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第百五十四章 その頃の彼ら 2.「マックス」

 SRO(スロウ)屈指の魔女っ子パーティ「ワイルドフラワー」が、今後を見据えて動こうとしていた丁度その頃、精鋭攻略パーティの一角を成す「マックス」もまた、(きょう)(こう)を睨んで活動を開始していた。

 その〝活動〟の中心……と言うか、切っ掛けとなったのはタクマである。


 王都の連中がシュウイの事を嗅ぎ廻るつもりで来ている事を知る彼としては、面倒に巻き込まれる前にナンの町を離れたいのが正直なところ。では、どこに行方を(くら)ますか。

 今ならシアの町というのも候補に入るだろうが、現状では商人の護衛という形でのみシアの町に入れるという。

 ……言い換えるとシアの町に行くには、シアの町へ向かう「商人」に同行する必要がある。それがナンの町の商人ならいざ知らず、王都の商人に同行する羽目になったらどうするか。下手をすると盛大な藪蛇(やぶへび)になる可能性もあるではないか。


 シアの町という選択肢が潰された以上、他の場所へ向かうしか無いのであるが……〝シアの町部分開放〟フィーバーが吹き荒れる現状で、敢えてシアの町以外の場所に行くなど目立つばかり……では、ないのであった。キーワードは「満腹度の実装」である。


 一部のプレイヤーが懸念しているように、「満腹度の実装」とは即ち食事の管理が重要になるという事であり、それは()いては食糧の管理が重要になるという事と同義である。

 ……という事は、ここの運営の性悪振りに(かんが)みると、食糧の保存性や入手難度が変化する可能性が小さくない。であるならば、食糧を入手する手段を多く確保しておくに()くは無い。――例えば、新たな食材の発見とか。

 これならプレイヤーたちを納得させるに充分な口実だろう。


 ただ……こういった理由でナンの町を離れる、或いはそれを提案するというのは、あまりにも個人的な動機であるが故に、さすがのタクマにも逡巡(しゅんじゅん)があった。

 の・だ・が……



「いや? それってあれだろ? 重要情報をバカスカ流してくれてるタクマのリアフレ」

「だったら協力する一択だろう」

「前にも言ったと思うけどなタクマ、俺たちは対価も無しに重要情報を貰ってるんだぞ? 情報提供者の身の安全を図るぐらい、やるのが当たり前だっての」

()して、(ただ)(ばたら)きって訳でもねぇんだしよ」

「そうそう。新食材の開拓は、攻略の鍵にもなりそうだしな」

「集めた情報を返すぐらいの事はしなくちゃな」



 取り敢えずは手分けして訊き込みに当たってみようという事で、「マックス」のメンバーはナンの町へ散って行ったのであった。



・・・・・・・・



「思ったよりいたな。『満腹度の実装』を心配してるやつ」



 シアの町が部分開放されるという事で、ナンの町に蜷局(とぐろ)を巻いているプレイヤーは少なくない。事態の推移をただ待っているだけで手持ち無沙汰(ぶさた)になったプレイヤーたちが、雑談という名の情報交換に打ち興じるのも自然な流れ。それに耳を傾けて、時には話題を提供、会話を誘導してやるだけで、結構な量の情報が集まったのだ。

 「マックス」のメンバーが其処(そこ)彼処(かしこ)で話題を持ちかけたところ、ほぼ全員が何かしらの危機感ないしは関心を持っていたというのだから、運営に対するプレイヤーの「信頼」の程が知れようというものである。



「ただな、具体的に何をどうすりゃいいのかって話になると……」

「良い知恵を持ってるやつはいなかったな」

「まぁ、自分一人で好い目を見ようと(だんま)りを決め込んでる可能性もあるけど」



 運営が食糧の入手或いは保存の難度を上げてくるだろうという点については、ほぼ確実視されている――その手のスキルが拾い易くなっているのが何よりの証左――訳で、その対策についても大きく二つが考えられていた。即ち、食糧確保の確実化と、マジックバッグに拠らない保存技術の確立である。

 現実に(かんが)みて対策が想像し易いためなのか、保存技術の方を本命視するプレイヤーが多いようだが……



「つってもよ、()(もん)の保存の方法なんざ決まってるだろ」

「①乾燥、②冷蔵、③密封――缶詰とか瓶詰めとかレトルトとか、④塩漬け、⑤砂糖漬けやジャム、⑥アルコール漬け……マジックバッグを除くとこんなもんか」

「このうち、④~⑥は特に技術は要らない反面で材料費がかかる。①については【干物】ってスキルが知られてる。で、本命は冷蔵庫と缶詰の開発じゃないかって話になってるようだな」

「どっちも一般プレイヤーには手を出しづらいが、壜詰(びんづめ)くらいなら何とかなるんじゃないかっていうのが(もっぱ)らの下馬(げば)(ひょう)だ」



 成る程――と、互いの情報を開陳した面々が(うなず)きあっているところへ、



「あー……それに関してなんだが……おかしな噂を聞き込んでな」



 ――と、歯切れ悪く割り込んで来たのはマギルであった。



「いや……βの時代にアンデッドを討伐してたチームが、【ミイラ化】というスキルを拾った話があったろう。名前が物騒(ぶっそう)過ぎて()ぐ捨てたっていう」

「あぁ……そう言えば」

「そんな話もあったっけ」

「で? それがどうかしたのか?」

「いや。その【ミイラ化】なんだが……干物を作るのに使えたんじゃないかって話が一部で取り沙汰されている。……今となっては確かめようも無いんだが」

「「「「……はぁっ!?」」」」

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