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第百五十章 篠ノ目学園高校 8.放課後 一年三組教室~食糧問題~

 イベントチュートリアルの件については、単に〝へぇ~〟という感じで流した(おさな)馴染(なじ)みたちも、食糧問題については聞き捨てにできなかったと見えて、真剣に身を乗り出した。



「満腹度の実装に伴って、食糧確保の難易度が変化する可能性か」

「それって、前から言われてた事だよね?」

「運営が愈々(いよいよ)動きを見せたっていう事かしらね」



 先日も話に出ていたが、「満腹度」の実装は食物の充分な摂取が重要になるという事であり、そのために食物の確保が重要な課題となるという事に他ならない。そしてここの運営の(しょう)(わる)さを考えると、食物の入手や保存の難易度を変化させてくる可能性も無視できない。特に後者の場合が問題で、賞味期限や消費期限という要素をしれっと投入してくるのではないか?

 これまではアイテムバッグに仕舞っておけば品質の低下は起きなかったが、それが「満腹度」の実装後も変わらないとなぜ言える?



「実際に、示唆的な報告は幾つか上がって来ているのよ」

「……幾つか――だけ?」

「そう、幾つかだけ」



 何となく納得できる事ではあるのだが、()()べて採集系のスキルは、その採集物が得られる場所で拾われる傾向にある。言い換えると食糧採集系のスキルは、町の中ではほとんど拾えない。



「ところがな、今はプレイヤーの多くがナンの町に集まっているもんだから」

「この手のスキルについての報告が少ないのよね」



 危機感というか、問題意識を持っていた一部のプレイヤーが食材の確保に向けて動いており、それに伴って採集系スキルを拾得する機会が増えている傾向が示唆されていたらしい。



「ま、これも注意してないと気付かなかっただろうってくらいだけどな」

「報告した人、グッドジョブだよね~」

「確かに殊勲賞ものかもしれないわね」



 そして、ペンチャン村での情報が重要なのは、



「モックが拾ったっていう【保存食】な、割と珍しいスキルなんだよ」

「でもでも、少し前にアルファンの宿場でも見つかってるの!」

「そして今度のペンチャン村。立て続けの拾得はこれまでに無かった事なのよ」



 これだけならまだ偶然と言い張る事もできようが、



「二人は【釣り】と【食べ頃鑑定】も拾ったんだろ?」

「【食べ頃鑑定】って、初めて聞いたスキルだよ」

「ペンチャン村という限られた範囲で、立て続けに意味深なスキルを拾ったとなると、これはもう容疑が確定したと考えてもいいでしょうね」



 情報の重要性を考えると黙っておくのは色々と(まず)いが、その一方で「ペンチャン村」という場所について触れるのも時期尚早と思われるので、その(あた)りを適当に()かした形で、(おさな)馴染(なじ)みたちが報告を上げてくれるという。(しゅう)(いち)としては願ってもない話であった。


 そして、(おさな)馴染(なじ)みたちは他にも有用と思われる情報を教えてくれた。



(しゅう)、【毒抜き】ってスキル、知ってるか?」

「【毒抜き】? 初耳だけど?」

「食物から毒を抜いて食べられるようにするスキルなんだがな、解毒系のスキルと間違えて取って、腹立ち紛れに捨てるやつが続出したんだよ」



 悪名高き()の「死刑宣告者(デス・センテンサー)」の他にも、スティンガーバグやスキップジャックヴァイパーなど、SRO(スロウ)には毒を持つモンスターも少なくない。それらの毒への対抗手段と誤解して喜んだプレイヤーが多かったのだが、実は食物の毒抜きスキルだと判って取得者の大半が落胆立腹、捨てる者が続出したらしい。



「で、SRO(スロウ)で一旦捨てたスキルって、再取得が難しいんだよね」

「今になって考えると、満腹度の実装を(にら)んで用意されたスキルなんでしょうね」

「満腹度の話が出るずっと前にそれを(ばら)(まく)くんだから、ここの運営も悪辣(あくらつ)だよな」



 【調薬】を鍛えると同じような事ができるので、シュウイやカナだと敢えて取るメリットは少ないようだが、



「両方持っていると効果が高まるんじゃないか――っていう可能性もあるのよね」

「もし拾うような事があれば……(しゅう)

「ここの運営さんの事を考えると――」

「あー……〝毒抜きをすれば食べられる〟食材が増える可能性がある訳ね」



 どうせ自分はスキルを捨てる事はできないのだ。検証に参加するのは構わないが、既に【調薬】を持っている身としては、【毒抜き】の効果増大を確かめるのは難しい気がする。いやそれ以前に、【毒抜き】がレアスキルでないとしたら、【スキルコレクター】が拾ってくれるかどうかも疑わしい。



「まぁ、もし拾った時には――って事で頼むわ。それとだな(しゅう)

「今後得られる食材だけど、毒を持つ以外の可能性も予想されているのよね」

「お(なか)に溜まるか溜まらないか、差があるんじゃないかって予想されてるの」

()わば食物によって満腹寄与度が違う可能性だな」

「……(はら)()ちが違うって言いたいのか?」

「そう、それ!」

「消化のし易さと言い換える事もできるし、栄養価という要素も登場する可能性があるのよね。これには先例があるし」

「……先例?」

「えぇ。肉ばっかり食べてたプレイヤーが、肌荒れのバッドステータスを警告された事があるのよ」

「え……? そんな事、あったんだ」



 満腹度の実装が思った以上に広く影響しそうな事に、(いささ)か腰が引けてくる(しゅう)(いち)。【空腹】などというスキルを持つ身としては、警戒心が募るのも無理からぬ事である。



「だからな(しゅう)、何か気付いた事があれば、できるだけ報告してくれると助かるんだわ」

「勿論、私たちからも情報は提供するわよ?」

「持ちつ持たれつって事で、よろしく!」

「諒解」

これにて本章も終幕、次回からゲーム本編に戻ります。

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