第百五十二章 篠ノ目学園高校 7.放課後 一年三組教室~スキル談義~(その3)
意表を衝いた茜の指摘に絶句していた三人だが、やがて我に返ったところで、この可能性の検討に入る。
「確かに、それが脱皮の本来の意義だけど……」
「……キャラクリ後にアバターを成長させるって事か?」
「それができるなら、欲しがるプレイヤーも多そうだけど……」
――と言うか、当の蒐一が切実に欲しい。背丈を伸ばせるスキルであるなら衷心から。
「いやでも……そこで脱皮する必要があるのか?」
「普通に成長させれば良さそうよね」
蒐一の淡い儚い期待もものかは、この可能性は期待薄という結論に至る。だったら、他に脱皮の有用性とは?
「うーんと……皮を剥ぐ!」
「あ……自分が脱皮するんじゃなくて……」
「相手を脱皮させるのかぁ……」
「そういう可能性も無きにしも非ずだけど……」
「皮が素材になるモンスターとか?」
「討伐せずに皮だけ剥ぐってのか?」
「傷とかをリセットする効果もありそうよね」
「あー……確かに」
「けど、要ちゃん。それって〝死に戻りでも消えない傷を負う〟のが前提だよね?」
「あー……そっちも確かに」
「刺青とかはどうなのかしら? 魔力封じの紋章を刺青される……っていう展開とかありそうじゃない?」
「……嫌な予測をするな……」
「あ、食糧採集の行動に絡んで、毒に中って気触れる……とかは?」
「……こっちもこっちでありそうだな……」
「……女子なら、早く回復できるのなら脱皮も厭わない……っていう子も多そうよね」
「うん!」
「「…………」」
「あとは……抜け殻を残して逃走するとかか?」
「変わり身の術!」
「あー……それも確かにありそうだよな」
「ねぇねぇ蒐君。【脱皮】って、悪者さんが持ってたスキルなんだよね?」
「あー……そっか。そっち方面に使えるスキルな訳か」
「……とすると、『変わり身の術』か『刺青消し』? 島送りの証を消して、一般人に紛れ込むとか?」
「どこの時代劇だよ……」
「とは言え、思ったより使えるスキルなのかもしれないわね」
「やっぱり一度は試してみなきゃ駄目かぁ」
押し並べてSROのレアスキルは曲者揃いだが、それに見合うだけの有用性を隠しているのが常である。名前だけ聞いて遠ざけたりせず、試してみるのが良いだろう。
「うん……【爆発】とかよりは無難そうだよね」
「あー……そう言やそういうのも持ってたっけな……」
微妙になった雰囲気を振り払うように、要が【干物】と【繕いもの】についての情報を開陳する。とは言っても、読んで字の如しなのであるが、
「僕、一応【裁縫】ってスキルを持ってるんだけど……どう違うの?」
「【繕いもの】の対象になるのは、衣服の破れや解れだけじゃないのよ。陶磁器の割れ物とかも対象になるの。ただ、補修以外には使えないけど」
「あー……成る程」
対象の範囲を或る意味で広げ、或る意味で狭めて差別化を図ったらしい。まぁ、ユーザーとしては使い勝手の良いスキルではあるようだ。
「どっちもコモンスキルだから、普通なら【スキルコレクター】に引っ掛からないだろ? それを思えば好かったんじゃないか?」
「確かにそうかもな」




