第百六十二章 図書館自習室 2.薬酒と人形遣い
【死霊術】の話が出たところで、「ワイルドフラワー」からの報告も他に無いようだし、このままシュウイの喚問……報告会に雪崩れ込もうという事になる。蒐一にも特に異存は無かったので、改めてペンチャン村を出るところから始めたが……開始早々、要が薬草酒の話に喰い付いた。
「えーと……つまり……?」
「つまり、プレイヤーが試作していた『薬酒』は、実は『薬酒』じゃないかもしれないという事ね」
「……へ? 何それ?」
リアルの「果実酒」にインスパイアされて、酒に薬草を漬け込む事で「薬酒」を作ろうとしたプレイヤーはそこそこいるらしい。ただ、それでできた「薬酒」は品質が低く、【鑑定】しても《薬酒っぽいもの》としか表示されないのだという。
おそらくは熟練度が足りていないか材料の品質が悪い、でなければ漬け込むのに使った酒が不適当で、蒸溜酒を使えばいいのではいか……などと取り沙汰されているらしい。
「でもね、アラベラさんというNPCの薬師が言った事を能く考えてみると、そうじゃない可能性も出てくるのよ」
要の言うところに拠ると、アラベラの台詞――運好く蒐一が憶えていた――で注意すべき点は二つ。その一つが〝今のシュウイの手に余る〟発言であり、もう一つが〝手間の割に効果が今一〟発言である。
一方、プレイヤーたちが試みたのは、単に〝薬草を酒に漬け込む〟だけであり、〝手に余る〟だとか〝手間〟だとか言われる要素はどこにも無い。
つまり逆説的に言えば、薬草から薬酒を造るには、〝難しく手間のかかるプロセス〟が必要であり、その品質向上も〝一般的な素材の選別〟ぐらいでは果たせない……という可能性が浮かんでくるのである。
要するに、プレイヤーが試みていたような安直な方法では、効果の高い薬酒は造れない可能性が高いという事だ。
おそらくは何らかのアイテムかスキル――もしくはスキルのレベル――が必要なのだろうが、それが何かは判っていない。ただアラベラの発言から、①【調薬】が必要であろう事、②品質向上の手段の一つが【猩々】らしいという事が推測できるだけである。
「ネガティブでしかも未確定な情報だけど、それでも報告しておいた方が良いでしょうね。……蒐君が解明したいというなら別だけど?」
「……宜しくお願いします」
のっけから思わぬところに引っ掛かったが、幼馴染みたちが次に喰い付いたのは、案の定ゴーレム討伐の一件であった。
ただ、ゴーレムの討伐自体は二度目な事もあって、そこまで喰い付きはしなかったのだが、
「……え? ワールドアナウンス?」
「あぁ。蒐は【人形遣い】を取得したって言うけど、その件に関するアナウンスは無かったぞ」
「え――と……もうずっと前に誰かが解放してた、とか……?」
「「「それは無い」」」
「はぁ……」
「あのね蒐君、抑ゴーレムのスキルって、β版にも無かったんだよ」
「え? そうなんだ?」
「あぁ。自分好みにカスタマイズできるってのは、やっぱり魅力的だからな。要望は多かったんだが」
「商用版での実装についても、公式には何のコメントも無いのだけれど……」
「こっそり実装してんじゃないか――って言うやつは多かったな」
要はプレイヤーたちが熱望しているスキルもしくはアーツなので、発見されたら話題にならない筈が無いというのだ。そしてそういう話題性がある以上、運営が何もアナウンスしないというのも考えられない……というのが幼馴染みたちの見解であった。
「……確かシルちゃんの時は、卵から孵った後に名前を付け、従魔契約が成立した時点で流れたのよね? アナウンス」
「うん……そうだった」
「て事は……」
「蒐君が使ってみてアンロックしないと駄目なんじゃない? 【人形遣い】」
「やっぱり……?」
面倒なスキルやアーツには関わりたくないのが本音であるが、然りとて死蔵していいアーツだとは思えない。シュウイ以外の誰かが発見・解放してくれれば問題無いのだが……
「難しいんじゃないかしら? 話を聞いた限りだと、かなり変則的な取得ルートみたいだし」
「……変則的な取得ルートなら、仮に情報を公開しても、再現性が薄いんじゃない?」
「それでもな、存在するって情報は出すべきだと思うぞ」
「う……」
「まぁまぁ、別に掲示板に書けと言ってる訳じゃないし」
「単に使ってみるだけだろ?」
「その〝使ってみる〟のが不安なんだよ……」
もしも【人形遣い】を解放した途端、雲衝くような巨体のゴーレムが顕現したらどうしてくれる。悪目立ち爆走一直線ではないか。
「あー……巨大ロボはある意味でお約束だもんなぁ」
「SROの運営、そういうところは律儀で勤勉だもんね」
「嬉しくないやぃ……」
己が境遇を呪いたくなった蒐一だが、それを慰めるかのように、
「だったら尚更、今のうちにやっておいた方が良いと思うわよ? 今なら他のプレイヤーがいないんでしょ? カンチャン村」
「ウン……ソウダネ……」
慰めになったかどうかは不明だが、取り敢えずカンチャン村での予定は順調に埋まっているようだ。
要の指摘にも一理ある……一理ぐらいはある……と、自分を納得させたところで、蒐一は残る問題の提起に移る。蒐一にとっては或る意味ここからが本番……そう、初見スキルについての情報収集である。
「いや……【詐称】スキルの使い方なんか訊かれてもな……」
「それって闇堕ちスキルじゃない? あたしたちみたいな一般プレイヤーは知らないよ?」
「いえ……討伐されたPKプレイヤーが落としたものとか、拾われる事は偶にあるみたいね。それも珍しいみたいだけど」
SROでは街中でPKできない仕様なので、態々このスキルを取らないPKプレイヤーも意外と多い……というのは、一般プレイヤーが知る事の無い事実であったりする。
掲示板で訊く事もできるが、余計な注意を集めるだけではないかという話になり、これに関してはシュウイの自助努力に期待という事になる。




