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31「センカンダル闘技大会の決勝戦」

 日を改めてセンカンダル闘技大会の行程も順調に進み、いよいよ決勝戦が始まろうとしている。


「まさか本当にこんなことになるなんてな」

「我らは不思議な運命の交差路に立っているのかもしれんの」

「俺様は! こうなるんじゃないかと! 思っていた!」

「ウチはこうならないで欲しいと思ってたんだけどね……恩もあるし」


 センカンダル闘技大会決勝戦の舞台に立つ四人の姿。それぞれに思うところがあるのか、一人を除いて複雑そうな表情を浮かべていた。


 アマト・チトセペア対リィチ・スピルペアのカードがついに実現してしまったのだ。


『皆様大変長らくお待たせいたしました! 熱き激闘もとうとうこれが最後です! 四人とも初参加でありながらとんでもない実力を発揮し、あれよあれよと決勝戦まで登り詰めてしまった期待の新人たちが現れてしまいました! 今回の闘技大会は一体全体どうなっているのかぁ?! 全ての注目がこの一戦に集まります!』


 実況兼審判役を務めている男性の声が魔法の力を借りて会場を越え、センカンダル全体に響き渡る。


 年に一回のお祭り騒ぎも、この一戦が最後。否が応でも緊張が高まり、街全体が熱気に包まれて溶け出してしまいそうなほどだった。


『両者とも準備はよろしいですか?!』

「ああ!」「構わん」

「いいぞ!」「大丈夫よ」


 男性の確認にそれぞれが力強く頷く。


『それでは! アマト・チトセペア対、ハイバイ=リィチ・マホル=スピルペアの試合ぃ……始め!!!』


 開始の合図とともに会場が揺らぐほどの歓声が沸き起こる。


 ここまでの快進撃を見てきた観戦客はすっかり四人のファンになっている。四人を応援する声で溢れ返っていた。


「前回大会優勝者との戦い見てたぜ。お前らかなり強かったんだな」

「それは! こっちのセリフだ! お前らも相当強い! 苦戦を見てない!」

「我は余裕だったが、アマトは肝を冷やす場面が何度かあったな」

「うっせ」


 茶々を入れてくるチトセを黙らせる。


「ある意味タイピンさんよりもやり辛いんだけど……やるしかないのかしら……」


 知り合い同士で戦うことになるとは思っていなかったスピルは未だに躊躇している。


「スピル! 戦いたくないのか?!」

「そりゃあ……ね。だってせっかく知り合いになれたんだし、仲良くしたいわよ」


 複雑な面持ちでスピルが呟く。


 と、リィチが一歩前へ出た。勢いよくズビシィッ! とアマトのことを指差す。


「アマト! 俺と一騎討ちしろ!」

「一騎討ち? 二対二じゃなく?」


 奇しくもこの戦いは二対二のチーム戦。個人の戦闘力はアマトたちのほうが上だが、コンビネーションと相性の良い魔法を組み合わせれば、リィチたちに分があるというのが観戦者たちの冷静な分析だ。


 事実、その評価は的を射ている。


「それで勝ったほうが勝ちだ! 簡単だろ!」

「確かに簡単だしこっちとしちゃ悪くない話だけど……」


 チラリとチトセの様子を盗み見る。


 もう存分に暴れまわったからか腕を組んで仁王立ちしたまま動かない。高みの見物を決め込もうとしているようなので機嫌は悪くなさそうだが、いつもの気まぐれがいつ発動するかわからない。


「我は構わんが、お主は良いのか? アマトは強い。そっちの事情は知っておるが、勝ってしまうかもしれんぞ?」

「ウチ?! えっと……ウチは戦わなくて済むなら願ったり叶ったりよ。けど、リィチだって強いわ! そう簡単に負けたりなんてしないんだから!」


 それぞれで視線が交錯し、激しい火花を散らす。


『おおっと?! どうやらアマト選手とリィチ選手の一騎討ちの流れになってきているようです! これはどんな試合になってしまうのでしょうか?!』


 知り合い同士で戦うことに躊躇いのあるスピルのために、リィチはわざわざ一騎討ちを申し出た。アマトとしても有利になる条件なため、これを断る理由はない。


「お前一人で大丈夫なのか? そっちは二人でかかってきてもいいんだぜ?」

「おっ、いいのか?!」

「いやよくねぇよ?! ただの挑発だっつの! 自分で『一騎討ちしろ』って言ったんだろうがよ!」

「そっちだって! いま二人で! きてもいいと言った!」

「わかんねぇやつだな?!」

「わかるように! 言わないのが悪い!」

「アァ?!」


 とうとう視線をぶつけ合うだけでなく、物理的に額をぶつけ合い、互いの顔に唾を飛ばすように怒鳴り声を上げる。


 ──寸分の狂いなく、動き出したのは同時。


 お互いの顔面に拳がめり込む。


「ぶあっ?!」

「ぐがっ?!」


 弾かれるようにお互い距離が開く。アマトは平気そうな顔を浮かべているが、リィチの鼻からはタラリと赤い雫が溢れ落ちる。


 それを乱暴に拭うと、顔に血が薄く広がった。


 アマトは楽しそうに笑っていた。それに釣られるようにリィチは口角を上げる。


「やっぱり……! 強いな……!」

「そっちこそ。けど魔法なしじゃ俺には勝てないぜ。遠慮すんな、使ってこいよ」


 人差し指をクイクイと動かす。


 アマトはドラゴンの血の力により身体能力は人並み以上のものになっている。それに対しリィチは魔法を使用しなければ人並みだ。今の状態ではとても敵わないだろう。


 これでは、公平ではない。二人の望んだ『一騎討ち』とは言えない。


「いいんだな?! 取り消すなよ!」

「当たり前だ、男に二言はねぇ!」


 アマトのその言葉を聞いて、リィチは大きく深呼吸を繰り返す。


「アゲてくぜぇ! 〝強化移行(バイシフト)〟! 〝二速(セカンド)〟!」


 魔法名を口にすることによって、リィチの闘気が一気に膨れ上がるのを会場にいる誰もが感じ取った。一番近くにいるアマトはその比ではない。


「……そうこなくっちゃな! その状態のお前と戦ってみたかった!」


 まるで立ちはだかる絶壁のように押し潰されそうな圧力がのしかかり、それを一身に受けるアマトからは強がりの言葉と冷や汗が大量に噴き出す。


 前回大会優勝者のキボード=タイピンはこの圧力を前にしてなお、涼しげな表情を崩さずに圧倒して見せたのかと思うとゾッとする。もし当たったのがアマトたちだったら勝負の行方はわからなかっただろう。


 本気を出したリィチを相手にどれだけ戦えるのか。修行の成果を発揮し、己の実力を測るためにはもってこいの相手。


 スピルは驚いた表情を浮かべる。


「いきなり〝二速(セカンド)〟?! リィチ、大丈夫なんでしょうね?!」


 リィチの魔法〝強化移行(バイシフト)〟は魔力の消耗が激しい。〝二速(セカンド)〟からはスピルの〝接続(リンク)〟がなければすぐに魔力は底を尽きてしまうだろう。


「ダメになる前に! 終わらせるから大丈夫!」

「不安でしかない! けど信じてるからね!」


 リィチの謎の自信を疑いたくなるが、過去も、現在も、そして未来(これから)も、大きな背中に全てを預けている。スピルにできることは、ひたすらに信じることだけだった。


 これまでの試合と実際に対峙した感覚でアマトの実力を測り、ただの〝強化移行(バイシフト)〟では敵わないと踏んだリィチは短期決戦(セカンド)を選択。


 対するアマトとチトセは、


「アマトも頑張るんだぞー」

「俺の応援適当じゃね?!」


 いちおう夫婦という間柄でありながら、こちらにはあまり信頼と呼べるような繋がりは持ち得ていなかった。


 ──だがそうではない。


 チトセはちゃんとアマトのことを信じている。最初に言っていたではないか。

 アマトは強い、と。


 それはつまり〝勝ってくれる〟と信じるまでもない(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)ということ。


 男と男の力がぶつかり、

 女と女の信念がぶつかる。


「行くぞ! アマト!」

「来」


 来い! とアマトがリィチの言葉に応じるよりも早く彼の姿は掻き消えて、腹部に重く固く鋭い拳が深々と埋まり、瞬く間に観戦客の壁まで吹き飛んで突き刺さる。


「──手加減は! しないからな!!」


 鉄拳を打ち込んだリィチは〝二速(セカンド)〟が乗った声で力強く吠え、大気を揺るがした。

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