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献血

作者: 藍沢 円夏

「今日の気分はいかがですか」

「悪くは無いです」

「睡眠時間はどれくらいでしたか」

「だいたい、八時間くらいでしょうか」

「なるほど、今現在、服用されている薬はありますか? 頭痛薬とか」

「とくにはないですね」

「最近、六ヶ月以内に知らない異性と関係をもったことは?」

「恋人以外とはまったく。一年間の付き合いです」

「以前輸血が必要になるような怪我や手術をされたことは?」

「記憶の中にはないですね」

「そうですか。血圧をはかりますね。うん、血圧は良好ですね。ちょっと脈拍が早いかしら。緊張されていますか?」

「まぁ、針が、献血が嫌いなものでして」

 医師からの質問に、私はそう言ってふんと鼻を鳴らして笑う。

 実際、私は針が嫌いだった。そもそも、針が嫌いと公言している私がどうして四条にある献血センターに、献血をしに来ているかと言えば、これには深い事情がある。

 簡単に言ってしまえば、会社からの命令であるのだ。私がつとめている会社は医療系のメーカーである。カテーテルとかそういった資材を作るのが根幹事業だ。となると、自然と医療的な機関と関係は深く親密になっていく。そうして、献血の参加をもちかけられたのだ。

 そして、会社の中で唯一献血できる人間が私だったのだ。ほかの社員は先ほどの問診にあったような質問事項に事前に引っかかり、結果として私に白羽の矢がたったのである。まったくもって、同僚の不健康な生活にはあきれる。

 それと、もう一つ、私自身が会社から疎まれているというのもある。つまり、ダメ社員の有効活用としてこういったイベントへの参加を言われているのだ。断ればさらに閑職に追い込まれる。それだけは避けたかった。

「それでは血液型をお調べします」

 看護師から注射の針を刺される。ちくっとした痛みがあった。

「A型ですね。ありがとうございます」

「一番多い血液型ですけどね」

「つまり、それだけ需要があるって事ですよ」

 看護師の言葉に経済学の何かを学んだ気がする。

 もっとも、それは錯覚なのかも知れないが。

 血液型を調べられた後、本格的な採血に入る。

 事前に渡されていたペットボトルの飲料を飲み干して、体の中に水分を入れる。

 血液をどっと400ミリリットル取り出すという事は、かなりの水分を体の中から失うと言うことと同等である。毎月血液を失っている女性の気持ちというのを、少しだけ味わえる気がする。

 リクライニングのベッドに横たわる。足が上がった姿勢をとる。天井に貼り付けられている献血後の注意書きが目に入る。ふらふらときたらしゃがんでください、というアドバイス。これが役に立つことが無いのを願う。

「はーい、それではですね。今から針を刺しますねぇ。ちくっとしますよー」

 献血の針は太く、とても、痛い。




 献血から五日経った。

 とくに体調が優れないということはない。立ちくらみはなかったし、腕がしびれると言うこともなかった。

 しかし、どうにもおかしい点があった。

 注射跡からの出血がとまらないのである。左腕の、肘の内側の血管から血液を抜かれたのであるが、その注射の穴からの出血が止まらない。タラタラリと、穴からあふれ出る血液が、ポタポタリと床に垂れる。

 あまりの出血に最初はガーゼを注射跡に貼り付けていたのだが、そのガーゼもすぐに血で湿ってしまうため使い物にならない。さすがに職場に血を垂らして過ごすというわけにはいかないので、ガーゼを何枚も持って行き、ことあるごとに取り替えているが、それもいつまで持つかギリギリである。

 さすがに「これはまずい」と思った私は、日本赤十字の献血センターへと再び赴いた。

「非常に珍しい病気かも知れません」

 私の腕を診察した医師は言った。

「どういう病気なんですか」

「血液が固まらない病気というのがありまして、体質的に、血液が固まらないのです。病気というのは建前で、どちらかと言えば、体質や障害と言った方が正しいかもしれません」

「な、治るんですか」

「まぁ、お薬での対処になりますかね」

 それが医師の判断だった。医師の判断となればそれ以外に方法は無い。

 処方箋を書いてもらい、薬をもらう。

 しかし、一向に状況は改善しなかった。血液は腕から流れ続けた。

 あまりにも大量の血液が流れているので、気になって休みの日に、どれくらいの血液が失われているのかを計測することにした。具体的には安静にしている時に左腕をだらりと垂らして、バケツに血液が貯まるようにするだけだが。

 結果として、一日に失われている血液量は、だいたい、バケツの半分ほどであると言うことがわかった。

 人間がバケツの半分ほどの血液を失ったとしたら、とても生きていけないだろう。少なくとも貧血を起こすはずだ。しかし、私としては意識ははっきりとしているし、立ちくらみのたの字もない。

 私の自分に対する研究が始まった。

 血液は固まらない体質というが、バケツに貯まった血液はどうか。バケツに貯まった血液は数時間もしないうちに、水分が蒸発してしまったのか、だいぶと目減りしているし、いくつかの塊がバケツのなかに散見された。つまり、血液は固まっている。

 血液にとくに変化は無いのか。とくに変化はないように見える。別に緑色とかではない。

 そうこう考えている内に、仕事が手につかなくなってきはじめていた。

 腕から流れる血液が気になりすぎて、仕事が手につかないというのが正しい。

「少し休ませてほしいんです」

 と、上司に申告したとき、上司はそれほど驚かなかった。

「理由を聞かせてほしいんだけど」

 上司からそう聞かれたとき、私はなんと答えれば良いのか戸惑った。別段、仕事に問題があるわけではないし、職場の人間関係としては問題はあるが辞職するほどでも無い。かといって、素直に、腕の異変を伝えるのは良いことでも無いと思った。

 少なくとも、きっと、いやな目つきをされるに決まっている。

「いや、まぁ、ちょっと疲れがたまってまして」

 そう答えるだけにとどまったが、それで休暇は受理された。




「まいったな」

 腕からの血液はとめどなく流れている。会社を休んで何日も経過したが、そんな事はお構いなしに血液が流れている。さすがに、血液が多量すぎて、毎週、出すゴミ袋の中身はほとんど、血液で湿ったガーゼだらけだ。

 近所の人からなんて言われてるか考えたくも無い。

 病院に再び調べてもらおうかとも思ったが、やめておいた。病院の前まで行ったが、その前に見た映画がまずかった。その映画では、特殊な体質をもつキャラクターが研究機関に送られて実験台になってしまい、そこをヒロインの女に助け出されるという話だった。あいにくと、私を助け出してくれるヒロインはいない。

 さて、問題はヒロインではなく、私だ。

 実験台にされるのはまっぴら御免被る。

「元気ないね」

 出かけた先で人に会うたびにそう言われる。

 私は笑って誤魔化すしかない。

 ゴミ捨てに出たとき、ばったりと世間話大好きご近所さんと出くわした。

 はらはらと無駄に汗があふれ出した。なにぶん、ゴミ捨てなんてすぐに終わるさ、とたかをくくっていたから、ガーゼを腕に取り付けていなかったのだ。

 世間話が好きな人間というのは、多くの場合、話が長い。

 腕を押さえて必死に血を止めようとしていたのではあるが、人間が液体を止めることはできない。

 腕からタラタラリと血液が指先まで垂れてきたとき、意を決し、その場を後にしたのだが。「あっ」

 と、世間話大好きご近所さんが声をあげたのを聞き逃しはしなかった。

 人目の無いところで、腕を見れば、腕は血まみれであり、どうみても尋常の沙汰では無い。 洗面所で腕を洗っていると、いやなことばかりが頭に浮かんでくる。あの世間話大好きご近所さんが、誰かに話したりしないだろうか。警察にでも駆け込まれたら、一大事である。警察というのは厄介きわまりない、血まみれの腕がどういうことか根掘り葉掘り聞いてくるだろう。そのとき、この腕の異常が見つからないはずも無い。

 そして、研究機関に捕まるのだ。

 どきりと、胸が痛む。

 とてもまずい。

 呼び鈴が鳴り、私ははと我に返る。

「すいませーん、警察なんですけどもー」

 と、ドア越しに玄関から聞こえる。

 蛇口を締め、腕をきつく押さえ、玄関へと走って行く。

「なんでしょうか」

 玄関をあけて、仁王立ちする二人の警官を交互に見ながら訪ねる。

 警官は私の顔を見て、いぶかしみ、きつい視線を送る。

「実は通報があってね。腕から血を流してる人間がいるって。まぁ、ただの怪我かもしれないので、大まじめに取り扱う必要も無いんだけども」

 私の腕を警官はちらと見る。

「その腕、きつく押さえてるけど、何かあったのかい」

「いや、その別に何でも無いですよ」

「ちょっと見せてもらえるかな」

「いやですよ」

 と、扉を閉めて逃げようとしたとき、警察官の足ががっとドアを押さえた。

「ちょっとだけで良いから、見せてくれるかな」

「公務執行妨害で逮捕されたくないでしょ」

 かなりきつい脅しだった。

 逮捕はどうひいき目に見ても、嫌だ。

 しぶしぶ、腕をゆっくりと解いていく。

 うっと、目を背ける。

 これほどきつく押さえていたのだ、かなりの血液が出ているはずだ。

「なんだ、何も無いじゃ無いか」

 警官の言葉に、私は腕を見る。

 すると、そこには何も無い。

 いや、献血の針の跡はあるのだが、それ以外には何もない。

 綺麗な腕だ。

「いやぁ、実は献血をしましてね。その跡がどうにも気になってまして」

 私がそう言って誤魔化すように笑う。

 警官はいぶかしむような瞳を変えることは無かったが、それでも、追求しようとは思わないのか、いくつかの質問を交わした後、すぐに立ち去った。

 残された私は、腕をじっと見た。

 腕の注射針の跡は、少し膨らんでいるように見えた。




 流血が収まり、私は心配事が一つ解消された。

 そのおかげか、ぐっすりと毎晩眠れるようになった。肌のつやもだいぶとよくなった気がする。食事もよくとれるようになった。一つのストレスから解放されると言うことは、なかなか、人生に好転をもたらすらしい。

 このまま、仕事に復帰と言うときだった。

 シャワーを浴びていると、腕に何か膨らみがあることに気がついた。

 いつの間にか虫に刺されたでもしたのだろうか。

 ポリポリ、と掻くが、とくだん痛みもなかった。

 どうせ、腫れは引くだろうさ、と思ってとくに心配もしなかった。

 しかし、これが次の始まりだった。

 腕にできた虫刺されは日に日に大きくなっていった。いや、もはや、これが虫刺されでは無いと言うことははっきりとわかりきっている。この腫れは、よくよく見れば、あの注射跡を中心に腫れあがっているのだ。

 痛みはとくにないので、最初は爪で潰した。

 しかし、すぐにまた腫れ上がってくる。

 さすがに、気になって、今度は研究対象になることは無いだろうと、医者に行った。

 老齢の医者はまるで興味なさそうに、腕の腫れを見て「虫刺され」と診断を下した。

 さすがに、私はこの診断には異を唱えた。虫刺されが何日も続くわけがないだろうと。しかし、老齢の医者は、己の診断を曲げられたことに腹が立ったのか、私の腕を掴むと、腕を上肢台に押しつけ、縛り上げた。

「そんなに言うなら、もっと検査しましょうか」

「是非ともそうしてください」

 私も意地になって、そう伝える。

 こうなったらば、意地の張り合いである。

 医者は注射器で腫れ物の中身を採取し、メスでささっと腫れ物を切り開く。

「やはりなんの異常はないですな。採取した体液の結果待ちですが、間違いなく、虫刺されです」

 勝ち誇るように、椅子の背もたれに体重を預ける老医者に私はなんとも言い返すことはできなかった。

「お大事に」

 と、診察室を出る私に向かってかけられたその言葉は、老医師の勝利宣言だった。

 家に帰った私は、とてもじゃないが、気が気ではなかった。あの腫れ物は本当に虫刺されであるのか、不安で仕方ない。なにぶん、あの異様な流血の後だ。また、再び、異様な事態が起きないということもない。

「不安だ」

 メスで切り開かれた腫れ物は、今、ガーゼの下にある。

 しかし、医者からきちんとした診断を受けたのだ。何を心配する必要がある。という安心感もまたある。

 意外と一晩寝れば、腫れも収まって治ってしまうのでは無いだろうか。

「まぁ、睡眠は百薬よりも勝るというしな。言わないか」

 不安でそう独り言をつぶやいて、布団に潜り込む。

 寝付けぬ中、ガーゼの上から腕を触ってみる。そして、いつしか眠った。




 腕の腫れは収まらなかった。

 何日寝ても腕の腫れは収まらず、それどころか腫れは大きくなり、今やピンポン球ほどの大きさに育っている。それどころか、ドクンドクンと脈動がある。おそらく、血管が太くなっているのだろう。もしや、世に言う、動脈瘤というものだろうか。いや、それではないはずだ。

 確か、切り開いたとき、血管には触れていなかった。

 つまり、血管の異常では無い。

 触れてみれば特に痛みは無い。しかし、潰そうとか、切り裂こうとするととてつもない激痛が腕に走る。まるで、何かにかみつかれてるような痛みだ。

 いや、実際に、噛みつかれているのではないか。

 この腫れ物、実のところ、脈動する動きとともに、時折、ぐるぐるとうごめくような痛みがあるのだ。蛇がとぐろを巻くように、ぐるぐると、腫れ物の中でうごめているのだ。あまりにも恐ろしく、あまり、腫れ物に触れないようにしている。

 まさしく、腫れ物扱いだ。

「最近、会ってくれないよね」

 電話口で恋人からそう言われる。

「いや、仕事が忙しくってさ」

「ほんとかー?」

「本当だよ」

 腕をちらと見る。

 腫れ物はピンポン球より大きくなった気がする。

「そろそろ夏だし、海にでもいかない?」

「良いわね。でも、仕事が一段落ついたら、ね」

 さすがに水着を着たら、この腕の腫れ物はとてもよく目立つだろう。

 憂鬱な気分になる。

 電話を切ると、腫れ物を再び見る。

 これはいつになったらひくのか。



 寝ているときだった。

 腕がいつものようにぐるぐるとうごめいていて、あまりに激しく動くので、私は目を覚ます。

「いったいなんだって」

 寝ぼけ眼で、腕の腫れ物を見る。

 すると、いつにもましていっそう大きく腫れ上がっているのが目に入り、眠気は吹き飛んだ。

 腫れ物はピンポン球どころではなく、鶏の卵ほどの大きさに育っている。

 小さく悲鳴を上げると、腫れ物の中身がまたうごめく。

 間違いなく、腫れ物の中では、何かがいる。

 腕を伸ばし、足を伸ばし、大きく皮膚をひっかき、うごめいている。

 形はわからない。そもそも、形があるのかもわからない。

 しかし、感じるのだ。腕があり、足がある。

 何かがいる。

 腕をよく調べようと、そっと曲げたときだった。

 激痛が腕から脳へと駆け抜け、私は白目をむいて耐えた。

 あまりにも激しい痛みの時、人は悲鳴を上げることはできないのだ。

 動かそうにも動かせない。

 大の字に寝っ転がったまま、顔だけが動く。

 そうして再び、眠りに落ちた。

 


 眠りから覚めたのは何分後かわからない。

 しかし、それほどたいして時間は経っていないはずだ。

 カーテンが引かれた窓の隙間からほんのりと明るくなっているのが見える。

 朝が近い。

 腕の腫れ物を見る。

 腫れ物から何かが突き出ていた。

 細長い針金のような、いや、この細さはシャープペンシルの芯に近い。

 それは、くっと折れ曲がり、私の腕に突き刺さる。

 そして、続いて腫れ物から出てきたのは、丸い球体だった。シャープペンシルの芯から続く球体だ。その球体が出るとき、痛みも何も無く、むしろ、心地良かった。さも当然というようにそれは躍り出る。

 ぎょっとそれを見つめていると、腫れ物の中から同じようにシャープペンシルの芯が突き出てきた。一本や二本では無い。多量だ。一瞬にして私の腕の腫れ物は、毛玉の様相となった。そして、同じように球体が引きずられるように出てくる。

 うじゃうじゃと私の腕から出てくるそれは、一言でいうならばムシだった。昆虫ではない。 昆虫ならば、足は六本ある。しかし、それは六本足では無い。四本足だ。

 球体部分には目玉がギロギロと輝いており、私の腕の上で周囲を伺っている。

 私は息を殺して、気配を殺す。

 一呼吸で、このムシから敵意を向けられたくは無い。

 うじゃうじゃ、ゾロゾロと腕の腫れ物から、まさしく、沸いて出てきたそのムシは、私の腕から布団の上に四本足で飛び降りた。そして、かさかさと布団の上を走って行き、窓の方へと向かっていく。

 カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされたムシは、まさしく、気色の悪い何かだった。 カツンカツンと一匹、また、一匹とカーテンの隙間に消えていく。

 窓は鍵がかかっていたのか、どうだったか、覚えてはない。

 うじゃうじゃと沸いていたムシが徐々に数を減らしていく。何匹いたか数えてもいない。

 最後の一匹がカーテンの隙間に消えようという時、私はついに我慢できず、ふう、っと息を漏らした。

 それがまずかった。

 その最後の一匹は、私の方をその一つ目でちらりと、しかし、はっきりと見た。

 目線がかち合う。

 その一匹は、何も発さず、私も何も言わず、ただ見つめ合って、それから、私は意識を失った。




 目覚ましの鳴る音が聞こえて、目を覚ます。

 すっかりと空気は暖まってきていて、昼近くまで眠ってしまったらしいのがわかった。

 のっそりと布団から抜け出る。

 あれは夢だったのだろうか。腫れ物から飛び出ていったあの生き物は。

 いつものように不安げに、腕を撫でると、違和感に気づく。

 腫れものが消えているのだ。

 綺麗さっぱりに消えている。

 呆気にとられてそれから腕を何度も撫でる。

 間違いない、本当に消えている。

 その事実を素直に受け止めることはできなかった。なにせ、何日も苦しまされてきたのだから、今更、『はい、そうですか』と受け入れることはできない。何度も触れてみたり、シャワーを当ててみたりして、本当に消えていることをようやっと受け入れる。

 カレンダーを見て、今日が休日であることを確かめると、恋人にLINEをする。

 どうやら、恋人も今の今まで寝ていたらしく、寝ぼけた声で出てくれた。

「おはよう、今日暇かな」

 と、私は開口一番に聞いた。このまま、恋人と久しぶりのデートとしゃれ込みたかった。 恋人はそれにすぐに同意したが、どうにも体調が優れない様子だった。しゃべり方にどこか不審点というか、会話の内容よりもほかの事が気になっているというか、上の空のしゃべり方だった。

「どうにも、上の空だけど話聞いてる? 大丈夫? なんなら、次の機会でも」

「あ、いや、別になんでもないよ。ただ」

 一呼吸、おいて恋人は気まずそうに言った。

「なんだか、虫に刺されたのか、腕から血が出てるのよね」

 

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