第百五十二章 篠ノ目学園高校 3.放課後 一年三組教室~ズートと【猩々】~(その1)
思いがけなく【等価交換】の話が長引いたが、そんなのは蒐一にしてみればただの前段、落語の〝枕〟のようなものである。さっさと本題に入りたいものだ。
「あれが『枕』扱いかよ……」
「飽くまで〝僕の立場では〟って事だぞ? 匠たちの都合じゃなくて」
孤軍奮闘的に未知のクエストに挑んでいる蒐一としては、βプレイヤーの幼馴染みたちからの助言が欲しい、そのための現状報告という意識が強い。その過程でついでのように明らかとなったアレコレの情報などは、そっちで勝手に活用してくれればいい……ぐらいの認識であった。
「蒐君、変なクエストを変な方向に進んでるもんね」
「僕のせいじゃないやぃ……」
責任の所在はさて措いて、テキパキと検討を進める事に異存は無い。なので蒐一からの報告聴取を再開したのだが……
「『ズートの花』に『ズートの果実』、おまけに『ズートの完熟果実』かよ……」
「椀飯振る舞いだね~」
「これも【等価交換】の御利益なのかしら……」
「……待てよ要。だとすると……スキルの効果が遡及して適用されたって事になるぞ? 蒐がズートの木を治療したのはその前なんだから」
「さすがに無理があるんじゃない? 要ちゃん」
「ズートさんの感謝の標でいいんじゃないかな?」
「ズートの木の開花結実が一日遅れという事を考慮したつもりだけど……そうね。少し考え過ぎたかもしれないわね」
〝そうそう。本題はこの後なんだし〟――という内心を隠しつつ、蒐一はしれっと報告を続ける。そして案の定……
「【猩々】の効果がズートの木に及んだ!?」
「何でそういう事になったのかしら……」
「【猩々】さん、頑張ったんだね~」
運営管理室のスタッフたちに引き続き、βプレイヤーたちも頭を抱えたものの、
「……【猩々】の目的と成立の経緯を考えると、隠し効果だとは考えにくいわね。本来の形がどうだったのかまでは判らないけど」
「あー……酒造りのためだけに単離されたスキルだからなぁ……」
「果樹への祝福までは対象外……だよね、やっぱり」
「ねぇねぇ、ズートさんと【猩々】さんの相性が良かったから――っていうのは?」
思いがけない茜の指摘に、三人は思わず顔を見合わせて考え込むが……
「……そこまでニッチなトリガーを仕込むかなぁ?」
「開発だって暇じゃなかった筈だしな。……いや……SROの開発だと、あり得なくもないか……?」
「バグ発動のトリガーになった可能性は否定できないけど、バグのスクリプトまでは解らないわね、さすがに」
とりあえず、運営が意図した展開ではないのではないか――という点で合意には至ったものの、
「バグなら修正が入ると思うけど……」
「蒐としちゃどっちが都合好いんだ? 祝福の対象が幅広い方が遣り易いのか?」
「う~ん……〝祝福の対象が幅広い〟のは歓迎するけど……〝狙いが甘くて誤爆した〟っていうのなら困るかな」
「あぁ……確かにそうね」
「実の中に入ってた虫さんまで祝福されちゃって、ワームとかに出世したら大変だもんね」
「ワーム……」
「何かで読んだような展開ね……」




