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世界のルールを舐めちゃいけない ③

「そう言う事でしたのね。ずいぶんとしっかりした幽霊さん、という認識で良いのかしら?」

「貴殿、全く理解する気が無いな!? 夜ノ華殿、ちゃんと教えたのか?」

「あたし!? ちょ、幸太郎!! レティになんて教えたの!?」

「僕!? 灰斗!! わかりやすく教えてくれると請け負っただろう!?」

「私ですか!? 私にだってできないこととできることがあるんです!?」

「バニ、ボルドック、ユウレイ、イッタ」


 清々するほどの責任の擦り付け合い、今日も大人は汚かった。

 これではせっかくのお天道様も表情を曇らせてしまうのではないかと思うほどである。皆で車座になって右を向いていた。

 

「貴殿ら、本当に仲間か?」


 不死族だから汗をかくことはないが、ボルドックの背筋にひんやりと冷や汗が垂れる感覚だけがある気がした。昨晩の騒ぎから一夜明け、朝ごはんをみんなで食べた後にようやくレティシアが復活。バニがイイコイイコと宥めながら全員でボルドックについて彼女に説明したのだが……


「なんか皆様例えが酷すぎて……まとめると死んでるけど生きてる幽霊、と結論付けましたわ! 触れますからなんか安心ですし」

「確かに触れるのは意味はないが安心材料だな。戦う時は特にな」

「ですわね」


 むしゃり、と炙った干し肉をおやつ代わりにかじりながらボルドックがうなずく。


「戦う時ボルドックさんだけ透過する、も場合によっては助かるのですが。おいおい確認ですね」

「そう言うのは灰斗さんたちに任せるね。あたしと幸太郎はバニちゃんのお世話係とナビで忙しいから」

「ええ、道案内無しだと私とレティシアさんはすぐに迷子ですからねぇ。ちなみにボルドックさんは道の方は?」

「拙者も自信が無い、仲間に頼りきりだな」

「じゃあ、午後になったらドワーフの集落に戻って出発かな?」

「拙者が行こう、バニ殿を連れて行くと何かと面倒だ。拙者が言うのも何だが……ドワーフは気難しい。よそ者と言うだけでごちゃごちゃとうるさい連中だからな、儂なら挨拶と砕石場を開放したことだけ伝えればよい。ほかに用意するものはあるのか?」


 確かに、元々はゴブリンを駆除するということでここにいるのだからバニの事を説明するのは大変な労力が必要になる。それが省けるのは助かるはずの幸太郎の表情が曇る。眉根を寄せてどうしようか悩んでいるのだ。


「どうした? 何かあるのか?」

「ああ、いえ……僕らの移動に馬車でも作ろうかと思ってまして。作業場を借りたかったのですが」

「無理だな、連中の生命線だから絶対貸してくれんぞ」

「困ったなぁ」

 

 にべもなく幸太郎の希望を砕いてしまうボルドックだが、ドワーフが気難しい事は本人が良く分かってるし幸太郎たちでなければ家に上げることもしないだろう。しかし、ボルドックはあごひげを撫でながら幸太郎に申し出る。


「これから向かう山のふもとに拙者が使っていた作業場がある。岩で入り口を塞いでおるからよほどのことが無い限りそのまま残っとるはずだ。それで我慢せい」

「材料はあります?」

「木製なら木を切り倒せば良い、乾燥させる程度なら拙者も魔法が使える」


 木材を加工する際、水分を含んでいると撓んだり収縮が起きたりでなかなか大変なのだが。そこはドワーフ、そういう魔法に長けている人が多いらしい。


「なら大丈夫かな。工具はお借りしても?」

「構わん、とはいえ……油なんかで拭いたり整備せにゃならん。それは集落の連中から巻き上げる」

「ゴウトウ、ダメ」

「案ずるな、それくらいは喜んで渡してくれる……と思う」

「自信ないんですか?」

「そりゃあなぁ、拙者が死んでから何年たっとるかわからんが……この手斧を見てさえくれれば話が通じると思いたい」


 元々ボルドックはドワーフの中でも有名人だ、その彼が使っていた斧はもっと有名で彼の代名詞になっていると自負もしていた。


「じゃあ、ついでなんですけど。ボルドックさんの工房でこれも直せます?」

「うん? 何だこの包み……中身は金属の様だが」

「前の町の鍛冶屋さんでは無理だと匙を投げられまして……」

「ふむ……剣、じゃないな。これはあれか? 刀じゃないのか?」


 独特な反りと真っ二つに折れた刃の断面をボルドックは注意深く観察し、判断をつける。

 その言葉に敏感に反応したのは灰斗だ。まさか言い当てるとは思ってなかったらしく、ぐりんっと首を回しボルドックに詰め寄った。


「そうですっ!! それは刀です!! 俺の魂ともいえる相棒なんです!! こんな無残な姿になってしまって何とか! 何とかなりませんかっ!?」

「無理だ」

「かれこれ20年!! 雨の日も風の日も晴れの日も宮城の雪の日も!! 冬は冷たく夏は熱く!!」

「そりゃ鉄だからな、とにかく無理だ」

「あの鬼のような師匠に切り殺される寸前! いつも身を挺して俺を守ってくれて!」

「貴殿、話を聞いてるのか? 何回でもいうが無理だ」

「それがあの日!! 師匠のカレーを食べて気絶した後! 目が覚めると同時になぜかレティシアさんに殴り掛かられて!! こいつは……こいつは無残にも」

「わかった、貴殿は拙者の話を聞いてない。ついでに無理だ。レティシア殿に折られるとか無様だな」

「しれっと悪口混ぜられても!! 俺にはこの刀が必要なんだ!! そう! 精神安定剤の様に!!」

「ウェイランドに夢魔族の医者がいるから紹介してやるから落ち着け? この刀は無理だから」

「……」

「泣くな……貴殿意外と面白いな」


 だめかぁ……とバニ、ボルドック以外の面々が項垂れる。店売りの剣を灰斗は断固として使おうとしないのだ。強いのにその強さが十二分に生かせないのはこの先の道中で不安材料としかならない。


「直すのは無理だが、この鉄は質が良い。作り直すのではだめか?」


 灰斗の眼に希望の光が宿った瞬間だった。

  

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