藍染まる
僕が見ていた君は藍色に染まって誰かのものとなる
煌びやかなネオンの隙間から零れた記憶は、目が眩むほど真っ青な藍であった。
僕は僕の全てを肯定する。そうじゃなくちゃ生きていけないだろう?この街はいつだって僕らに優しくない。
見せかけの愛情、一夜限りの関係、夜、飲み屋街、消えぬ光、くたびれたスーツ、飛び散った吐瀉物はこの街を構成する一つに過ぎない。恋人関係でないだろう男女が道を闊歩する。僕にぶつかって舌打ちをした。夜はまだ明けそうにない。
ここには見えない藍を探して零れた記憶を拾い上げる。藍が滲んで視界を染めて、あの日の君が顔を出す。
消えてしまえ群青。あの日の君はどこにもいない。清純を具現化した未成年は堕ち、今やどこにも見る影もない。
失くしてしまえ青春。海町古びたバス停で、人目を気にせずキスをした。その唇はもう赤マットに染まってしまった。
掻き消せよ情景。誰でもない僕の手で。僕は僕のまま大人になって、君は誰かの手で大人になった。夏、プール終わりの午後の授業、静まり返った教室の中チョークの音だけが響いていた。君は僕のノートに落書きをしていたずらに笑った。その表情に恋をしていたのは僕だったんだ。
君も僕も有り触れた恋の終わりだ。インターネットに書かれた、ありがちでお決まりな別れ方。B級映画のラスト十分、見え透いたエンディング。エンドロールは短くて構わない。僕と君しか出てこないお話だ。
息を吸って空を仰ぐ。煙草と揚げ物の匂いが換気扇から溢れ出ていた。星は一つも見えなくて、希望はどこにも存在しない。人生は妥協と諦めで出来ている。
別れを咀嚼して歩き出す。飲み込むことすら出来ないのなら、最後に吐いて終わらせてやろう。君との記憶を咀嚼してぐちゃぐちゃ砕いてやろう。
あの日の君が消えていく。藍が滲んで消えていく。今はもう、誰かの物になった愛に、僕はただ、涙を流した。