第百六十一章 プリズン・ブレイク~脱獄クエスト第二弾~ 1.開始
おかしな奴らが再登場です。
カンチャン村の手前の街道でシュウイ、トンの町で瑞葉、ナンの町の郊外で「ワイルドフラワー」と、三ヵ所それぞれで割と重要なイベントが人知れず進められたその同じ日の夕暮れ……忘れられた場所で忘れられた者たちが、やはり重要なイベントを人知れず成し遂げようとしていた。
舞台はナンの町の一隅にひっそりと佇む監獄の塔、登場人物は剣士のゴーマ、魔術師のボウに盗賊のダラク。 ……そう、無茶と無謀と無計画の果てにツインヘッドグリフォンのモンスタートレインを引き起こして、ナンの町を半壊に陥れた咎で収監中の三名であった。
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『おぃ……大丈夫なのかよこの薬?』
『俺だって知らんっての。けど、ここは肚括って飲むしか無いだろ?』
『まぁ……それも、そうか』
『そうそう。万一これが毒だったとしても、俺たちゃ同じ場所に死に戻るだけだかんな。今より悪くなる事は無いって』
『まぁ……そう言われればそうか』
弱気と捨て鉢の綯い交ぜとなった口調で、半信半疑の問答を交わしているのは、一般受刑者用の牢に収監されているゴーマとボウの二人である。それぞれ別の牢に収監されてはいるのだが、なぜだかチャット機能が制限されていないのを幸いと、悠々の密談を交わしているのだ。
恐らくはこういう「脱獄クエスト」のために設定された仕様であろう……というのがプレイヤーたちの一致した見解であった。
だがまぁ、それはそれとして、二人の手にあるのは見るからに如何にもな怪しさを振り撒いている薬の小瓶。なんと地元の闇ギルドから、どういう手蔓を使ったものか、怪しさ爆発のメッセージと共に届けられた代物である。
曰く――〝脱獄する気があるのなら、指定の日時にそれを飲め〟
普通ならこんな疑義芬々たる誘い文句、一顧だにせず打ち棄てて終わりなのだろうが……幸か不幸かこの時は、文面の正当性を覿面に保証するものが付随していた。即ち――
《特殊クエスト「牢からの脱獄」が発生しました。クエストを受けますか? なお、このクエストを受注した場合、自動的にアウトロー扱いになります。 Y/N》
そう……以前にもダラクとボウの前に出現した、クエスト参加の意思を問うメッセージウィンドウである。
あの時は様子見という事もあって、ダラク一人が受注した。そのダラクは生憎とクエストに失敗して再逮捕、今は重犯罪者用の独房に収監されているのだが、少なくともこれが正規のクエストである事は証明された。
ならば今こそ、このクエストを見事クリアーして、凡俗プレイヤーどもの鼻を明かしてやる好機なのではないか?
『んじゃまぁ』
『せーので』
『『いっせーの……せっ!』』
――と、思い切りよく飲み下した秘薬(笑)の霊験は灼たかで、
「……へっ?」
「うわぁっ!?」
「な、何だこりゃあ!?」
薬を飲み下してから数秒後、二人の身体は剛性と支持力を失い、ヘナヘナとスライムのように頽れたのである。
……いや、〝スライムのように〟という喩えは適切でないかもしれない。何となれば二人の身体は、確かに独力でしっかりと立つ事はできなくなっていたが、それでもスライムのような不定型に堕した訳ではない。人の姿は間違い無く保ったまま、それでいてキチンと立つ事だけができていないのだ。……丁度タコのような軟体動物が、タコという形を保ったまま、グンニャリグネグネとへたり込んでいるように。




