第二十八章 トンの町 2.北の草原の調査依頼
冒険者ギルドの依頼発注ボードを眺めていると、職員の人に後ろから声をかけられた。ギルドマスターが呼んでるって? ……こないだ卸したレッドタイガーの骸骨の件かな。上手く捌けなかったとか?
まぁ、行ってみれば判るよね。
「魔物の動きがおかしい?」
「あぁ。狩りに出た連中から、そういう報告が何件も届いている。お前は気がつかなかったのか?」
「だって、初心者ですから。これが普通なんだろうな~って、思ってました」
「そ、そうか。……ギャンビットグリズリーをソロで狩るようなやつに訊いたのが間違いだったぜ」
失礼だなぁ……って、あれ?
「僕、ギャンビットグリズリーのドロップ品、見せてませんよね?」
「あぁ? そりゃお前、ギルドカードを見りゃ、何を何匹討伐したかなんて一発で判らぁ」
「あ……そうか」
でなきゃ、討伐数の水増しがやり放題だもんね。
「で、そんなお前さんに依頼なんだが、北の草原の様子を見て来ちゃもらえねぇか?」
「北のフィールド、ですか?」
「あぁ、西と南は今いる連中でも大丈夫なんだが、北の草原から死に戻った『異邦人』の話だとオークが出たそうだ。本当なら駆け出しにどうこうできる相手じゃねぇ。かといって、腕の立つやつらは目下、町を離れてるしな」
それで僕に話が来たのか……まぁ、いいけどね。
「東は調べなくていいんですか?」
「あぁ、東に行くなんて命知らずはお前さんくらいのもんだ。とは言っても、だ、何か判ったなら教えてくれりゃぁ報奨金は出すぜ?」
適切な準備さえしていけば、命知らずって言うほど危険ではないと思うんだけどね。実際、ケインさんたちはあそこで稼いだんだし。
「調べるって、何を調べればいいんですか?」
「何でも構わん。おかしいと思った事は、何でもかんでも報告してくれ」
・・・・・・・・
……という経緯で、北のフィールドにやって来たんだけど……
「シル、この前来た時よりも、獲物が少ないね」
以前来た時には昼前までに、スラストボア、ワイルドボア、プレーリーウルフ、ホーンドラビット、モノコーンベア、ハイディフォックス、サイレントホーク、スキップジャックヴァイパー、ファイアリザード、インビジブルマンティス、等々を狩った憶えがある。特にプレーリーウルフは二十頭以上狩った筈だ。なのに、それに較べると今日は明らかに獲物が少ない。正確に言うと、鳥系や爬虫類系、昆虫系のモンスターはそれほど減っていないような気もするけど……哺乳類系のモンスターの数は明らかに少ない。
「【虫の知らせ】や【嗅覚強化】にも反応がないし……あ、そうだ」
スキルで思い出した。朝のお手伝いクエストで貰ったスキルオーブ、使えるかどうか試してみよう。
「え~っと……確かこうやって、オーブの力を解放するように念じるんだっけ……おわっ!」
突然オーブが光ったもんだから吃驚したけど、輝きはやがて収まった。成功したのかな? ステータスボードをチェックしてみると……おぉ、【聴耳頭巾】っていうスキルが増えてる。「スキルコレクター」の説明には、オーブからスキルを得る事ができないってあったけど……クエストの報酬は別枠なのかな? それとも、前に貰った称号【神に見込まれし者】が、何か影響してるのかな?
しばらく足を止めて考え込んでいたら、警戒系の四スキルに反応があった。
隠密系三スキルを重ね掛けしたまま反応のあった方向へ進むと……オークだ。五頭ほどが群れ……というか、パーティを組んで狩りをしてるみたいだ。傍らにスラストボアの屍体が置いてある。……オークがスラストボアを狩るって、何かシュールだな……。
どうやら、ここで獲物が少なかったのはオークのせいらしい。表示で見る限り敵扱いだし……狩っていいのかな。【聴耳頭巾】の説明によれば、敵扱いの相手の言葉は翻訳されないみたいだけど……まぁ、敵が命乞いしてきたら殺しにくいしね。運営の判断なんだろうか……。いや、それはともかく、何を話しているのかが解れば敵じゃないって事なんだろうけど……遠すぎて聞こえないね。何か方法は……え?
【落とし物】が反応した? あ……あのオークが持っている槍、プレイヤーの遺品だ。……って事は、オークたちが狩っ……いや、殺したのかな? 詳しい経緯が判れば……あ、そうだ。確か今朝ログインした時に拾ったスキルに……
あった。【古道具屋】、アイテムの来歴――以前の所有者の名前や使用状況など――が判るスキルだ。これを使えば……あぁ、やっぱりか。昨日ここでオークに殺されて死に戻ったプレイヤー――シンっていうのか――の持ち物だったみたいだ。よし、敵決定。
狩ろう。




