第百五十八章 人形遣いと少年~カンチャン村道中異変~ 6.虜囚解放作戦(笑)~顛末~(その1)
そんな「養殖」作業……もとい遅滞戦闘も、回を重ねればそれなりにゴーレムの身体を削っていく。それに加えて戦闘フィールドの地表が、シュウイの魔力を帯びた「堆肥」で埋め尽くされるに従って、修復用の土砂の確保が難しくなってきた。
形勢悪しと悟った男が、身を翻して逃げようとしたところへ、
「――ふがっ!?」
狙い澄ましたマハラの狙撃が命中し、粘球で目を覆われた男は、まともに動く事も儘ならず転倒する羽目になった。
それに伴って、ゴーレムの動きも一気に悪くなる。
「ナイスアシスト! ……それじゃ、そろそろ終わりにしようか」
ゆらりと間合いを詰めたシュウイが、再度【堆肥作り】を発動してゴーレムの身体に破口を穿つと、
「【掏摸】と……ついでに【奪刀術EX】!」
二つのスキルを重ねて発動し、ゴーレムのコアを抜き取る事に成功する。
(おぉ……【掏摸】と【奪刀術EX】って、一応は別個のスキルだから、重ねて発動できるんじゃないかと思って試したんだけど……上手くいったみたいだね)
【奪刀術EX】は【掏摸】から派生した新スキルであるが、内容の相違に鑑みてなのか、別個のスキルとして認定されている。
ただ、〝相手の持ち物を奪う〟という基本的な部分では共通しているため、ひょっとして同時発動が可能なのではと思い付いたシュウイの探求心――もしくは悪戯心――によって、実質的な二重発動に成功していた。
使用者の感覚としては、前回よりもコアの抜き取りがスムーズだったような気がするので、意識的な同時発動は奏功したと言えるのだろう。
いそいそと戦利品のゴーレムコアをアイテムバッグに仕舞い、続いて「堆肥」の回収に移ろうとしたシュウイであったが……そのタイミングで、視界の隅で蠢く男の姿が目に入った。
(あー……先にこっちを片付けとくかぁ)
徐に襲撃犯の許へ近寄ったシュウイは、愛杖・打貫を軽く振るって、あっさりと男の意識を刈り取った。
そしてそのタイミングで――
《犯罪者の無力化に成功しました!》
《無力化した犯罪者は ナワッキー 脱獄犯 詐欺・窃盗・暴行 C級冒険者崩れ です!》
《ナワッキーのスキル・アーツの全て、及びステータスの一部を没収しました!》
……というメッセージウィンドウが続けざまにポップアップした。
脱獄犯に「縄付き」というのも大概なネーミングセンスに思えるが、まぁプレイヤーが文句を言う筋合いでもないかと考え直す。それに第一、犯罪者NPCの名前に文句を言うくらいなら、町や村の名前に苦言を呈するのが先だろうという気もする――犇々と。
(まぁ、いいか……)
後は出し殻……ではなく、スキルやステータス・称号を没収されて弱体化したナワッキーを護送馬車に放り込んで、然る後に「堆肥」を回収して出発すればいい。
道を塞いでいた土砂は、今や良質の「堆肥」にジョブチェンジして、シュウイのアイテムバッグの中に収まっている。行く手を遮るものは何も無い。
・・・・・・・・
斯くして、ちょっとしたボーナスイベント――註.シュウイ視点――はあったものの、まずは大過無く――再度の註.シュウイ視点――カンチャンの村に到着した一行は、そこで犯罪者を衛兵詰め所に引き渡した。
犯罪者の数が増えていた事に、詰め所側が目を白黒させる一幕はあったが、手配犯だの脱獄犯だのが纏めて御用になったのだから、お上としても文句は無い。
諸事恙無く済んで万々歳といったタイミングで、例によって現地民には聞こえていないらしきラッパの音と共に、
《囚人護送クエストを達成しました!》
――というメッセージウィンドウがポップした。
エンジュとモックが少し動揺しているところを見ると、恐らくは彼らの前にもメッセージウィンドウがポップして、幾許かの報酬を得たのだろう。




