第百六十章 「ワイルドフラワー」使役獣獲得事情 6.遭遇
年内最後の更新となります。
それまで後になり先になり、楽しげにサフランに付き従っていたパピィが突然足を停めると、何かを警戒するように喉の奥で低い唸り声を上げた。
「パピィ? どうしたの?」
「……この先に何かあるんだろうな」
「ん。それも警戒を要するものが」
「パピィの態度からすると、そこまで危険なものじゃないみたいだけど」
シュウイのように馬鹿げた数の警戒スキルは持っていないが、それでも三人揃えば文殊の知恵……ではなく、それなりに警戒能力も上がっている。三者三様、パピィを入れれば四者四様に注意を払い、慎重に歩を進めてみたところが……
「……リーダー、アレ、何?」
「何だろう……?」
「猫が毛糸に絡まってるように見える」
「確かに言い得て妙だけど……」
三人+一体の前で、雁字搦めになりながらも、警戒音だか警告音だかを発しているその塊は……
「えーと………………クモの巣に絡まった……黒猫? いや仔猫?」
「リーダー……子供だろうと猫を捕獲するようなクモの巣って、普通は無いと思うんだ、あたし」
「ん。〝仔猫〟以外に木の枝や、宿主らしい〝クモ〟まで巻き込んでる。〝クモ〟のサイズが〝仔猫〟と変わらない事を考えると、最低でもクモの方はモンスターの可能性が高い」
「そうするとさぁ、モンスターである〝クモ〟に捕獲されながらも生き存えてる〝仔猫〟の方も、やっぱりモンスターって事になるんじゃない?」
「でもリーダー、ここまでに出て来たネコとクモのモンスターっていったら……」
「ネコ族はレッドタイガーかミミックジャガー、クモはトラップスパイダー。ヘルファイアリンクスもいたけど、あれはNPCの従魔だった」
「大きさから考えると……幼体かな?」
「多分そう。で、進退窮まってるモンスターの幼体が、使役獣を探している使役職の前に現れたというのは、これはもう……」
「クエスト……なんだろうね」
カナの見立てどおり、これが初級者を対象としたクエストだとすると、そこまで複雑困難な条件にはなっていない筈。その上でこの状況となれば、これはもう使役獣の入手クエスト以外に考えられない。それならこの場で契約を申し出れば、そのまま受理される可能性が高いのではないか。
ただ……だとしても気になる点が無い訳ではない。
「……それがどうして幼体で?」
ミミックジャガーにせよトラップスパイダーにせよ、有力なモンスターには違い無いが、それは飽くまで成長した個体の場合。育つのにどれだけ時間がかかるのか、どんな風に育つのかすら心許無い幼体を、敢えて登場させる理由がどこにある?
「あれじゃない? 初心者が成体と契約するのは難しいから、幼体にして難度を下げたとか」
「同意」
「あり得ない話じゃない、か……」
「それを確認するためにも、早急にこの二体を【鑑定】する事を勧める」
「あー……そう言えば……」
「ショッキングな光景だったんで忘れていた……」
ミモザに勧められた【鑑定】の結果は……
「仔猫はミミックジャガーの変異種でクモはトラップスパイダー。どちらも幼体で、充分な餌が摂れなかったので消耗している……と」
どうやら種類はミミックジャガーとトラップスパイダーで間違い無いようだ。
「ジャガーが黒いのは変異種だから?」
「かもしれないけど……単なる色違いを『変異種』って呼ぶかなぁ?」
「ん。それにトラップスパイダーの方も、『変異種』との記述が無いにも拘わらず同じように黒い」
ミミックジャガーはその名のとおりヒョウ柄であった筈。なのに目の前にいる幼獣は、耳の辺りに白い筋が入っているのと腹部に淡いレモンイエローの縞模様があるのを除けば、全身ほぼ真っ黒である。一般的なミミックジャガーの柄とは懸け離れている。まぁ、これは幼獣だからそういう配色になっている可能性もあるが。
クモの方も背面は黒く、胸部腹面には赤い×印の模様が入っている。能く見るトラップスパイダーとは少し模様が違うようだが、元々トラップスパイダーは色彩変異が多様なモンスターだ。況して幼体だとなると、色や柄の違いは当てにならない。
「まぁ、それは契約してから確かめればいいか」
新年の更新は六日からとさせて戴きます。
それでは、良いお年を。




