第百五十八章 人形遣いと少年~カンチャン村道中異変~ 8.カンチャン村 宿泊所自室(その1)
幾つか細々した手続きを終えて、カンチャン村で新たに確保した拠点の自室に引き取ったシュウイは、使役獣たちに食事をさせつつ己のステータスを確認して、
「う~ん……」
……画面に表示された内容を見て唸り声を上げていた。
まぁ、それも無理からぬ事ではあった。
ステータス画面に目を遣ってまず最初に気付くのは、種族レベルの1ランクアップと、サブジョブの「見習い保安官」が「保安官補」にクラスアップしている事である。
まぁ、ペンチャン村滞在中も色々とやらかしていたシュウイの事だから、種族レベルくらい上昇してもおかしくない。保安官職にしても、悪堕ちプレイヤー一人に手配犯のNPCを二人、更に今回脱獄犯のNPCまで捕縛したのだから、見習いが保安官補に昇進したのもまぁ納得のうちである。
そしてスキルの方はと言えば、
【掏摸】 Lv4 → Lv4+
【奪刀術EX】Lv2+ → Lv3
【堆肥作り】 Lv4+ → Lv5
【掘削】 Lv4 → Lv4+
クレイゴーレム討伐の結果、【掏摸】【奪刀術EX】【堆肥作り】が何れもレベルアップを果たしていた。
【掘削】については使用した憶えが無かったので首を傾げたが、どうやら【暴発】が良い仕事をしてくれたらしい。ゴーレムの外装を破壊するのに、一役買ってくれていたようだ。
「あー……昨日の籤引きの時ジョブを『遊び人』に変えて、うっかりそのままにしてたんだっけ。そのお蔭で【暴発】が働いてくれたのかぁ……まぁ、それはいいんだけど……」
シュウイが複雑な表情を禁じ得ないのは、ナワッキーから没収したスキルの事が、どうにも引っ掛かっているからだ。
【詐称W Lv1+】 → 【詐称Tri Lv2+】に統合
【盗賊W Lv1】 → 【盗賊Tri Lv2】に統合
「何だか悪堕ち系のスキルばかり充実しているような気がするんだけど……」
他人様に見せられない方向に邁進しているステータスに、思わず溜息を吐きたくなったシュウイであったが……しかし、ものは考えようである。
どうせ【スキルコレクター】の精勤のお蔭で、悪堕ちスキル以外のスキルも〝他人様に見せられなく〟なっているのだ。その表示を偽装できるというなら、寧ろ【詐称】スキル大歓迎なのではないか?
問題なのは、【詐称】スキルの使い方――正確には、迂闊な失敗をしない使い方――がシュウイには能く解らない事と、
「『W』から『Tri』って……これってどこまで変わるのかな?」
犯罪者に必須のスキルをその都度没収しているせいで、悪堕ち系のスキルをダブって取得する事が増えている。その度毎に改称を重ねていくのだろうのかと、そっちが気になるシュウイなのであった。
「まぁ、それはそのうちはっきりするだろうからいいんだけど……」
そう言うシュウイの視線は、スキル欄の末尾に固定されている。
「【穴掘り】はともかく……【5トンの術】って……何?」
ログから判断する限りでは、何れもナワッキーから没収したスキルのようだが……
「【穴掘り】って……【掘削】とどう違うのさ?」
名前からは同じようなスキルに思えるのだが、別個のスキルとして承認されている以上は、何か違いがあるという事になる。
「……そう言えば……【掘削】って、道具を使っちゃ駄目なんだっけ。……その辺の違いかな?」
明日にでも幼馴染みたちに確かめようとメモを取るシュウイ。
こっちはまだいいのだが……問題はもう一つのスキル、【5トンの術】である。こっちは名前からだとどんなスキルなのか、皆目見当が付かないのだ。
脱獄犯が持っていたスキルという事を考えると、これも何やらイリーガルなスキルではないかと思えるのだが……?
「……いや、イリーガルな5トンって何? ……ひょっとして、クレイゴーレムの体重を5トンに増やす――または減らす――スキルだとか?」
……確かに、破壊力が増大しそうではあるが……しかし、何故5トンなのか? 5トンというのは何かのマジックナンバーなのか?
散々首を捻ったシュウイであったが、解らないものは解らないとすっぱり吹っ切って、頼もしき幼馴染みの知恵を借りる事にする。どうせ相談したい事は他にもあるのだ。




