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第百六十三章 プリズン・ブレイク~Afterward~ 4.我らトリック3

「ひ……酷い目に遭った……」

「まだ地面が揺れてる感じがする……」

「陸上でも船酔いってするんだな……」

「船酔いって言うか、車酔いだろ」

「コレを車って言い張るのは、何かなぁ……」

「船と言い張るよりマシじゃんよ」



 スカラベ――正式名称は「学究者(スカラー)(べー)」――の操縦席は、ジャイロ効果か何かによって水平を維持するようになっているらしいが、どこぞの誰かのようにイナーシャル・キャンセラーを積んでいる訳ではない。故に、急な方向転換やアップダウンの際に生じる加速減速のベクトルを消去する事まではできず、酷い船酔いのような状態になったらしい。

 しかも……



「……ログアウトしている間も、ずっと揺れのバッドステータスを受け続けた事になってる訳だな……」

「ログアウトすりゃ車酔いとはおさらば――って思ってたのに……」

「そんな甘い考えを許す筈が無いよな、ここの運営……」



 ――その辺りはしっかりと手を打ってあったらしい。


 シュウイのやらかしに(まつ)わるアレコレを見ていると、手抜かり・見過ごしの多そうな印象を受けるが、そうとばかりは言えないようだ。少なくとも一般プレイヤーに対しては。

 〝プレイヤーが酷い目に遭う展開に関しては手を抜かない〟、〝人の嫌がる事()進んでやる〟運営……という評価も(むべ)なるかなという気がする。



「しっかし……あのオッサン……」

「ちゃっかり自分だけ安全圏に居座りやがって……」

「出発の時はあんなに盛り上がってたくせしてな」



 ――そう。ひっそりと出発したかったであろう闇ギルドの意向も何のその、出発に臨んでドクター・ヘイは、工員たち――三人組は密かに「スカラベ建武隊」と呼んでいる――を引き連れて、



〝おぉ……見るがいい諸君。我々が心血を注いだ学究者(スカラー)(べー)が今! 地を駆け()くぞ!〟



 ……などと大盛り上がりだったのだ。工員の中には涙していた者もいたくらいだ。

 そのくせに、折角だから同乗すればという誘いには、



〝実用性を評価するなら、開発者でない者が乗って確かめるべき〟



 ――などと言ってこれを回避したのだから、三人組の憤懣(ふんまん)も故無きものではない。(こと)にスカラベの乗り心地を知ってしまった今となっては。

 ブツブツと怨み言を口にする三人組であったが、



「まぁでも、キッチリ目的地に着いたのはさすがだよな」

「まぁ、そこはな」

「あぁ。さすが自動運転車だよな」

「結構、結構――ってか?」



 ログアウトしている間も自動運転によって裏道を進み、支障も遅滞も無くシアの町外れに着いた事は評価しているようだ。

 三人は自動運転に感銘を受けているようだが、実はログアウト中の移動というのは、夜行馬車などで既に実証されている案件であった。他ならぬシュウイがその夜行馬車を利用して、ナンの町まで移動した事もあるのだが、三人組はそれに気付いていなかった。


 ちなみに、裏道とは言え夜を徹して爆走して来たスカラベが目撃を免れているのは、ドクター・ヘイとそのチームが開発したステルス装置、秘匿開発名称「ニンジャ」の働きによるものであった。


 まぁ、そういうアレコレはさて()くとして……闇ギルドの本来の指示に従うなら、三人はこのままギルドのアジトへ向かい、スカラベを引き渡した後はそこで温和(おとな)しく次の指示を待つべきであった。

 しかし、承認欲求と短慮の塊のような三人組が、そんな(しん)(みょう)な振る舞いに満足する訳が無い。



「なぁなぁ、ひょっとしてオレら、シアの町一番乗りなんじゃね?」

「あ……ひょっとしてそうかもな」

「こりゃもう、俺たちの偉業を大々的に知らしめるしか無いよな♪」



 ……などと、闇に隠れて生きるのを身上とする闇ギルドが聞いたら頭を抱えそうな事を、平然と口にしていたりする。どこかに「○○参上」的な落書きでも残そうじゃないかという話になったのだが、



「けどよ、オレら三人の名前を並べて書く訳? 〝ゴーマ・ボウ・ダラク参上〟ってな具合に」

「あー……何かパッとしねぇな。長過ぎて間が抜けるっていうか」

「一人抜けて三人になっちまったから、今更『背徳の四徒(しと)』も何だかなぁ」

「折角だから、新しく名告(なの)るか?」

「おー、いいじゃんそれ」

「だったらさ、何かこう、新生・オレらの活躍をホーフツとさせるような名前がよくないか?」

「いや……彷彿(ほうふつ)も何も、俺たちの活躍はこれからだろ?」

「……何か最終回っぽいから()めようぜ、その言い方」

「あー……脱獄の件はどうだ? 実行したのは闇ギルドだけど、俺たちの初登場って事に違いは無いんだし」

「あー……まぁ、アリっちゃアリか」

「けどよ、何て名告(なの)るつもりだ?」

「んー……鮮やかに脱獄した手並みを強調するような感じで……」

「何かトリックでも使ったのかってくらい、アザヤカだったからな」

「お、いいじゃんそれ。『トリック(スリー)』ってどうよ?」

「おぉ」

「いーじゃんいーじゃん」



 ……てな感じで、三人組の新たな名告(なの)りは「トリック(スリー)」に決まった。


 で――場所もあろうに領主館の裏の林の木の幹に、墨痕(ぼっこん)も鮮やかに「トリック(スリー)参上!」と大書したまではまぁよかったのだが……あろう事かこの三人、シアの町到着を掲示板に書き込むなどという暴挙に走ったのは、既に読者諸賢もご存じのとおりである。

 三人が闇堕ちプレイヤーだという事を(しん)(しゃく)していたのか、シアの町到着に関しては沈黙を守っていた管理AIも、〝本人たちに隠す気が無いのなら構わないよね♪〟――とばかりに、ワールドアナウンスによる広報通達に踏み切ったのであった。



・・・・・・・・



 これに頭を抱えたのが闇ギルドである。

 まさか手配犯となった者が、堂々と自分の所在地を公表するとは思わなかったのだから無理もない。

 アウトローとしての自覚がなっとらん! ……とばかりに三人に厳重な叱責を加え、罰として【変貌】のスキルを押し付けた。

 アウトローに身を落とした三人には必要なスキルであると同時に、スキル枠を一つ食い潰す訳だから、プレイヤーへのペナルティとしては中々である。こんな対処を即興でやってのけた管理AIの能力を()めるべきであろう。

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― 新着の感想 ―
船乗ってる時はそーでもないけど(揺れてるのが当然と思うから) 陸に上がったら地面がしっかりしすぎててソッチ(陸上)のほうが揺れてる気になる事も・・・・ある おか(陸)酔いとよんだりもしますね
炎上系ムーブしてやがる……自分達が犯罪者やってる事を今一自覚してなさそうですね。
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