7.豆柴と豆エルフ
誤解を解くと、ギルンは真っ赤な顔をして咳払いをする。
「ところで、だ。こいつはまだ子ギツネだから人間に懐くのかも知れんが、大人になると凶暴化して人を襲うんだ。早く森に返したほうがいい」
「何言ってるんだ。サブローさんは成犬だぞ」
俺がサブローさんを飼い始めてから1年以上は経っている。
小型犬の場約10ヶ月で成犬、大型犬でも1歳半で成犬になるのでサブローさんは小さく見えても立派な大人なのである。
「セイケン?」
「大人ってことだよ。サブローさんは豆柴ではないけど、大人にしては少し小さい。だから、よく子犬と間違われるけど、ちゃんとした成犬だから」
「マメシバ?」
「小さい柴犬を交配させて作った柴のことだ」
トゥリンとギルンは分かったような分からないような顔をする。
「フーン。でもどうしてわざわざ小さいイヌを交配させて作るんだ」
「そのほうが可愛いからじゃないか?」
「可愛い?」
「日本……うちの国で人気があるのはどれも小さい犬なんだ。チワワにトイプードルにミニチュアダックスに」
ちなみにこれらの人気ベスト3の犬種はほぼ十年以上ほとんど変わっていない。まさに日本における定番犬種と言えよう。
「ふーん、小さい方が人気、か。なんだかエルフの村とは逆だな」
ギルンがトゥリンの肩を叩く。
「逆?」
トゥリンは下を向いて恥ずかしそうに話し始めた。
「エルフの間では、背が高くて足が長い方が美人だとされている。だから背が低くて子供っぽい私は誰にも相手をされないんだ」
「全く、せめてもうちょっと足が長かったらなあ。同い年のマリンはあんなに美脚なのに」
馬鹿にしたように笑うギルン。
「うるさい。ただ背が低いだけだ!」
そうなのか。
トゥリンの顔を見る。艶やかな金髪に透けるような白い肌。美しいエメラルドグリーンの瞳。少なくとも俺が知ってるどのアイドルよりも整っているように見える。
もし日本にいたら「1000年に一度の美少女」なんて呼ばれて人気になっていてもおかしくはないのに、エルフの村では人気が無いんだな。
日本では小型犬が人気だけど、アメリカではラブやゴールデン、シェパードといった大型犬が人気ベスト3らしいから、それと似たようなものなのだろうか。
しょぼくれるトゥリンの肩を、ギルンはバンバンと叩いた。
「これでも僕より年上だし、大人なんだけどな。可哀想に。成長が止まるのが早すぎたんだ」
エルフは不老長寿の生き物で、二十歳前後で外見の成長が止まるのが普通なのだが、なぜかトゥリンは十代前半で成長が止まってしまったという。
ということは、やはりトゥリンが姉でギルンが弟だったのか。翻訳のバグじゃなかったんだな。
「トゥリンは豆エルフだね!」
ギルンが笑う。
俺は小さく息を吐きながら呟いた。
「でも俺の国では背の小さい女の方がモテるぞ」
「そ、そうなのか」
「トゥリンもミニチュアダックスみたいで可愛いし、きっと俺の国ではモテるに違いない!」
トゥリンの顔が真っ赤になる。
「み、みにちゅあ? よく分からないが、それは褒めているのか!?」
「ああ」
トゥリンは背が低くて短足なのを気にしているみたいだから、ダックスフンドが胴長短足の犬種であることはとりあえず黙っておく。
「ほーらギルン、いつも言ってる通りだろ? 私は外国人受けするんだって!」
薄い胸を張るトゥリン。
「異国の人の好みは変わってるなぁ。絶対小さいよりスラッと背が高くて美脚な方がいいのに」
ブツブツ言うギルンを横目に、トゥリンはにやけ顔をする。
「そうかあ……そうなのかあ~!」
にやけるトゥリン。
「じゃ、じゃあ、シバタも小さいほうが好みなのか!?」
頭の中で小型犬である柴犬と大型犬である秋田犬を思い浮かべる。どちらも可愛いが、どちらかと言えば、俺は柴犬派だ。
「まあ……そうだな」
ギルンとトゥリンが顔を見あわせる。
「そ、そうか!」
顔を赤くして目を輝かせるトゥリン。
ギルンはそんな俺とトゥリンを交互に見ると、ゴホンと咳払いをした。
「じゃあ俺はこれで。後は若いもん二人だけでごゆっくり! ハハハ」
一体何なんだ?
◇柴田のわんわんメモ
◼豆柴
・豆柴は小さいサイズの柴犬を交配させて作った犬のこと。ただ小さいだけで柴犬から独立した犬種では無いので、日本の主要な登録機関で公認はされていない。
◼犬の寿命と年齢
・犬の寿命は大体10~15歳。小型犬の方が大型犬よりも長生きする傾向にある
・犬の1歳は人間でいう17歳~20歳程度に当たり、その後1年につき4歳ほど歳をとると言われている




