第二十六章 トンの町 1.北のフィールド
微睡みの欠片亭で朝食を摂ってから宿を出る。今日向かう先は北のフィールド。シルには物足りない相手だろうけど、【調薬(邪道)】および【錬金術(邪道)】のスキル修得のために必要な素材【ワイルドボアの血液】が目的だ。
「シル、今日はお前には物足りないと思うけど、我慢して付き合ってね?」
そう言うと、シルは鷹揚な感じで頷いた。うん、ワイルドボアなんかじゃ物足りないんだろうな。けど、僕には必要な素材だからね。
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ここへ来てからかれこれ五時間弱。既に三十頭ほどのワイルドボアを狩ってるんだけど、思った以上に【血液】のドロップ率が低くて、まだ七つしか確保できていない。確保した【血液】からどれくらい量の【血小板】が分離できるのか判らないから、できるだけ多めに確保しておきたいところなんだけど……もうそろそろシルも退屈してきたみたいだ。
【落とし物】と【解体】が発動してこのドロップ率なら、【血液】ってそこそこレアな素材なんじゃないか? そんなレア素材が何で初級スキルの課題に使われてるんだろう? ……他に入手のルートでもあるのかな? でも、それならあんな高値は付かないよね?
実のところは、数多くある【分離(特殊)】スキルの課題の中でも比較的レアな課題に偶々当たっただけの事である。
【血液】の詮索は後回しにして、そろそろ引き上げようと考えていたんだけど、森の方に何だか弱い反応がある。……おや? 【落とし物】の反応は小さいけど、【虫の知らせ】は割と強く反応している。こんな事は初めてだよね……。ちょっと興味が湧いたし、行ってみよう。
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【虫の知らせ】に従って林の方へ――用心しつつ――近寄っていったんだけど、別段めぼしい反応は……え? あれ? 右の足下?
ええっ! この、でっかい鳥の糞みたいなのが素材!?
鑑定してみると……
【素材アイテム】ジャイアントクロウの糞 品質C レア度2
ジャイアントクロウの糞。未消化の細片や種子を含んでいる。
特殊スキル【分離(特殊)】によって拾い出した種子は発芽率が高いため、栽培スキルを持つ者が好んで購入してゆく。
種子かぁ……。そういえば以前に読んだ本に、植物の中には鳥に果実を丸飲みしてもらって、未消化の種子を糞と一緒に排泄してもらう事で、遠くまで分布を拡げる種類があるとか書いてあったなぁ……。そういう種子の中には、鳥の消化管を通って初めて発芽するような性質を持つものがあるとも書いてあった。
この中にある種子もそうなのかな?
まぁ、何にせよ僕の課題にも関わってきそうだし、素通りする気はないけど……なんか、鳥のウンコを持ち帰るって嫌だな……。大きくてべとべとしてるし……。
仕方ない。ここで作業していくか。警戒系の四スキルに隠蔽系の三スキルを重ね掛けして……
「シル。少しここで作業するけど、その間はお前だけが頼りだからね? しっかり僕を守ってくれよ?」
後はシル任せだ。自信たっぷりに頷いてくれるから頼もしいよね。
さて、【分離(邪道)】スキルを発動するか。シャーレの代わりはこの石でいいや。
《選択された素材はジャイアントクロウの糞です。何を分離しますか?》
……ここは種子と答えればいいのかな?
《初級スキルのため、植物の種類別に種子を分離する事はできません。これらの植物について、その特徴を答えて下さい》
へ? ……ええっと……
「……鳥の好む果実をつけて、果実を鳥に食べさせて、未消化の種子を糞と共に遠くに撒布してもらう事で分布を拡げようとする植物……くらいでいいのかな?」
そう入力すると、やがて糞が光に包まれ……光がおさまった後には、綺麗に洗われたような種子が幾つか、シャーレ代わりに置いた石の上に並んでいた。
《課題をクリアーしました。【分離(邪道) 初級 1/3】》
うん、うまくいったみたいだね。折角だから、この種子も持ち帰るとしよう。ナントさんに相談すれば、どうすればいいか判るだろう。
さて、シル、ありがとう、お疲れ様。今度こそ帰ろうか。




