなんだかんだと弥生は活動的だ。

 先日のちょんぱ撃滅作戦では目立たなかっただけで、あちらこちらと裏方で動き回っている。しかもそういう時は意外と体力があるように見えた。


「体調はすこぶる良いんだけど……お腹いっぱい食べてるし、かなり熟睡してるし」


 自己申告ではあるものの、確かに全員から見て弥生は健康そのものだと思う。

 なんか全体的に少しふっくらした気がするし、お肌もつやつや、髪の毛だってなんだか綺麗にまとまっていた。


「やっぱり一度見てもらった方が良いんじゃないかな?」

「そうね、なんかおでこの辺りに変なものが見えるから……取れるものなら取っておいた方が良いんじゃないかしら?」

「そうね、変なのがあるなら……え、ちょっと待って牡丹。今なんて言った!?」

「……弥生のおでこよ、なんか小さな針と言うか棘と言うか……見えない?」


 牡丹の言葉を信じて夜音が弥生の前髪を上げて目を凝らす。

 唐突に顔を近づけられてなぜか弥生の方が恥ずかしくなってるのだが、お構いなしで夜音がじーーーっと見つめていると……。


「お?」


 本当に小さな、角度次第では光が当たり光る物が存在していた。


「それよ、刺抜きでもあればいいんだけど。そんなに小さいんじゃ手じゃ取れないわ」


 牡丹の言うことはもっともで、爪では取れないだろうし下手にいじれば奥に入り込んでしまいそうだ。


「大丈夫、ジェノサイドがいるわ」

「ジェノサイド一号君だよ……」

「ほら、そこで踊ってないでこっち来てジェノサイド」


 右手でいまだくるくると、しかも新体操のリボン宜しく糸をたなびかせていた蜘蛛が夜音に呼ばれておとなしく近づいてくる。


「いい? 可能な限り縮んで弥生の額にある棘を抜きなさい。できるわね?」

「……(コクコク)」


 妙に人間じみた仕草でジェノサイド一号君はあっという間に小指の爪の半分ほどの大きさになり、ぴょんぴょんと身軽に弥生の服をよじ登る。


「おりこうさんだ~」


 そのままジェノサイド一号君は弥生の鼻先を伝っておでこに到着。小さな棘を前脚で掴んで引っ張り出した。しかし、頑固に食い込んでいるその棘はなかなか抜けず。奮闘するジェノサイド一号君をあざ笑うかの様にその位置に留まり続けた。


「抜けないわね……ジェノサイド、その棘に糸をぐるぐる巻いてこっち来なさい。二人で引っ張るわよ」

「え? ちょっと夜音ちゃん!? それ大丈夫なの?」

「何焦ってるのよ、たかが棘でしょ。さっさと取るわよ」

「や、優しくしてね?」

「はいはい」


 手際よく、ジェノサイド一号君が棘を糸でぐるぐる巻きにしておでこに添えられた夜音の右手首にその糸をつなぐ。単なる蜘蛛の糸ならば千切れるだろうがそこは妖怪化したジェノサイド一号君の糸、しっかりと強度を保っている。


「よし、引っ張るか」


 一メートルほど夜音は弥生から距離を取り、くいくい、と糸の調子を見る。それに合わせて弥生の頭が前後に振られるのだが……真司たちはある事に気づいていた。


「ね、ねえ……クワイエット兄、ちょっとおかしくない?」

「奇遇だな、真司……嫌な予感しかしない」

「あたしは文香と離れてるわね……多分、いや、なんでもないわ」

「おい、それもう何が起こるか予想ついてるんだろう? 止めろよ」


 ちなみに牡丹の予想通り、その棘は結局抜けず。

 引っ張られた瞬間、弥生の首がごきっ! と嫌な音を立てて床を引きずられることとなった。





「でしょうね!? そうなるって私だってうすうす気づいてたわよ!?」

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