第百五十六章 ペンチャン村滞在記(十日目) 3.村の婚礼(その3)
店主に一言礼を述べてその場を離れ、会場の隅で額を寄せ集める三人。
(「……何か、キーアイテムっぽいですよね?」)
(「何かの地図なのは確かだろうね。けど、問題は……」)
(「何の地図か……ですよね?」)
ここの運営の事だから、探し当ててみたら〝犬がお気に入りの骨を埋めた場所〟……などというオチが待っていないとも限らない。
しかしその一方で、これが本当に何かのアイテムの所在を示している可能性も無視できない。何より、ここの運営の性悪さに鑑みれば、
(「……犬が埋めた骨が、実は何かのキーアイテム……なんて可能性も……」)
(「ありそうですよね……」)
とは言え、「鈴の谷」などという気を持たせる標題が付いている以上、目的地の一つとして考えておくのはありだろう。問題は――
(「これがどこの地図なのか判らないって事だけど……」)
(「ですよねー」)
先の長い話になりそうだ――と、諦観を表すシュウイとエンジュであったが、
(「いえ……ヒントらしきものはあるかもしれません」)
……などと小声で口走ったものだから、他の二人の視線がグリンとモックに向かったのも、故無き事ではないだろう。
突き刺さる視線にモックは一瞬怯んだようだが、その視線に籠められた〝先を続けろ〟という圧に負け、ボソボソと自説を開陳する。
(「飽くまで僕個人の思い付き……いえ、こじつけみたいなものなんですが……」)
モックは一旦言葉を切って、チラリと視線を上げてみたが、突き刺さる視線に些かの揺るぎも弱まりもない事を感じ取ると、諦めたように言葉を続ける。
(「……『鈴』という単語で僕が真っ先に思い浮かべるのは『鼓吹の鈴』なんですけど……あれって、リアルで能くある『鈴』とは違って、どっちかと言うと小さめの『銅鐸』に似てますよね? その事と、『磐座』って言う単語から連想したんですけど……『加茂岩倉遺跡』ってありますよね?」)
(「加茂岩倉遺跡……?」)
(「どこかで聞いたような……あ!」)
何かに思い当たったようなシュウイが声を上げると、それに合わせて頷きを返したモックが答を口にする。
(「えぇ。大量の銅鐸が埋められていた、弥生時代の遺跡です」)
(「あれって確か島根県だったよね?」)
(「えぇ、そうですね」)
(「え!? じゃあ、あたしたち島根県に行かないといけないんですか?)
目をまん丸にしたエンジュが問いを放つが、SRO世界に「島根県」などがあるとも思えない。
(「いえ、それはそうなんですけど、それっぽい名前の土地はあるかもしれません」)
(「あー……町の名前にトン・ナン・シア、村の名前にペンチャンとかカンチャンとか付けるような運営だしねぇ……」)
(「あまり凝ったネーミングはしない気がしますね、確かに」)
成る程。地名ぐらいならそれとなく調べるのも難しくない。と言うか、地元の旅芸人や巡礼に訊けば手っ取り早いし、プレイヤーの耳にも入りにくいだろう。何なら村人に訊ねたっていい。確かにこれは〝ヒント〟と言えるだろう。
・・・・・・・・
ヒソヒソとそんな密談を交わしていると、いつしか宴も引け際になったらしく、村長が閉会の辞を述べ始める。今回の婚礼には〝善き異邦人〟が参加してくれて大いに盛り上がり、神様も甚くお喜びであった云々と言うのをこそばゆい思いで聞いていたが……〝神様が甚くお喜び〟というのは、比喩でも何でもなかったらしい。
今や聞き慣れた感のある〝パンパカパーン〟というラッパの音と共に、空中に半透明のメッセージウィンドウが出現する。
《『ペンチャン村の友人』称号を得ました!》
《ペンチャン村の特殊ポータル機能が解放されました!》
《ログインのポータル地点として新たにペンチャン村を設定できます!》
「「「………………え?」」」




