第百五十七章 篠ノ目学園高校 6.放課後@ファミリーレストラン「ファミリア」~特殊ポータル~(その2)
――そこで、〝他にあるかどうか〟という問いについてだが、
「厳密に言えば質問の対象は、①特殊ポータルのある場所が――なのか、それとも、②複数のイベントの舞台となっている場所が――なのかに分かれるのよね」
「……同じ事じゃ……いや、微妙に違うのか?」
「まずポータル機能について考えてみましょうか。特殊ポータル機能の仕様をみると、完全にプレイヤー個人のログイン用で、NPCの移動や物流は最初から考慮していないわよね」
「……だな」
「それがペンチャン村にセットされたのは、同一プレイヤーが頻繁に、或いは繰り返し訪れる事を想定しているとしか思えない。……ここまではいいかしら?」
「うん」
「まぁな」
「オッケーだよ!」
「そうすると……何度も同じ場所を訪れるのは、複数の用事があるから、という事になるわよね?」
「一回では終わらない用事――って可能性もあるけどな。……で?」
「匠君の想定するケースについては一旦措くと、〝複数のイベントがセットされている場所だからこそ、特殊ポータル機能を用意した〟――という事になる。言い換えると……?」
「あ……」
「イベントの被りが先かー……」
「つまり……複数イベントが仕込まれてる場所について考えればいい訳か」
些か廻り諄い話ではあったが、議論の前提をはっきりさせておきたかったらしい。
「そこで問題はイベントの数になるんだけど……〝特殊ポータル機能は幹線道路沿いの町には省かれている〟という仮定を採用するなら、現状知られている村は二つ……未到達のカンチャン村を入れても三つよね? これまでのイベントの頻度を考えると、イベント数が村の数より少ないとは考えにくくない?」
――成る程。村の数よりイベントの数が多いなら、一ヵ所に複数のイベントが仕込まれるのは必然になる。単純にして明快な結論だ……と、蒐一は感心したのだが、
「いや、そりゃ短絡的に過ぎねぇか?」
……と、異論を呈したのは匠であった。
「イベント数が多そうだってのは俺も同感なんだけどよ。今のマップが単純なのは、逆に言えば新規マップの開放があるって事じゃねぇのか? 決め付けるのは早いと思うぞ」
「それは確かにそうなのよね……」
「おぉ……匠、お前、ゲームの事だとちゃんと頭が働くんだな」
「ほっとけ! ……新規マップの話とも重なるんだがな、モックが受けたっていう『巡礼』な。あれって『技芸神』だけなのか? 他の神殿への巡礼もあるとなると、一気にマップは広がるぞ?」
「おー……匠君、ちゃんと大脳皮質、働いてるんだ」
「あのな……茜もどっちかって言うとこっち側だろうが」
シルが町外れに封じられていた事や、ペンチャン村の「芋掘り鉱山」の事を考えると、幹線道路を外れた場所にも、割と重要なイベントが仕込まれていそうではある。とすると、町外れを探索して新たな村を探すべきなのか?
そんな事を熟々惟るうちに、蒐一はふと気が付いた。
「……SROってさぁ、やたら住民との交流を推してくるけど、それって付き合いを深める方向でなのかな? それとも、ただ知り合いの数を増やすだけなのかな?」
ほとんど思い付きのような指摘であったが、この観点は目新しくかつ意表を衝いたものだったようで、幼馴染みたちも口を噤んで考え込んだ。
「今までの実績に鑑みると……前者か?」
「つまり、住民との付き合いを深めていく……何度も訪れる事を推奨したいでしょうね。運営の側としては」
「複数イベント説に決まりだね!」
さてそうなると、当て処も無く新村落を探し廻るよりも、既に顔を繋いだ村を再訪して友誼を深めるべき……という事になる。
この結論を受けて「マックス」はリャンメンの村へ、「ワイルドフラワー」はイルマたちの住まう集落へと、それぞれ向かう方針が立てられたのであった。
次回からゲーム本編に戻ります。




