第百五十章 篠ノ目学園高校 5.放課後 一年三組教室~御神酒問題~(その2)
思いがけなく不穏な指摘に顔色を変える蒐一に、一応は気の毒そうな表情を向けつつも、要は更にこの問題を掘り下げる。
「でもね、アラベラさんはじめ村の人たちは、蒐君が【猩々】を持っている事、もっと言えば御神酒の品質向上ができるという話に食い付いたんでしょう? だったら、やっぱりこちらが本線じゃないかと思うのよ。……蒐君が技芸神に目を付けられた可能性は別として」
ペンチャン村の村人たちが【猩々】に強い関心を示したのは、それが酒の品質向上に寄与するからだとしても、その事と蒐一が技芸神に目を付けられた事とは背反しない。言い換えると、両立する可能性は捨てきれない。
面倒事がダブルでやって来そうな気配に蒐一は憂色を深めるが、今はその懸念は脇に措いて、【猩々】と御神酒の関わりを追究するのが先……と、健気にも覚悟を決めたようだ。
「となると問題は……ペンチャン村の村人が、上等の酒を欲しがるのはどうしてか――って事になるか」
「単に美味しい酒が飲みたいからじゃないの?」
面倒必至の趨勢に、蒐一も些か投げ遣りな口調となるが、実際に村人たち――主に男ども――の反応を見てきた身としては、その可能性は強いと感じていたのも事実である。
だが、幼馴染みたちの思索と追究は、もう少し深いところまで及んでいた。
「だとすると、村人は酒の味が判る、少なくとも品質が判るという事になるわよね」
「そうなるけど……それが何なの?」
「あのな蒐、メタな話で興醒めかもしれないけどよ、問題はなぜそんなギミックを仕込む必要があったのか――って事なんだ」
「態々時間と労力を費やしてまで――だよ」
幼馴染みたちの指摘に、成る程――と蒐一も考え込む。
ペンチャン村の村人たちに〝酒の味が判る〟という機能が与えられているのは、取りも直さずそれが必要だからに他ならない。つまり……
「……酒を飲む展開が想定されている?」
「それも恐らく、外から持ち込まれた酒を――という事になりそうなのよね」
「……へ?」
「ほらほら蒐君、村人さんが自分で造ったお酒なら、品質の事とかは解りきってるじゃない?」
「あ、それもそうか」
「で、誰がその酒を持ち込むのか――って事を考えるとな」
「プレイヤー……って事になるわけか」
プレイヤーが酒を持ち込んで、村人たちと歓談する。そういう展開が想定されているのではないか。
「村人の好感度を上げる仕掛けの一つなんだろうな」
「飲み二ケーションってやつ?」
「アルコール・ハラスメントのトラップも仕込まれてそうだよね♪」
「うわぁ……」
「あー……ここの運営ならやりかねねぇな……」
「好感度に男女間でバイアスがかかる可能性もあるわね」
「あー……男どものウケが好くなる代わりに、女性陣から白眼視されるのか」
「逆にそこに付け込んで、女性プレイヤーが村の女性陣から話を訊き出す……っていう戦術も考えられるけど」
「そこまで(業が)深いもんなの? VRゲームって」
思わず少し引き気味になった蒐一であったが、こんなのはまだ序の口であったらしい。要の話には続きがあった。
「そこで蒐君の報告が鍵になってくるんだけど」
「――へ?」
そんな重要な報告をしただろうか? 単に酒造りに関するドタバタ騒ぎがあっただけだと思っていたが……?
「えぇ。村の男性陣が自分たち用のエールを造るという話をしていたのを、アラベラさんが一喝したのよね?」
「そうだけど……?」
「それはつまり、村の人たちの希望とは別に、『ペンチャン村』自体に上質の酒を望む理由があるという事にならないかしら?」
「えーと……そういう事になる……のかな?」




