49.夢
こうして魔王を復活させるというゾーラと四天王の企みは失敗し、程なくして新魔王軍は降伏した。鬼ヶ島には平和が訪れ――
俺は、その晩夢を見た。
遠い昔の夢だ。
遠い昔、俺は小さな茶色い獣で、小さな島国の小さな王子に飼われていた。
彼は賢く魔力も強かったけど、いつも孤独で、人間の友達はひとりも居ない。
彼の友だちは、異界から召喚した俺と同じような「イヌ」と呼ばれる獣たちだけ。
彼はありとあらゆる種類の犬を召喚し、増やすのが喜びだったけど、世話の仕方や躾の仕方は知らず、やがて犬は増えすぎ、城の人たちを襲うようになった。
そこへゾーラという名の大臣が、王子に「イヌは野蛮で不幸をもたらす。処分したほうがいい」と持ちかける。
可愛いいからと召喚したのはいいものの、自分には手に負えなくなって困っていた王子はこの大臣の言葉に従い、犬たちを処分しようとした。
賢い犬たちはこれを知ると鬼ヶ島から逃げ出した。
王子の住む城は、地下から大量の魔力が吹き出す場所に建てられていて、城からの魔力の影響を受け、あるものは二本足で立って歩くように進化し、またあるものは人間に変身できるように進化し、あるものは獣人となった。
しかし、変身能力を持たなかった犬もいて――小さな茶色いその犬もそのうちの一匹だった。
そんな小さな犬を救ったのは、同じように小さな人間。
その人間は、小さな犬にご飯と住処と、安心して暮らせる家族を与えたのだ。
その人間は、特別な力は持たなかったけど、俺にとっては勇者だった。
俺は強い魂を持つ彼に、魔王を倒す力を与えた。
程なくして王となった王子は、ゾーラに言われるがままに、自分の意見に従わない者を次々と処刑していく。
元々オーガや人間、獣人たちが仲良く暮らしていた島だったのに、人間や獣人を追い出し、虐殺を始め、周りの国との関係も悪化し、争いが絶えなくなり――
王様はしだいに「魔王」と呼ばれるようになっていった。
全ては、ゾーラの思い描いていたシナリオのままに。
俺は新たな飼い主と共に旅に出た。魔王を倒すために。
二人には同じ目標があった。魔王を倒すのは自分でなくてはいけない。なぜなら魔王は家族だったから。
新たな飼い主の少年は、不吉だとして幼い頃に城から追放された彼の双子の弟だった。
大切な人が道を踏み間違えた時、正すのは家族の役目だ。例え何度生まれ変わろうとも――
◇◆◇
「はあ……なるほどね。まさか魔王と勇者が双子の兄弟だったとは。恐らく魔王は魔族でも何でもないただの弱い人間。だから1000年もの間の封印には絶えられず、魂が劣化してあんな風になってしまったんだな」
俺は新たに発掘した1000年前の資料を読み終えると、足元で寝転がっているサブローさんの頭を撫でた。
それにしても昨日は変な夢を見たな。
自分が柴犬になって「伝説の黄金獣」だとか「犬神様」と呼ばれる夢。
やけにリアルだったのは、ここ数日昔の文献を読み漁っていたからだろうか。
それとも……
ノックの音。
「領主様ー! 午後に『鬼ヶ島ブランド縫製工場』の視察が入ってるポメ! 用意出来たかポメ!!」
入ってきたのはポメラニアン顔のコボルト、秘書のポメ子だ。
「ああ。ありがとう」
俺はポメ子に渡された資料に目を通した。
あれから一年。鬼ヶ島の領主として担ぎ上げられ、領主として新たな毎日を送っている。
とは言っても、俺は新政権のシンボルみたいなもんで、執務はほとんど親魔王政権が立つ前の政権の大臣が行ってるんだけど。
鬼ヶ島に上陸した時匿ってくれたあのオーガもそうだ。あのオーガ、実は旧政権時代に副大臣だったのだという。
政治にほとんど関わっていない俺だけど、この『鬼ヶ島ブランド化プロジェクト』だけは大臣に無理を言って俺自ら立ち上げさせてもらった。
手元の資料にはサブローさんをモデルとしたお洒落なマークが描かれている。
サブローさんマークが目印の鬼ヶ島ブランドは、鬼ヶ島政府が一定の品質、機能、デザインを認めた製品にだけお墨付きとして与えたものだ。
完全に俺の趣味で始めた鬼ヶ島ブランドだったが、工場を建ててからというもの、雇用が改善して海賊行為も減ったし、他国との取引や観光客も増え、景気は上向いてきている。
「それからこの鬼ヶ島新名物『サブローさんクッキー』も売上が伸びているそうで新たな工場の建設のための補助金申請が来ているポメ!!」
「へぇ、このクッキーそんなに売れてるのか」
バタン!!
俺がポメ子と話していると、急にドアが開く。
「りょ、りょ、領主様~! 変な女が領主様に会わせろと無断で侵入しまして……」
バタバタと足音を響かせ走ってきたのはオーガの大男だ。
「何?」
変な女だぁ?




