第百六十章 「ワイルドフラワー」使役獣獲得事情 1.発端
それがトリガーであったのかどうかは今となっては知る由も無いが、一つの切っ掛けではあったのだろう。
ナンの町の冒険者ギルド職員・メイビーことフランセスカから、〝予て頼まれていた高品質肥料の当てが付いた〟との連絡を受けた朝の事であった。〝全員が町を離れるのは避けてほしい〟というこれもメイビーの希望を容れて、町外れに住むというその農家を、「ワイルドフラワー」の誰が訪れるかが話題になった時、メンバーの一人であるサフランがポツリと呟いたのである。
「ちょっと気になる事があるんだよね……」
何の気無しにというには少し深刻そうなその呟きに、残りの四人――+サンチェス――は互いに顔を見合わせる。〝気になる事〟とはどういう事か。
「いやさぁ……あたしたちってこの後、ウィルマさんたちのいる村――というか限界集落?――を訪ねるのよね?」
「そのつもりだけど……?」
ナンの町の復興クエストも終わりの気配を見せ始めたので、「特殊ポータル」について何か情報を得られないかと、頃合いを見てウィルマたちの住まう(限界)集落を訪れる。それは既に全員の同意を得た筈ではなかったか?
「いや、それはいいんだけどさぁ……あそこってホラ、〝使役術師でない者お断り〟みたいなとこ、あるじゃない?」
「あー……それは……」
「言われてみれば……」
排他的というのとは少し違うが、抑バーバラの紹介無くして辿り着けたかどうか怪しいし、使役獣を連れていないとクエストが始まらなかったのも、使役獣を得たカナとセンだけがクエストを受けたのも事実である。そういった面があるのは否定しづらい。
「だからさ……今のまま行ったら、今度もあたしたちだけハブられる事になるんじゃないか――って思うのよ」
「あー……それは……」
「言われてみれば……」
サフランの訴え、そしてエリンとミモザの同意を聞いて、カナとセン二人の使役獣持ちは、互いに顔を見合わせる。持てる者と持たざる者とで「ワイルドフラワー」が分裂の危機を迎え……たりはせず、
「つまり……行く前に使役獣を確保した方が良い――って事よね?」
「正解!」
――成る程。サフランの言い分にも一理はあるが、ウィルマたちの許へ行く前に従魔なり召喚獣なりを探すとなると、場所はどうしても人里近くになる。人里のモンスターは警戒心を無くした堕落者、警戒も隠蔽も三流止まり……と、嘗てサンチェスが喝破したではないか。
「けどさ、逆に言えばそれ以外のスキルは使えるって事じゃない? 人里近くで活動するのに向いたスキルとか」
「あー……それは……」
「あるかも知れないわね……」
「ん。胡麻擂り上手とか愛想の良さとか」
「ミモザ……そこは対人スキルとか社交スキルって言わないと」
確かにそういう事はあるかもしれない――と、当のサンチェスも頷いている。使役獣の全てを隠蔽・警戒持ちで揃えるより、多様な能力と適性を持つものを揃えた方が、パーティとしての対応能力は上がるだろう。
「その心は?」
「何でもいいから早く召喚獣が欲しい!」
センの突っ込みに、打てば響くという感じでボケを返したサフランであったが、その主張自体は妥当なものであった。
……しかし、ちょっと待ってほしい。
目の前にいる対象に契約を迫る従魔術師ならいざ知らず、召喚術師にはそういった制約は無いのだから、好きな時に好きな様に召喚を試みればいいのではないか?
……と言いたくなる向きもおいでであろうが、実はこの問題に関しては早くから、召喚されるモンスターは召喚を行なう場所の影響を受ける可能性が指摘されていた。
そうでなければ、ゲーム開始早々のトンの町で、ゲーム終盤に出て来るようなモンスターが召喚されるような事故だって起きそうではないか。スキルレベルとかMP総量とかの条件があっても、そういったステータスを上昇させるスキルやアイテムがあるのも事実である。運営サイドの立場としては、フェイルセーフは幾重にもかけた方が望ましい筈だ。
そして――そういう縛りがあるからには、町の中で召喚を行なった場合、町の中に棲息するモンスター(?)――か、小動物――が対象になり易い事は充分に考えられる。
よって……叶う事なら町の外――例えば郊外の農園とか――で召喚を試したいというサフランの願望と提案も、決して故無きものではなかったのである。
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日から七日間、21時に更新します。宜しければこちらもご笑覧ください。




