第百五十八章 人形遣いと少年~カンチャン村道中異変~ 1.ペンチャン村出発
思いがけず長滞在をしたペンチャン村からの出立は、これまた思いがけず多くの村人に見送られてのものとなった。まぁ、そのうちの少なからぬ人数が、手配犯の護送に関わる者たちであったというのは無粋な実情であるが。
とは言うものの、見送ってくれる者たちの中に、前日に式を挙げたばかりの新婚夫婦が交じっていたのは嬉しい驚きであったが。
「門出を祝ってもらった者が、今度は門出を祝う側に廻るって訳さ。目出度くて結構なもんじゃないか」
――というのがアラベラの弁であったが、シュウイとしては幾許か後ろめたい気がしないでもない。何しろ祝いの演奏に参加したのはモックとエンジュの二人だけ。シュウイはのほほんとそれを聴いていたに過ぎないのだ。
だが、解説の労を買って出てくれたアラベラに拠ると、それはシュウイの心得違いらしい。
「あんたたち旅人が、特別に祝福してくれた酒を用立ててくれて、ついでに祝いの演奏にまで参加してくれたんだ。お蔭であの若夫婦も、神様から大いなる祝福を貰う事ができた。これに感謝しなくて、何に感謝しろって言うんだい?」
素より婚礼というのは目出度い事である。そこに旅人の飛び入りがあったというので、村の神様もお喜びであるらしい。どうやらSRO世界では、プレイヤーは一種の来訪神的な扱いをされているようだ。漁民のエビス信仰のようなものかと、シュウイは納得する事にした。
(まぁ、そのエビス様が手ずから祝福した酒というなら、やっぱり縁起物扱いになるのかな)
自分たちの立場と【猩々】の効果、確かにこれらが揃えば縁起物扱いも納得である。婚礼へのシュウイの貢献は、自分が思っているより大きかったようだ。
いや、それは婚礼だけではなく、これまでの村への貢献が大きかったという事なのだろう。三人揃って『ペンチャン村の友人』などという称号を貰ったのも、その証しという事なのだろうし。
そんなシュウイの思いを裏書きするかのように、モックは村に滞在している旅芸人から、エンジュは一緒に鈴の演奏を練習した少女たちと何やら話し込んでいる。案ずるに別れを惜しんでいるのだろう。
そしてシュウイのところへも……
「え? 戴いていいんですか?」
「へっ、んな大層なもんじゃありゃしねぇよ。若ぇ頃使ってたポンコツだが、ま、駆け出しの手習い程度の役にゃ立つだろうからよ」
出発の間際に餞別だと言ってボルマンが渡してくれたのは、使い古しの携帯炉であった。本格的な鍛冶仕事には使えないが、旅先での小仕事程度ならこれで充分間に合うという代物である。ボルマンの言うとおり、使い古しの中古品には違い無いが、さすがに本職が使っていただけの事はあり、今も充分実用に耐えそうな一品である。「見習い鍛冶師」のシュウイが旅の合間々々に経験を積むには、持って来いの道具であろう。
「あたしからはこれだよ」
そう言ってアラベラが渡してくれたのは数本のポーションと、
「あ、薬草ですね」
体力回復薬の原料になる「ブット葉草」と、魔力回復薬の原料になる「カット葉草」、それぞれの束であった。
「あんたは【調薬】の心得があるっていうし、何より【猩々】持ちだからね」
出来合いのポーションを渡すよりも原料そのものを渡して、【猩々】によって品質を高めた原料から、自力でポーションを作る方が良いだろうと言うのだが……
(……あれ? 【猩々】が祝福できるのって、確かお酒の材料だけじゃなかったけ?)
違和感を覚えたシュウイがその旨問い質してみると、思いがけない事実が判明した。
「いや、どっちの薬草も薬酒にゃできるからね。単に今のあんたの手にゃ余るってだけで」
「そうなんですか!?」
何と、大抵の薬草は薬酒にする事が可能なのだそうだ。ただ、手間の割に効果が今一だというので、手を出す者がいないだけらしい。
「あとはだね、【調薬】持ちが【猩々】のスキルを得る事自体、滅多にあるこっちゃないからね」
「あぁ……そういう……」




