第百六十三章 プリズン・ブレイク~Afterward~ 3.その名はスカラベ(その2)
今回も解らないネタは、(生)温かい目でスルーして戴けると助かります。
球形なるが故に、全方位に即時の方向転換が可能であり、容積に対して外表面、つまり攻撃を受ける面積を最低限に抑えられる。それ故に外圧に対しても強い抵抗力を示し、下手な要塞などよりずっと高い防禦力を持つのだという。
「……しにてはショボくね? コレ」
「これは完成形の雛形に過ぎん。本来のメガ・ボールは直径二十メートル、重量は三百~五百トンになる」
「あ、全長五十メートル、体重二万トンとかじゃないんだ」
「その重さでは慣性が大き過ぎて、停止や進路変更が難しいじゃろう」
(「あ……慣性とかあるんだ、このゲーム」)
(「そういうのはサックリ無視すんのかと思ってたな」)
――そんな事は無い。SROにもちゃんと慣性の概念は存在する。
何しろ「慣性制禦」があるくらいなのだ(笑)。
「如何なる敵の攻撃も弾も撥ね返し、人馬も軍船も踏み潰して、山を越え川を過ぎ、進み行く戦車、精騎の味方となる筈だったのじゃ」
「いやいや、そんな馬鹿でかい図体、発見されて先手を打たれたら終わりじゃん」
「そこに抜かりは無いわい。ちゃんと隠蔽機能も付与してある」
「お、おぉ……姿を見せずに現れたり消えたりできる……の、か?」
「然り。万全無敵の戦車となる筈だったのじゃ。……なのに……あの解らず屋どもときたら……!」
〝闇ギルドは社会の隙と歪みを衝く事で利益を追求する集団であり、そのためには既存の社会構造が健全に維持される事が望ましい。よってギルドが世界征服を目論む秘密結社となる事は無い〟……という理由の下に、開発は却下されたらしい(笑)。犯罪結社としては或る意味正しいスタンスである。
ただし、球体の乗り物というアイデア自体は評価され、申請より大幅にスケールダウンした形、即ち「メガ・ボール」ではなく「学究者・B」として、研究が続けられているらしい。
「近頃の若い者は覇気が足らん!」
「いや……良識を持ち合わせているだけじゃないのか?」
プリプリしているドクター・ヘイを見て、どうやらこのオッサン、闇ギルドでも持て余し気味らしいと察する三人組。身内としておくには持て余すが、然りとて放流するのはもっと怖いという理由で、飼い殺しに近い扱いを受けているのだろう。
ただ、完全に飼い殺しにするには惜しい才能の持ち主なので、適度に操縦しつつ開発研究を許している……というのが実態のようだった。
「次の質問なんだが……これって2号機だよな? ……1号機はどうしたんだ?」
「うむ……少々野心的な設計を詰め込んだのがいかんかったのか、爆さ……バラバ……ちと不具合を起こしての」
「……今、〝爆散〟とか〝バラバラ〟とか言わなかったか?」
「気のせいじゃ。……この2号機は、正直不満なところはあるが、保守的な設計を採用しておるからの。安全性は較べものにならんくらい高まった筈じゃ」
「……1号機はこれとは較べものにならないくらい危険だった……って事だよな?」
そんな危なっかしさを秘めた球体戦車の巨大版――しかも新設計てんこ盛り――の開発建造など、とても恐ろしくてやってはいられない。闇ギルドの判断を讃えるべきであろう。
この「学究者・B」にしても、不具合は大幅に改善してある筈だと言うのだが……だとしても、進んでテストドライバーを務めたくなるようなマシンではない。
しかし――である。
立場と見方を変えてみれば、そんな危険な実験機だからこそ、死に戻り上等のプレイヤーの出番に打って付けと言えるのではないか?
そういった判断の下、三人は相談の上でこの依頼を受ける事にしたのだが、
「はぁ? 今からコレに乗ってシアの町へ行け? 冗談言わんといてくれるか?」
「こちとら運転っつーか操縦の仕方も習ってないんだ。座学も教習も補助員も無しで、どうやってシア下りまで行けってんだよ」
「第一もう夜だろうが。俺たちゃログアウトしなきゃなの!」
ブーブーと不平を鳴らす三人であったが、そんな些事に頓着するようでは、「マッド・アルケミスト」の尊称(笑)など授かる訳が無い。
「侮るでない。そのくらいの事は百も承知、二百も合点じゃ。この『学究者・B』を、そんじょそこらの乗り物と一緒にしてもらっては困る。地図と行き先をインプットしてやって、後は人工知能に任せてやれば、放って置いても目的地に着くわい」
「「「おぉ……」」」
「まぁ、正確な地図が無ぅてはどうにもならんのじゃが」
「「「――おぃ」」」
……とまぁこういった次第で、一抹どころか二抹三抹の不安を胸に抱きつつも、三人はフンコロ……「学究者・B」に乗り込んで、まだ見ぬシアの町へと出発したのであった。




