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世界のルールを舐めちゃいけない ④

 ボルドックは憤っていた。

 その憤怒を炎に変えて、ただひたすらに呪いの念を込めて槌を振るう。


「一つ打っては仇のためぇ!! 一つ打っては滅びのためぇ!!」


 一振り一振りに絶望を詰め込むかの如く、一心不乱に打っていた。

 その相槌を作業服に着替えた灰斗が打とうと槌を持っているが……割り込む余地がないほどにその作業は鬼気迫っている。


「これ、私必要ですかね?」


 やっとこのような道具を使い、金床に真っ赤になった元愛刀を固定して。時たまボルドックが炉に突っ込みまた赤くなる鋼。先ほどから灰斗は肌がちりちりと焼ける暑さに耐え、石炭が燃える独特の匂いに辟易しながら見守っていた。


「貴殿の刀だ、きちんと居合わせるのが礼儀だろう? そこの銀色の粉を寄こせ、強度を上げる」

「あ、はい。これなんですか?」

「魔力を宿した鉱石の粉だ。強度と粘りを両立させる」

「そうなんですか……」


 ところ変われば素材も変わる、刀を扱う事には長けている灰斗だがその製造法に詳しいかと言うとそうでもない。ボルドックのような専門職にああだこうだと言えるような知識は無いので、そんなもんかと納得する。


「ついでに拙者の怨念も宿らせる」


 そうして放たれた何でもない一言にはさすがに看過できなかったのか灰斗は声を張り上げた。


「変なものいれないでくれませんか!? 俺をどうしたいんですかあんたは!?」

「案ずるな、ちょっと人が斬りたくなる衝動が抑えきれん。ドワーフだと特に、特別攻撃枠だな」

「妖刀打ってる顔じゃねぇよ!? 何その穏やかな笑み!!」

「形あるものいつか滅びる、拙者にはそれを見届けたいという欲求が抑えきれん」

「ドワーフの集落であんたに一体何があったんだ!?」

「あいつら辻斬りにでもあって全滅してくれんかなぁ?」


 かれこれ二日、集落へ行って帰ってきたボルドックは荒んでいた。

 それこそ戻ってきた直後など視認できるほどに黒い何かを背負い、物理的に目が真っ赤に光っていたのだ。


「大丈夫かな……私の刀」


 せめてまともに斬れますように、と心の中で祈りながら闇落ちしたボルドックの補助を続けるしかない灰斗である。一方そのころ、別な場所で夜ノ華と幸太郎、レティシアとバニが馬車を作っていた。





「夜ノ華、この板をそっちの金属棒と同じ長さに切ってもらえるか」

「わかったわ。何枚必要なの?」

「二十枚ほど……急がなくていい。レティシアさん、布は足りそうですか?」


 幸太郎は手元の紙にいろいろと書き込みながら夜ノ華たちに指示を飛ばす。

 レティシアがバニに針の扱いを教えながら器用に馬車のホロなどを縫い合わせていたりした。


「布は足りそうですけど……このままだと雨でびっしゃびしゃになりませんこと?」

「後で防水処理にかけるので今は良いですよ、縫い合わせる前にやると縫いづらいので……レティシアさんはともかくバニちゃんが」

「そうなんですの?」

「ええ、布が固くなるのと縫い目から水が浸み込んじゃうので」

「バニ、コレ、タノシイ」


 ゴブリンの集落に居た時にはできなかった体験に、バニが嬉しそうにわらう。お腹が大きいので椅子に座りながら黙々と目印に沿って針と糸を通す。


「ゆっくりでいいからね。気を付けてやってね?」

 

 幸太郎がそんなバニに声をかけた時、バニの手元が狂い左手の人差し指に針がちょっとだけ刺さってしまった。微妙に痛い。


「ウィ!?」


 それは小さな刺し傷だったが指先に真っ赤な雫ができてしまう。


「あらあら、ちゃんと手元を見てやらないと」

「ヘイキ、ナメルトナオル」

「ふふ、そうね……気を付けてくださいましね?」


 まるで娘が針を初めて持った時のような光景に、思わずレティシアの眼が細まる。今あの子はどうしているのだろうか? 多分困ってはいない、6歳ですでに夫の領地経営に口出しができるほど頭が良かったのだ。人のいる場所にいるのであればどうにかしてやっていけているはずだ。むしろ夫の方が心配である。


「はあ……アリスちゃんにアルフォンスは今どこにいるのかしら?」

「アリス、アルフォンス……」

「ん? ええ、アリスとアルフォンス。私の夫と娘ですわ」

()()()()、イッショ」

「そうそう……クロノアちゃんも……はい!?」

「アオイ、チイサナ、モフモフカワイイ」


 バニはにこにこと両手でふにふにと表現した。それはなんとなくリスみたいな形で、レティシアの知る限り青いリスでクロノアと名付けられた小動物はアリスのペット以外に知らなかった。


「……待ってくださいまし、バニ。どこで見ましたの!?」

「バニ、シマ。トオク」

「バ、バニの居た島ですのね?」

「ウン、アリス、マホウ、バニ、オソワッタ」


 どうやらバニが魔法を使えるのはアリスのおかげらしく、そこから推察するに彼女がバニに言葉も教えたんじゃないかとレティシアは感じる。


「バニ、教えてくださいまし。アリスは金? アルフォンスは茶色?」

「アリス、キン。ヒサメ、クロ」

「んんん!? ヒサメって誰ですの? バニ」

「ヒサメ、クロ、バインバイン。ゴハンヘタ……ツヨイ、デモ、ヤサシイ」

「……アルフォンスはいませんでしたの?」

「アルフォンス、バニ、シラナイ」


 忍耐強くレティシアはバニからできる限りアリスの事に絞って話を聞き出す。

 幸い夜ノ華と幸太郎は離れた場所で馬車に使う木の板などを切り出していたりと、レティシア達の方に意識は向いていなかったので布を縫い合わせつつもゆっくりと聞き出すことができた。


「……なんとなくわかりましたわ。バニさんはアリスと会って、ゴブリンに生贄にされる寸前でアリスとその同行者であるヒサメさんに助けられた。場所はかなり遠くの島……アリスは私たちを探している……と」

「レティ、アリスノハハ?」

「ですわ……バニさん。ありがとうございます、娘はちゃんと生きてるのですね。かなりうれしいニュースですわ」

「アリス、ニゲル。シメイテハイ」

「……………………何やってるんですの? あの子」


 なんか見つけるのは難しくなさそうである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何があったんだ? 常識勢が消えて行く。 良識・常識勢を装った人物の即堕ちがとても多いこの 作品を引き続き楽しませていただきます。 ありがとうございます。
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