第百六十二章 図書館自習室 3.穴掘りと5トンの術
初っ端から期待を潰された形だが、それに続く【穴掘り】については情報を得る事ができた。まぁ、読んで字の如く穴を掘るスキルなのだが、
「道具を使って掘る場合限定で、素手で掘る場合には補正がかからないのよ。【掘削】とは対照的ね」
「一度に掘れる土の量は、なぜか【掘削】の方が大きいけどな」
「……何でそんな事したんだろ?」
「運営さんの嫌がらせ!」
「……じゃないかって説が有力だけどな」
「……取り敢えず、両方揃えている分には問題無いわよ」
「両方持ってるってやつには、会った事が無いけどな」
確かに実用上の問題は無いか――と、蒐一も気にするのは止める事にした。残るは最後の大トリである。
「あと、【5トンの術】っていうのが知りたいんだけど……」
最初から諦め半分の問い――【5トンの術】などと聞くだに妙なスキル、誰が知っているというのだ――であったが、意外にも返って来た反応は、
「へぇ!? いいの拾ったじゃないか蒐」
「これは……【忍術】の実装も期待できそうね」
「蒐君、忍者に転職!?」
「あぁ、【猿飛】とか【脱皮】、【息継ぎ】なんてスキルも持ってたしな」
「え? え? え?」
【5トンの術】とはそこまでメジャーなスキルであったのか? 何か、自分も知ってて当然のような言い方が気になるが……5トンの忍者?
「いや? 忍者っつったらやっぱりこれだろ? 火遁の術とか水遁の術とか」
「【穴掘り】と【掘削】があるんだし、土遁の術もいけそうよね」
「あとは木遁の術と金遁の術!」
「え? ……あ! 【五遁の術】か!?」
「? さっきからそう言ってるだろ?」
――「五遁の術」。木火土金水の五行に準えた様々の手段で、敵の注意を他に逸らして逃げ隠れする術の総称である。
……5トンとは何の関係も無い。
文字表記に惑わされていた蒐一は気付かず、逆に幼馴染みたちは「ごとんのじゅつ」と聞いて素直に「五遁の術」に脳内変換したので、却って蒐一の混乱に気が付かなかった訳だ。
不審・得心・呆然・慚愧と目紛るしく変わる蒐一の百面相に、こちらも負けず劣らず困惑していた幼馴染みたちも、蒐一の誤解(?)を聞くに及んで納得していた。
そこで、残る問題点は一つに集約される。即ち――「5トン」と「五遁」、正しいのはどちらか。
一応ダブルミーニングの可能性も疑いはしたが、「ごとん」と聞いて思い当たるものが無い。まさか五匹の子豚とかではないだろう。あれは「三匹」だった筈だ。
となると、ステータスの誤字表記――の、振りをしたトラップ――という可能性が濃厚だが、これに関してはスキルを使用してアンロックするぐらいしか、確かめる方法を思い付けない。結局はこれもシュウイ案件となりそうだが……
「……何考えてんだ? 要」
何か考え込むように黙りこくった要を見て、匠が気遣わしげに声をかけた。
「あぁ、いえ……大した事じゃないんだけど……【5トンの術】が【五遁の術】だとして、火遁でも水遁でもなく、敢えて【五遁の術】と表記したのが、少し気になるのよね」
「「「――は?」」」
「だって、五種類の遁法を一括して扱うという事でしょう? ……蒐君、確認するけど、アーツじゃなくてスキルなのよね?」
「あ、うん。スキルの欄にあった」
要の訝りが理解できた事で、残る三人も不審の念に囚われる。
「五遁の術」のそれぞれが縁付いているものがあるとすれば、それは【火魔法】とか【水魔法】とかの魔法スキルであろう。では、どうしてそれらの魔法スキルの中に、火遁なり水遁なりの技法が無いのか?
「包括的なものでないとすれば、逆にエッセンシャルな基礎的技術なのかもね」
「基礎的技術?」
「えぇ。『五遁の術』って、要はミスディレクションの技法でしょう?」
「あー……それは確かに」
ミスディレクションと言えば手品、即ち【遊興術】にも繋がってくる。ひょっとして【大道芸】にも通じたり?
「それはどうか解らないけど……」
ありそうと言えばありそうな話に、蒐一と匠が考え込むが、そんな思案など気にも留めずに割り込んだのが茜である。
「ねぇねぇ、火遁の術って、火薬玉をドッカンするやつだよね?」
「ドッカ……まぁそうだな」
「だったら、【爆発】とかも使えたりしない?」
「「あ……」」
拾ったはいいがあまりの危険物臭に、手を付けないまま放ってあるあのスキル。あれがここに関わってくるというのか?
碌でもない事を言い出した茜に蒐一は頭を抱えそうになったが、意外にも要はその方向に活路を見出したようだ。
「【五遁の術】を上手く使えば、【爆発】をコントロールできないかしら?」
さすが親友と言うべきなのか、茜に負けず劣らずアレな事を言い出した要に寸刻虚ろな目を向けた男子二人であったが、しかしものは言いよう考えようである。火遁の術というからには、自分まで吹っ飛ぶような爆発は起きない、起こさない筈。それを確認した上で、【爆発】をコントロールできるかどうかを試してみるのは……ありかもしれない。
少なくとも【5トンの術】に関しては、なるべく早く確かめてみた方が良さそうだ。
次回からゲーム本編(?)に戻ります。




