第百五十章 篠ノ目学園高校 7.放課後 一年三組教室~【猩々】問題~
さて、先般幼馴染みたちの華麗な推理に瞠目し、さすがにβプレイヤーだ、平々凡々たる自分――註.蒐一視点――とは違うと感心した蒐一であるが……では、その蒐一は一体何を考えていたのかと言うと――
「蒐、難しい顔して一体何を考えてんだよ?」
「え? ……あ、うん、ちょっとね」
「「「……………………」」」
「……【猩々】のレベル上げについて考えてた」
適当にはぐらかそうとした蒐一であったが、もの問いたげな三対の視線に抗し得ず、気の進まぬカミングアウトを強いられる羽目になっていた。
幼馴染みたちがゲームの攻略という視点でものを見ていたのに対し、私的にレベルアップを考えていた事に些か決まり悪い思いをしているのだが……だからと言って蒐一がコンプレックスを抱えている訳では全くない。
抑の話、蒐一は【スキルコレクター】というユニークスキルのせいで、一般的なスキル取得ができなくなっている。言い換えると、一般的な成長計画などが立てられない状態であり、況して攻略の計画などは無理な話である。必然的帰結として、蒐一はゲームの攻略を競うよりもノンビリとしたスローライフを送る事を主眼としている……筈なのだが、なぜか妙に濃い生活を送る羽目になっている。
それに加えて蒐一は、目下はモックとエンジュの指導育成を引き受けている状況であり、それを放って勝手な攻略などできる訳がない。ならば今後の方針を優先して検討するのは自明の理というものだ。
それに、幼馴染みたちとの先程の討議に鑑みて、蒐一には【猩々】のレベル上げを考える歴とした理由があった。
「ほら、さっき要ちゃんが、僕は技芸神に目を付けられてる可能性が高いって言ったじゃん?」
「「あー……」」
「……あったな、そんな話」
これ以上技芸神に目を付けられないよう、【猩々】のレベル上げを控えるという考えもあったのだが、既に技芸神に目を付けられている可能性を考えると、ここは寧ろ【猩々】のスキルアップを図っておいた方が良いかもしれないと考え直したのである。
だが、そっちはどうせ村人の要請で祝福をかける事になるのだから――と、あまり考えないようにしていたのだが……
「レベルアップじゃなくて、単に効果を高めるだけなら、もう一つの方法がある事に気が付いたんだ」
「……【バーテンダー】による補助か?」
「それもだけど【歌舞の心得】。あれって確か、歌と踊りが上達し易くなるスキルだよね」
「「「あぁ!」」」
そう言えば、確かに蒐一はそんなスキルも持ってたな――と、記憶を新たにする一同。成る程、確かにそっちのレベルを上げる事でも、【猩々】のレベルアップを図る事はできそうだ。
「たださぁ……【歌舞の心得】って、歌と踊りをワンセットで実行しないと駄目みたいなんだよね」
「え? そうなのか?」
嘗てシュウイは【歌舞の心得】をレベルアップさせようとして、町外れで【デュエット】を発動して独り熱唱した事がある。お蔭で【デュエット】はレベルアップを果たしたが、【歌舞の心得】はピクリともレベルアップの気配を見せなかった。
【猩々】は「舞」と言うくらいだから踊りの要素はあるのだが、「歌」の要素はほとんど無い。代わりに、何処からともなく謎のBGMが聞こえて来る仕様になっている。
つまり……現在のレベルの【歌舞の心得】では、【猩々】のレベルアップをアシストできるかどうかに懸念がある。ここは【歌舞の心得】自体のレベルを上げて、「舞」単体でもアシストできるように、効果の範囲を拡大しておくのが望ましいだろう。
「けど、そのためにアイドルか何かの歌を振り付け込みで憶えなきゃならないのかって考えると、少し憂鬱になっちゃって。……こないだはラジオ体操で何とか誤魔化したんだけど」
「「「ラジオ体操」」」
ラジオ体操の第一と第二を演じる事で、どうにか【歌舞の心得】をLv3まで上げる事ができたのだ。まぁ、【器用貧乏】改め【器用平民】となったスキルのアシストも大きかったようなのだが。
ただ、さすがにLv4以降となると、ラジオ体操の威光も及ばないのではないかと考えられるため、アイドルの歌と踊りという発想になったようだ。さもなければ児童のお遊戯とかだが、高校生にもなってそれをやるのは些か辛い気がする。
「……いえ、ちょっと待って蒐君。それは飽くまで【歌舞の心得】自体のレベルアップでしょう? 【歌舞の心得】の効果の範囲とは違うんじゃない?」
「……え?」
「そうだな蒐。【歌舞の心得】の効果は確かに〝歌と踊りが上達し易くなる〟ってもんだが、それは〝振り付きの歌〟限定って事じゃない筈だぞ」
「だよねー。そうでなきゃ使い勝手が悪過ぎるって、クレームが殺到する筈だもん」
「あ……」
「あとな蒐、お前はレベルアップしなかったって言うけど、幾ら【器用貧乏】だか【器用平民】だかの恩恵があるって言っても、抑一回でレベルアップするっていうのが普通じゃないからな」
「そうね。一度でのレベルアップにまでは至らなくても、経験値の蓄積はあると考えるべきね」
……言われてみればそのとおりだ。自分は何を勘違いしていたのか。
ならば、今のままの【歌舞の心得】でも、【猩々】のアシストはしてくれるのではないか。虫の好い考えのような気もするが……いや、茜の言うとおり、妙な制限を付けてはプレイヤーからのクレームが殺到するだろう。あの運営がそんな隙を見せるとも思えない。
「まぁ、【歌舞の心得】のレベルアップも、重要っちゃ重要なんだがな」
「蒐君、踊るの?」
「踊りません」
……とは言ったものの、いざとなればモックとエンジュと一緒に、鈴の演奏講習に混ぜてもらおうかとも考えていたが、そこまでする必要は無さそうだと、蒐一は胸を撫で下ろす。
「鈴の演奏講習クエスト?」
「……って、何なのかしら?」
「初耳!」
「あ、うん。これは僕じゃなくて、モックとエンジュが出会ったイベントなんだけど……」
既に二人からは、これらの件について幼馴染みたちに相談する事の許可を貰っている。何気に重要そうな話が含まれているし、ここは有能な幼馴染みの知恵を借りるのが良いだろう。
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。今回は四話構成となります。宜しければこちらもご笑覧下さい。




