第百五十二章 篠ノ目学園高校 4.放課後 一年三組教室~ズートと【猩々】~(その2)
そんな事になったら面倒だという点では茜に同意するが、【猩々】の特性に鑑みるなら、その「祝福」は「酒造原料」に対する祝福であって……というところまで思考が辿り着いたところで、それ以上の演繹処理をシャットダウンする蒐一。
俗諺にも〝噂をすれば影が射す〟〝悪魔の事を口にするとそれが現れる〟と云うではないか。おかしな展開になったらどうしてくれる。
「蒐君の都合はともかくとして、この事態を運営が放置しておくとも思えないわね……バグだとしたら」
「……逆に、運営が何の動きも見せなかったら、これは『バグ』じゃなくて『仕様』だって事か」
「えぇ。バグなら早晩修正が入ると思うけどね」
要の観測を聞いた匠は、暫く何やら考えていたが、
「よっし! 蒐、運営が何か言ってくる前に、バグを使いまくる事を考えろ」
「はぁ?」
露骨に〝何言うてんねん、こいつ〟という表情を浮かべつつも、匠は一応βプレイヤーだからという事で、蒐一はその真意を問い質す事にする。何か深謀遠慮・鬼謀妙計あっての事かもしれないではないか。
尤も、その思いは他の二人も同じだったと見えて、
「〝バグを使いまくる〟というのは、〝酒造原料になりそうな果樹に祝福をかける〟という事でいいのかしら?」
「おぅ。村の果樹の格が上がれば、何か色々と良い事がありそうだろ?」
深謀遠慮や鬼謀妙計は無さそうだな……と思いつつ、蒐一はペンチャン村の現状を説明する。
アラベラ婆さんの話では、今は丁度端境期というやつらしく、ダンディとエルダの花期は既に終了、ペスは走りの実が出始めたかという頃で、エルダの実が生るのはまだ先らしい。あとは野生の藪イチゴぐらいしか無いという。
「【猩々】の本質は〝酒造原料に対する祝福〟なんだから、花や実を着けてない木にはかからないと思うぞ? 走りの実が出始めたっていうペスだって、酒造原料に使えないと判断されるかもしれないし」
確実なのは藪イチゴぐらいだろうが、
「おぃ匠。村の近くの藪イチゴは採り尽くしたからって、村の皆さんは昨日遠出してまで藪イチゴを採って――多分採り尽くして――きたんだぞ? ……僕に、それ以上遠くまで足を伸ばして、実の生っている藪イチゴを探して祝福しろって言うのか? その都度藪イチゴの前で【猩々】の舞いを舞って?」
「いや……それは……」
そんな面倒はしたくないとぶん剥れる蒐一に、さすがに匠も平謝りであった。
まぁ、採り零した実の一つや二つ、どこかに残っているかもしれないし、早生りのペスにも好い感じのものがあるかもしれないが……抑、何だって匠はそんな事を言い出したのか。
その疑問は、何気無い茜の問いかけで明らかになった。
「運営さんに怒られたりしないかな?」
「普段虐められてんのはプレイヤーだからな。偶には反撃くらいしたっていいだろ?」
……インセンティヴに関しては判明したが……運営が聞いたら血涙を振り絞って抗議しそうな非道を、残酷無慈悲に提案する匠なのであった。




