第百五十八章 人形遣いと少年~カンチャン村道中異変~ 4.虜囚解放作戦(笑)~開幕~(その2)
――この手のVRゲームでは能く見られる設定であるが、押し並べてクエストの難易度は、参加者の人数に応じて変化する。解り易い例を挙げれば、大人数が参加した場合はボスモンスターの数が増えたり強化されたりという補正が見られるのである。
それと同じ伝で今回の「クエスト」を見れば、確かに「護送隊」の護衛は他にもいるものの、それらは何れも臨時に徴集された非戦闘職の村人であり、一般的な〝クエスト参加者〟にはカウントされない。
プレイヤーとして参加しているのは、シュウイを含めても三名だけ。しかもそのうちの二人までが純然たる非戦闘職なのである。
……つまりは、この「クエスト」に参加しているプレイヤーは、実質シュウイ一人と言ってよく、襲撃側もそれに合わせる必要があったのだ。
しかしさすがに一対一というのはイベント的にも不都合と思ったのか、ゲームを宰領する管理AIは大胆にも、ここで何と「ゴーレム使い」という新規ジョブを起用してきたのであった。
斯くの如く、定型から微妙に外れた点を満載して始まった「護送犯奪回イベント」であるが……定型から外れている点は他にもあった。
「お、おぃ……あんなデケぇ化物が出てきやがったが……坊主一人で大丈夫なのかよ……」
「お、俺たちだって、化物の気を引いて注意を逸らすくれぇなら……」
「あーはぃはぃ、大丈夫ですから」
「心配はご無用に願います」
……心配そうな村人たちと、泰然として成り行きを見守るエンジュとモック。
彼らの視線の交叉する先にあるのは、クレイゴーレムの巨体に竦むどころか、キラキラと目を輝かせて獲物を見つめるシュウイの姿である。
――確かにスペックだけを比較すれば、使役職同士の一対一の対戦という形になっている。
しかし、襲撃側の使役戦力が巨大なクレイゴーレムであるのに対して、防衛側の使役獣は、数こそ三体――憑喪神の打貫を加えれば四体――と勝っているが、大きさや重さの点では相手にもならない。しかも怪力上等のゴーレムと違って、直接火力に秀でたものはいない。
普通に考えれば、アンフェアにも程がある戦力比……の筈であった。
だが……
「ほ、本当に大丈夫なのかよ?」
「い、今からでも村へ取って返せば……」
狼狽えるベルズ以下「護送隊」の面々に、
「あぁ、本当に大丈夫ですから」
「あんな、大きいだけの木偶の坊、シュウイ先輩の敵じゃありません」
エンジュとモックの非戦闘職二人、彼らが示す態度には微塵の揺らぎも無い。
何しろ彼らは見ているのだ。
今のコレより一回り大きなクレイゴーレムを、シュウイが事も無げに討伐したその場面を。
(「『フォンの切り通し』での暴れっぷりに較べれば……ねぇ?」)
(「あの時は、モンスターの群れを前座扱いにあしらった後で、イベントボスのクレイゴーレムでしたからねぇ」)
(「それも、鎧袖一触という感じに片付けてたし」)
(「あの程度のゴーレム、何ほどの事もありませんよね」)
ヒソヒソと囁き交わしていた内容が耳に入った訳でもあるまいが、襲撃者の男が業を煮やしたように声を上げる。
「やっちまえ!」
――クレイゴーレムの巨体が動き出した。




