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世界のルールを舐めちゃいけない ②

「で、貴殿らはこのゴブリン……バニ殿を保護したと。あい、分かった」


 でん、と地面に胡坐をかいて壮年のドワーフが請け負う……。


「ヨロシク」

「待ってバニ……今、あたし必至で理解に努めてるんで話を進めないで?」

「ウイ?」


 夜ノ華がバニの頭を撫でながら遠い目をする。あの骸骨襲撃事件が終わったかと思えば洞窟の出口でこのドワーフが待ち構えていた。半透明なのになぜかとんでもなく高級そうな手斧を腰に携えて……。


「む? 不死族は初めてか? なってみると不思議なもんじゃが……珍しい物でもあるまい」


 茶色の髪は綺麗に整えられ、身長は低いけれども夜ノ華の腰ほどもありそうな腕の筋肉。強面とは程遠いほどやさしげな眼差し。穏やかな声音……どう見ても人格者であるのは間違いない、間違いないのだがこんな状況下で出会うとどうしても疑いたくなるのは仕方のない事だった。


「すみません、実は初めてです……」

「なるほどな……まあ、貴殿らを見ていれば嘘はなさそうじゃの」


 灰斗は立ったまま固まり、幸太郎は夜ノ華の腰にしがみつきナンマンダブを繰り返し、レティシアは安定の見えない聞こえないの四つん這い状態。そんな中バニだけは平然としてるので案外図太いのかもしれない。


「で、貴殿らはこれからどうするつもりなのか? 儂はそれが知りたい」

「ええと、バニの事を考えるのならウェイランドへ行こうかなぁと」

「ふむ……まあ、妥当だな。あの国であればバニ殿を悪いようにはしまい、何なら拙者が口利きしても良い。あの国には借りがあるからな」

「そ、それはありがたいんですけど……良いんですか?」

「寝起き過ぎての……ついでに預け物も返してもらいに行きたい。自ら言い出した事とはいえこれじゃ収まりが悪くてな」


 そういってドワーフは腰の手斧をポンポンと叩く、夜ノ華の目から見て十分戦ってるイメージが湧くのでこれ以上何が足りないのかはわからなかった。


「じゃあ、お願いしても良いですか?」


 夜ノ華は幸太郎や灰斗とも相談したかったが……現在使い物にならず、決定打としてバニが怖がってないのを材料に決断する。レティシアは……後で考えよう、と後回しにした。


「あい、分かった。これも何かの縁、拙者も同道させてもらおう」

「ところで……お名前は……」

「む? これでわからんか?」


 ドワーフは腰の手斧を夜ノ華の方へ差し出す。その手斧は闇夜の中で月の明かりを受けてぼんやりと燐光を放っていて……なんというかとても綺麗な工芸品、夜ノ華にはそう見えた。


「すみません、綺麗だとは思うのですけど」

「……もしかして儂が死んでから何千年と経っていたりするのか?」

「それは何とも……困ったわね。(こよみ)なんて気にしてなかったものですから」

「まあいい、改めて名乗ろう。拙者はボルドック……それでよい」

「ボルドックさんですね。こちらも改めてよろしくお願いいたします」


 ひょい、と手斧を戻したボルドックに夜ノ華は手を差し出す。

 その手をボルドックはまじまじと見て……少し息を吐く様な笑いを浮かべた。何せ死んでいるのだから触れるはずもないのに夜ノ華が握手を求めてきたのだから……本当に不死族の事を知らないのだとボルドックはおかしくなる。


「ありがたい行為だが、不死族には成りたてでな。握手したくとも触れないのだ……」


 そう説明したが、夜ノ華は手を引っ込めないでほほ笑む。

 そのままオルドックは呆れたように夜ノ華の手と顔を交互に視線を移動させて、半透明の己の手を夜ノ華の方に伸ばした。


「よろしくな、夜ノ華殿」


 ――ぎゅっ


「おや?」

「あら?」


 夜ノ華の手に伝わるひんやりとした、それでいて少々(いか)つい手触り。

 ボルドックの手に伝わる暖かく、それでいてなめらかな弾力ある手触り。


「触れる……」

「触れましたね……」


 呆然とする二人を幸太郎がようやく覚悟を決めたのか、念仏をやめてそぉーっと見上げる。

 

「……幽霊じゃない。のか?」


 握手して困惑する二人を見て幸太郎もボルドックの手に触れてみた。

 恐る恐る伸ばされたその指には確かな感触が返ってくる。


「不死族だと言ってるだろうに……驚いたな。稀にこの身体に触れる事ができる者が居るとは聞いておったが……二人も同時に出会うことになろうとはな」

「バニモ、ボルドックトアクシュ」

「ああ、よろしく……」

「ヒンヤリ、ゴツゴツ」


 バニも触れるらしい。


「灰斗さんとレティも触れるんじゃないかな? 何となくだけど」

「夜ノ華殿……まさか」


 乾いた笑いを浮かべて否定するボルドックだが、もしかしたらという思いもあるので試しに四つん這いのレティシアの肩をぽんぽん、と軽く叩く。

 するとレティシアもびっくん! と猫みたいな反応を返してきた。

 ついでにと言わんばかりに灰斗の……肩には手が届かなかったボルドックは背中をつつーっと指でなぞってみる。


「うおっ!? いきなり何するんですかボルドックさん! あれ?」

「これは、拙者がおかしいのか貴殿らが特殊なのか判断つかんぞ……」

「ボルドックさん、僕からも失礼……触れますね」

「別に構わんが拙者の髭を両手で摘まみ上げるのはやめんか? そこはかとなくイラっとする」

「ついサンタクロースみたいで」


 触れるなら大丈夫と灰斗も先ほどまでの緊張が解けた。


「で、いい加減その金髪のお嬢さんはこっちを見れんのか?」

「いや、ええ……まあ。朝になったらだいじょうぶかなぁと」


 前に夜ノ華がレティシアに怪談話を聞かせた時は夜が明けて明るくなるまでがくがくと震え、トイレに行くのも夜ノ華が付き合う羽目となったほどだ。今晩は諦めるしかなさそう、そう伝えるとボルドックも諦めて不寝番をしてくれる事になり、そこで野営をする事になったのである。


「レティ……いい加減大丈夫だから静かにしてよ。眠れないじゃない」

「夜ノ華は図太すぎますわよ。ううう……怖いですわぁ」

「レティ、イイコイイコ。バニネムイ、シズカニスル」

「なんであなたたちは平気なんですの!?」


 翌日、目の下にクマをつくった女性陣を見て幸太郎たち三人は呆れるばかりだった。

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