13.村への帰還
「うわっちっち!!」
火が消えるのを待って、俺はすすだらけになったサブローさんの顔を撫でた。
「ク~ン」
仰向けになり、腹を見せるサブローさん。舌をだらしなくベロリとだし、恍惚の表情を浮かべるサブローさんの白いお腹を、俺はもしゃもしゃと撫でた。
「まさか、こんなに簡単にドラゴンを倒してしまうとは……」
知らなかった。どうやらサブローさんはとんでもなく強いらしい。
『女神のペットとして相応しい力も授けたから!』
ミアキスの言葉を思い出す。
もしかして……それがこれ!?
「シバタ、大丈夫なのか!? ドラゴンを倒すなんて、いくらなんでも出来るわけが」
しばらくして、トゥリンがやってきた。俺たちの後を心配して追って来たのだろう。
「やあ、トゥリン。このトカゲを運ぶのを手伝ってくれ」
丸焦げになったドラゴンの横にしゃがみこんだ俺と、得意げな顔のサブローさんを見て、トゥリンはあんぐりと口を開けた。
「……シバタ、お前、本当に?」
俺は小さく頷いた。
まあ、凄いのは俺じゃなくてサブローさんだけどな。
◇◆◇
「勇者様が戻って来たぞ!」
「なんてこった、本当にやりやかった!」
トゥリンと一緒にドラゴンを担いで村に戻ると、エルフたちの熱烈な出迎えを受ける。
「すげぇ、ドラゴンが丸焦げになってる」
「どうやったんだ!?」
「いや、ほとんどサブローさんが倒したんだ」
エルフたちは感嘆の息を漏らす。
「さすが勇者様、謙虚だ」
「ドラゴンごときでは、勇者様の出る幕はないということだな!」
よく分からないが、やたら好意的に解釈されているようだ。
ドサリと地面に敷いた藁の上に丸焦げのドラゴンを下ろす。
「さて、こいつはどうする?」
「決まってるじゃないか」
トゥリンが笑う。
「食おう!」
俺は香ばしく焼けたドラゴンの肉をチラリと見た。
確かに、こんがりと焼けた肉は、見るからに美味しそうに見えた。
「んー、んまい!!」
「美味いなぁ、シバタ」
村に帰ると、早速俺たちはドラコンの肉を皆に振舞った。
ほっこりと焼けた肉は鶏肉に似ていて、塩を振っただけなのにジューシーで噛むと濃厚な肉汁が溢れだしてくる。
「まさかドラコンの肉がこんなに美味いとは」
「おーい、シバタ、これ!!」
夢中でドラゴン肉にかぶりついていると、遠くからギルンが呼ぶ。
「ドラゴンの肉の中から変なものが現れたぞ!」
「変なもの?」
ギルンが手に持っていたのは、何か赤い文字が書かれた黒い水晶玉のようなものだった。
「何だこれ」
「知らん。ドラゴンの肉の中から出てきた」
俺とギルンが首を傾げていると、マルザ村長が青い顔で駆け寄ってきた。
「……これは!」
「これが何だか分かるんですか?」
「ああ。これは、『傀儡の法』じゃ」
渋い顔をするマルザ村長。
傀儡?
「ということは、誰かがこの竜を操って村を襲わせていたということか?」
渋い顔をするトゥリン。
「ああ、恐らく」
「でも一体誰が」
「決まってるだろ、魔王だ」
鋭い声で言ったのはトゥリンだ。
「きっと魔王がシバタがここに来るのを予期して襲わせていたんだ」
魔王がドラゴンを使ってこの村を襲わせていた?
トゥリンの言葉に思わず息を呑む。
そんな馬鹿な。だとすると、俺のことがもう魔王にバレてるってことなのか?
俺は下唇を噛んだ。
だとすれば、あまりこの村に長く滞在していては迷惑がかかるかもしれない。
そろそろ、旅立つ準備をした方がいいのかもしれない。
◇◆◇
翌日、村を立とうとする俺にトゥリンが声をかける。
「シバタ、本当に旅立つのか?」
「ああ。傷も治ったし、ここに俺がいたら、また魔物が村を襲うかもしれん」
「そうか……」
サブローさんの頭を撫でながらしょんぼりとした顔をするトゥリン。
トゥリンはしばらく下を向いていたが、やがて決心したように固く拳を握りしめて言った。
「シバタ、魔王退治の旅に、私も連れて行ってくれ!」




