第百五十九章 その頃の瑞葉 1.悩める瑞葉
台風の目たるシュウイがペンチャン村近辺でアレコレとやらかし、友人たちや運営の意識がそちらへ引き付けられている隙を衝くように、トンの町の水面下でひっそりと動いていた者がいた――瑞葉である。
先日カナから問い合わせのメールを受け取って以来、彼女の心の片隅を占め続けていた案件があった。それは……
「『等価交換』かぁ……」
SRO内で農業・園芸というジョブを望み、首尾好くそれに就いてからは、作物のお世話まっしぐらという感じの日々を送って来たが、その中で【等価交換】というスキルが話題に上った事は絶えて無かった。まぁ――カナにも返信したとおり――農業という行為自体が作物との間の「等価交換」を前提としたものだとも言えるのだし、改めて意識する必要が無かったからだとも思えるのだが……
「……そんなスキルが別にある――というのがねぇ……」
スキルとして実在しているからには、運営は「等価交換」という行為を意識しているという事だ。
農業や園芸という体系においては、今更自明の事として問題にせず、農業以外の状況においてのみ問題にしているとも考えられるが、或いはまた……
「……これまでそんなメッセージが出た事は無かったけど………………ひょっとして……あたしのお世話は……〝等価〟じゃなかったの……?」
――実際のところを言えば、運営はそこまで踏み込んだ考えは持っていなかった。
彼らの考えでは、「等価交換」とは飽くまで野生の動植物――や、準NPC――との交流・交渉を念頭に置いており、農業や園芸という体系は、まるっと意識から抜け落ちていたのである。
しかし一介のプレイヤーに過ぎない瑞葉には、そんな裏事情など解りはしない、解る訳が無い。
ゆえに瑞葉は――小心者の常として(笑)――悪い方に考えを進めた。
「えーと……〝等価じゃない〟って事は、つまり植物側に不満がある訳だから……」
――別にそんな事は無い。
実際に瑞葉の世話している作物や鉢植えは、どれもこれも非常に良好な状態を維持しており、不満など無い事を――ゲーム的にも――体現している。
しかし、一旦不安に取り憑かれた者の常として、瑞葉の思考はネガティブな方向へとスパイラルな進行を始める。それを止められる者はここにはいない。
「う~ん……鉢植えって、どうしても中が狭くなるからなぁ。自然の中で伸び伸び育っていた植物には不満なのかも……」
……SROはヴァーチャルの世界であり、〝自然の中で伸び伸び育っていた〟植物など存在しないというのは、現在の瑞葉の意識外にある。
「植木鉢も、大きいものは場所を取るし……それを別にしてもお高いしねぇ……」
多少の空間は――居住スペースを削れば――用意できるとしても、大きい植木鉢は財布に優しくないという問題は残っている。自作という手もあるにはあるが、
「……確か、【植木鉢作成】っていうスキルはあるのよね。でも、スキル枠の残りも厳しいし……」
瑞葉は知らないようだがこの【植木鉢作成】というスキル、植木鉢を作るスキルには違い無いが……上級者が作った「植木鉢」を持っていると、野外の植物を遍く移植可能な状態で採取できるようになるという効果が隠されていた。
瑞葉がこの事を知っていれば、万難を排してでも取得に動いたであろうが……幸か不幸か、彼女はその事を知らなかった。
なので……彼女は別方向に努力を進める事になる。
「……【整理整頓】を使えば、鉢植えの中のスペースを空けられないかな?」




