第百五十八章 人形遣いと少年~カンチャン村道中異変~ 5.虜囚解放作戦(笑)~開戦~
動き自体はのっそりとした感じだが、しかし一歩の歩幅が大きいため、意外な速さで距離を詰めたクレイゴーレムは、満を持したようにその拳を振り上げ……そして振り下ろした。
しかしシュウイはその動きと間合いを完全に見切って、充分な安全距離を取ってその攻撃を躱していく。
「クソっ……ちょこまかと!」
毒突いているのはゴーレムではなく、その使役者らしき男の方であるが、ゴーレムに話す口があったら、同じような罵言を漏らしていたかもしれない。
そう思えてくるほどに、シュウイはゆとりを持ってゴーレムの攻撃を回避していた。
そして……
「ちぃっ! 【土魔法】持ちかっ!?」
小僧の身長に数倍する巨体をどうこうする事などできはしまい……と、高を括っていたところ、クレイゴーレムの片膝から下が突如崩れるという怪現象を目にして、襲撃者の男は怨嗟の声を上げた。
しかしそれでも、まだどこか余裕を持った風に見えたのは、
「生憎だったな! クレイゴーレムの身体は、土さえありゃ幾らでも修復できんだよ!」
――クレイゴーレムの自己修復能力、そしてそれに起因する継戦能力に自信を持っていたからだろう。
しかし……そんな男の自信は、思いがけなく覆される事になる。
「……何だ? 何がどうなってやがる!?」
【土魔法】(推定)で崩された足を、ゴーレムはその崩れた土を使って修復しようとしたのだが、それに失敗したのであった。
……読者諸賢には既にお察しの向きもおありだろうが……シュウイがクレイゴーレムの足を崩すのに使ったのは【土魔法(ホビン)】ではなく、【堆肥作り】というレアスキルであった。
これは、対象となる土砂または土塊に魔力を浸潤させて堆肥化――または培養土化――するスキルなのだが……シュウイの魔力を浸透させた土砂は、クレイゴーレムの支配を受け付けなくなるという副作用(?)があった。
それ故に、【堆肥作り】で身体を削られたクレイゴーレムは、自分の身体を構成している土を廻して損傷部を復元するか、然もなくば周りの(まだ堆肥化されていない)土を吸収して身体を修復するしか採れる手立てが無い。
そして――身体の再構成にかかる時間と身体の縮小を嫌ったゴーレム使いの男が選んだのは、後者の対処法であった。
――それがシュウイの目論見だとは気付かずに。
(「……あれかしらね? 周りの土を一度ゴーレムの身体に変えて、その後で堆肥に変えてやれば……」)
(「あー……魔力を含んだ良質の土が、大量に確保できそうですよね……」)
(「こういうのも『養殖』って言うのかしら?」)
(「多分違うと思いますけど……どうでしょう?」)
……一方で、シュウイとの付き合いがそれなりに長くなったエンジュとモックの二人組は、シュウイの目論見を正しく見抜いていた(笑)。




