第百五十四章 その頃の彼ら 4.瑞葉
「う~ん……『等価交換』って言われても……」
カナからのメッセージに難しい顔をしているのは、トンの町で農業・園芸系の仕事を割り振られるようになった瑞葉である。カナから肥料の当てについて問い合わせが届き、そのついでにという感じで〝【等価交換】のスキルについて何か知らないか〟と訊ねられたのである。
果実を採集する代わりに施肥を行なう事で、「等価交換」の要件を満たすのではないかとも書かれてあったが、
「それで言ったら農業とか栽培という行為自体が、或る意味で等価交換を前提としてるんだよねぇ……」
作物の側から見ても「等価」になっているのかどうか、本当のところは判らないにせよ、少なくとも作物の状態を良好に保っておかないと、良い収穫は望めない。そう考えるならば、農業や園芸という体系自体が等価交換を内包していると言う事もできる。
つまり――改めて【等価交換】というスキルを得られるとも思えない。寧ろそれは、農業という関係系が築かれていない野生植物相手の話ではないのか。
「う~ん……『等価交換』に関してはアドバイスできそうにないかな」
ただし、もう一つの質問内容である「施肥」についてはアドバイスできるかもしれない。
「SROって無駄にリアル準拠だもんね。施肥量が多過ぎると根腐れを起こすとか、時期が悪いと効果が落ちるとか……誰得だって言いたくなるもん」
カナは「お礼肥」だけを考えているようだったが、農家・園芸家としては、その意見には少し物申したいところがある。
「開花とか結実の前、成長を始める時期の肥料も大事だもんね。もしも野外の果樹とかとの間に『等価交換』の関係を結べるんなら、収穫に先だって投資する事で、一段良い関係を築けたりもするんじゃないかな」
取り敢えず、施肥については知っている限りの事を教えておくとしよう。SRO内でもリアルでも、カナやセンには多大な世話を掛けている。罪滅ぼしの一環と思えば安いものだ。
入手し易く扱い易い肥料を幾つか列挙したところで、瑞葉はふと思い出した。
「肥料と言えば……前に道端で見つけた土、物凄く品質が高かったな……」
何の変哲も無い道端の土の筈が、どういう訳か豪く高品質な培養土……それこそ農業ギルドでもそうそうお目に掛かれないような培養土になっていたのである。
以後、近在近所の道端を、文字どおり目を皿のようにして探し廻っているのだが、あれ以来パッタリと見かけなくなっている。
ひょっとして何かのクエストの導入部で、自分はそれに失敗したのだろうか。だとしたら痛恨の極みだが……
「アレを目標に頑張ってるんだけど……納得のいくものができないんだよね……」
カナからのアドバイスに拠ると、対象に魔力を浸透させるスキルがあるらしい。それが関係しているのではないかと言っていたが……
「確か……【魔力操作】の派生スキルか上位スキルの可能性があるんだっけ。前段階の【魔力操作】でさえ取得してないのに……先は長いなぁ……」
確かカナたちは、使役職向けの特殊なクエストを熟して身に着けたとか言っていた。自分がそれを受ける事は叶わないだろうが、〝使役職向け〟の修得クエストがあるからには、他の職業……例えば農民向けの履修クエストもあるのだろうか。是非ともあってほしいものだ。
「けど……【等価交換】かぁ……」




