第百五十六章 ペンチャン村滞在記(十日目) 8.宿泊所食堂(その3)
別にスキルの報告は義務付けられていないから、プレイヤーが報告していないスキルがあってもおかしくない。と言うか、シュウイ自身がそういうスキルをしこたま貯め込んでいる。……【ろくろ首】とか【エリマキ】とか【通臂】とか【暴走】とか。
ただ、【魔力操作入門】にはそういった際物スキルの臭いは感じられないし、殊更に秘匿する理由も無いように思える。とすると、正真正銘の新発見スキルなのか?
「まぁ、それは割とどうでもいいんですけど」
「問題は……」
「……うん、僕は拾ってないね。つまり……二人だけが拾った理由だよね?」
同じパーティとして行動しながら、エンジュとモックが拾ってシュウイが拾わなかったとなると、原因の特定は難しくない。これが逆なら容疑者は幾らでも出て来そうだが。
「疑わしいのは『鈴の演奏講習』……だよね?」
「はい」
「そうだと思います」
――シュウイには心当たりがあった。
新婚夫婦を祝福する鈴の演奏を、【魔力察知】を通して視ていると、鈴の演奏者たちから魔力のようなものが新郎新婦に流れているのが判った。悪い感じはしなかったし、恐らくはあれが「祝福」とか「祈り」とかいうものなのだろう。総じてベテランの奏者からは流れる量が多く、未熟らしい少女たちから流れて来る量は少なかった。
ベテランが【魔力操作】のスキルを使い、見習いが【魔力操作入門】を使っていると考えれば、一応の説明は付くのだが……
(モックの場合、魔力(仮)は本人からじゃなくて、楽器である「鈴」から出てたんだよね……)
演奏ばかりに気が行って、祝福する気持ちを忘れていたのではないかと苦言を呈したのだが……エンジュとモックが同じように【魔力操作入門】を拾ったとなると、二人の寄与は同程度という事なのか?
時間的に演奏が先で拾得が後だったとしても、それだと二人の寄与は同程度だとAIが判断したという事になる。矛盾は解消されていない。
「あの……それなんですけど……」
「うん? 何かあるの?」
「あの……吟遊詩人とか見習いの特性というのは考えられませんか? 魔力はアバターからじゃなくて楽器から放出される――とか」
エンジュの指摘に意表を衝かれたシュウイであったが……そう言われれば、ありそうな可能性にも思えてくる。
だとすると……偉そうに得々と説教したのは勇み足だったか?
「いえ、自分でも余裕が無かった気はしてますし。それよりも気になるのは……」
「タイミング……だよね?」
二人が選ばれた理由は「鈴の演奏講習」だろうが、講習自体は昨日のうちに終わっている。そのタイミングではなく、今日の演奏が終わった時点……と言うか、婚礼が終わった時点で貰った事を考えると、そこには「婚礼」という要因が関与しているとしか考えられない。『ペンチャン村の友人』称号を得た事も考慮すると、婚礼或いは村に協力した事のご褒美……という面もありそうだ。
だが――報酬として何故このスキルが選ばれたのかは、それとは別の問題である。
考えられる理由は、間近に迫った奉納クエストしか見当たらないではないか。
(ひょっとして……〝技芸神への奉納〟には、【魔力操作(入門)】が必要……なのかな?)
だとしても、歌なり演奏なりを奉納するのは、モックであって自分ではない。
そのつもりでいたシュウイであったが……ここの運営の所業を見ると、漠とした不安を拭えない。
自分までが歌舞音曲を強要された挙げ句、不出来という理由でモックの演奏まで減点されるような事があったら、指導役の名折れではないか。
(これ……僕も取得を目指した方が良いのかなぁ……)
不安に駆られるシュウイであったが……考え過ぎである。
先にも述べたが、「技芸神への奉納」クエストと「鈴の演奏講習」イベントは――全くと言っては言い過ぎだろうが――本質的には無関係。後者は「鼓吹の鈴」を楽器として扱い始めたモックに対処するため、運営が大慌てで捻じ込んだイベントなのだ。
そして……【魔力操作入門】とは【魔力操作】のダウングレード版であり、「鈴」の扱い方を身に着けた証しとして、運営がこれまた急遽でっち上げたスキルであった。単なる称号とかではなく、「鼓吹の鈴」を扱える事を示す必要があったために、こういうスキルをでっち上げたのだ。
故に――【魔力操作】にせよ【魔力操作入門】にせよ、保持の如何が奉納クエストの結果に関与する事は無いのだが……それを知らないシュウイたちは、無駄に警戒の念を強めるのであった。




