第百五十章 篠ノ目学園高校 6.放課後 一年三組教室~御神酒問題~(その3)
そこで次なる問題は、「ペンチャン村」が上等の酒を希求する理由は何かという事になる……らしい。あぁ、βプレイヤーとは斯くも深い洞察をもって、ゲームを遂行しているものなのか。
自分には真似できそうにないなぁと引く蒐一を尻目に、
「簡単に考えてありそうなのは、他の村と張り合ってるって理由だよな」
「神殿にお供えする御神酒の品質で?」
「出来の良さで、技芸神が村を格付けするとか?」
「神に認められたらインフラが充実するとかな」
「……ありそうに思える展開ね」
この仮定を受け容れるとするなら、そこから更に次なる問題が派生する。
「となるとだ、競争の相手がカンチャン村だけってのは、少し寂しい気がしないか?」
「うんうん、最低でも一位・二位・三位は欲しいよね」
「そうね。アラベラさんの話でも、〝近在の村々でそれぞれ工夫を凝らした御神酒を拵えている〟そうだし」
ペンチャン村とカンチャン村の二ヵ村だけなら、〝近在の村々〟などという言い回しにはならないだろうし、だったら他にも村がある理屈である。案ずるに、カンチャン村を挟んで反対側とか?
「そこで気になったのが、その村にはどこから人が来るのか――っていう事なのよ」
「どこから……?」
「そりゃ……あれ?」
トンの町とナンの町からはペンチャン村に続く道があり、シュウイたちもその道を通ってペンチャン村に辿り着いている。第三以降の村々がペンチャン村の反対側にあるとすれば、そこへは他の場所からの道が続いていると考えるのが自然ではないか? そうすると消去法の示すところに拠って、それらの村々へ続く道の先にあるのは、
「……シアの町以降の町とか村とか……王都とか?」
「何か思いっ切り遠廻りじゃない?」
王都を中心にして、トン・ナン・シア・ペイの四つの町がそれを取り巻いているというのが、SRO世界の概容である。而してペンチャン・カンチャンの村はトンの町の郊外にあり……要するに、シア以降の町からは大きく離れている。第三以降の村々が、ペンチャン・カンチャンの村の更に先にあるとするなら、シア以降の町から――ペンチャン・カンチャンの村を迂回するようにして――直通ルートが存在するというのは極めて不自然に思える。
その不自然を解消できる答があるとすれば……
「……転移門……か?」
「一つの可能性としてはありそうでしょう?」
益体も無い駄弁だと思っていたら、それが想像もしなかった解釈に発展した事に、蒐一も驚嘆の思いを禁じ得ない。あぁ、これがβプレイヤーの底力というものなのか。
「可能性というのも烏滸がましい単なる憶測……いえ、妄想よ。公にできるようなものではないわ……今のところはまだ」
「確かにな……」
「それに、何かの条件を満たさないとそれらの村に辿り着けない――っていう事だってありそうだし」
「あー……ありそうな話だな」
他ならぬ「マックス」の面々が遭遇したケースに鑑みると、その可能性は極めて高そうな気がする。立地条件を考えると、技芸神に認められる事が使用の条件……という展開だってありそうではないか。
「ま、これについちゃ当分黙りを決め込むとしようぜ」
「そうね」
「さんせー」
「うん、諒解」




