第百五十七章 篠ノ目学園高校 3.放課後@ファミリーレストラン「ファミリア」~「祝福」論争~(その2)
単なるバッファー・デバッファーならいざ知らず、苟も「吟遊詩人」を名告るからには、民衆の求めに応じて歌なり曲なりを提供できてナンボである。しかし、戦闘の場で地元の吟遊詩人から教わるバフ・デバフ曲は、必ずしも地元民衆の受けは良くないらしい。
「まぁ、戦闘場面でもないのに、戦意高揚や戦力向上、敵戦力低下の歌なんか歌われても、有難味は無いよな」
「あー……確かに、TPOから外れてるよね」
「それどころか、実害を発生させたケースもあるみたいよ」
「そうなの!?」
以前に酒場でバフ曲を演奏したところ、メートルの上がった客が乱闘を始め、当局から責任の一端を追及されたプレイヤーがいるそうだ。酔客向けの曲を演奏していたらそんな事は無いというから、選曲においてもTPOを弁えるべきとの見解が支配的になっているという。
「へぇ……そうなんだ」
「んな訳で吟遊詩人志望のプレイヤーは、曲のレパートリーを増やすべく頑張ってるんだけどな」
「婚礼で演奏される祝福の曲――というのは報告が無かったのよね」
「待ちに待ってた新情報だよ!」
とは言え、今回のネタをそのまま掲示板にアップしていいものか――という点は少々問題らしい。
ペンチャン村という場所それ自体がデリケートな扱いを要求するのに加えて、使用された「楽器」が鈴である。村の有志の演奏という形だから、楽器が鈴なのは確定ではないのか?
「いやまぁ、プレイヤーが持ってる楽器によって変わる……って可能性も無い訳じゃないけどな」
「モックは『チャランゴ』を持ってたよ? 練習もしてたし」
「あぁ……そう言やそうだったな」
困惑を深める一同であったが……事実は匠の言うとおりである――基本的には。
抑ペンチャン村での鈴の演奏講習イベント自体が、モックに鈴の奏法を教えるべく、急遽でっち上げられ捻じ込まれたワンオフイベントであるから、他の一般的なイベントと同列に扱うのが間違っている。
しかし、そんな舞台裏――の苦労――を知らない身からすれば、食い違いに首を傾げたくなるのも道理なのであった。
「あと、モック君が使った〝楽器〟というのも、ちょっと特殊じゃなかった?」
「あー……そう言えば……」
「『鼓吹の鈴』だっけ? 国宝のレプリカアイテムだとか言ってたよな」
「だけどな匠、村の人たちが使ってたのもやっぱり鈴だったぞ?」
「「う~ん……?」」
「特殊ジョブのプレイヤーが特殊な楽器を使ったから……というのは無いかしら? 確か――吟遊詩人が特別な楽器を使った事例は他に無かった筈よ」
「でもさ要ちゃん、それにしては祝福の魔力がショボかったよ? 村のオバさ……ご婦人たちとどっこいだったし」
「〝特殊な楽器〟を使って、やっとそれか……確かにショボいかもな」
「はいはーい! モッ君がまだ未熟だからっていうのは?」
「それもありそうな話ね……」
……どうも色々と特殊な要素が混ざっているようだし、現段階でこれ以上の検討は無理ではないのか? 祝福の魔力が楽器から放出されていたというのも、そっち方面の事情があるかもしれない……という事で一応決着を付ける。だって、他にも訊きたい事はあるんだし。
「あぁ……そう言や〝手始めに〟って言ってたっけな……」
「で……? 他の話というのは何なのかしら?」
「ワクワク♪」




