第百五十章 篠ノ目学園高校 1.昼休み~屋上~
申し訳ありませんが、本章も少し長めです。
「あー……ソレな、マイナーチェンジってやつだから」
「蒐君、運営からのメッセくらい、見ておいた方が良いよ?」
昼休みになって蒐一が真っ先に幼馴染みたちに訊ねたのは、ステータス画面の表示に変化があった件である。レベルアップしたスキルに[Up!]の添え字が、新規に取得したスキルに[New!]の添え字が付いていたのだ。十中八九まで運営による仕様変更だと思われるが、その辺りの事情が解らなかったため、手っ取り早く識者に訊く事にした訳だ。
「何時の間に……?」
「だから……運営からの通知ぐらい、ちゃんと目を通しとけ」
「プレイヤーから要望が出たらしいわよ」
「要望?」
仕様変更はプレイヤーの要望に基づいたものだと聞いて、蒐一ははてなと首を傾げる。便利か否かと訊かれれば便利なのだろうが、逆に言えば添え字が無かった事に態々クレームと要望を挙げるほど、不都合があったのか? レベルアップについてはともかくとして、
「新獲得スキルはリストの下の方にあるんだから、態々添え字を付ける必要無いじゃん?」
「蒐……お前さ、ステータス画面を弄くってないだろ?」
「弄くる?」
「カスタマイズしてないかという事なんだけど……」
「カスタマイズ……?」
「やってないよね、蒐君なら!」
茜のコメントには問い詰めたい部分もあるが、抑〝弄くる〟とか〝カスタマイズ〟とか、一体何を言っているのか?
「だから……ステータス画面は好みでエディットできるんだよ。スキルの配列を変更するとかな」
「戦闘系スキルと生産性スキルがごっちゃになってると解りにくい――とか」
「個人の好みに応じてカスタマイズできるんだけど、そうすると……解るでしょう?」
「あー……スキルが取得順に並ぶとは限らないわけか」
「種類別のフォルダに格納していたりすると、特にね」
「……あれ? そういう場合はどうすんのさ?」
「フォルダの横にメッセージが表示されるようにできるのよ」
そういうカスタマイズをしているプレイヤーから、更新情報が解りにくいというクレームが出されていたらしい。
「でもさ、それって自己責任の範囲じゃないの?」
「それでも面倒を嫌がるのがプレイヤー様なんだよ」
「運営への意趣返しと思ってるのかも!」
「あー……成る程ね、諒解」
昼食を摂りながら蒐一の疑問に答えているうちに、昼休みも半ばを過ぎたので、時間のかかりそうな蒐一の訊問は放課後にしようという事になった。
残りの時間は幼馴染みたちによる、ナンの町の現状報告に充てられたのだが、
「あー……何つーか、ちょっとおかしな展開になっててな」
「おかしな展開?」
王都からやって来るという「救援部隊」が何かをしでかしたのだろうか――と、蒐一は首を傾げたのだが、
「いや……そっちじゃなくてな」
「死霊術師のプレイヤーがやらかしてくれたのよ……」
「ナンの町の犠牲者の霊と交信したの!」
「……は?」
幼馴染みたちの口から語られたのは、既に召喚術師プレイヤーのフランネルという少女が報告したのと同じ内容であった。死霊術師プレイヤーの降霊に端を発し、大多数の使役職プレイヤーから教会までをも巻き込む事になった、あの一件である。死霊術師プレイヤーのみならず、降霊とは無関係の従魔術師や召喚術師までもが巻き込まれたと聞いては、蒐一も表情を歪めざるを得ない。
「蒐が残ってたら巻き込まれたかもな」
「えー……シルとマハラとジュナを隠してれば、大丈夫じゃない?」
幸いにして、蒐一の使役獣は何れも小さなものばかりだ。懐にでも――ジュナは手の甲の紋章に――隠しておけば露見しないのではないか?
「甘いと思うぞ、蒐」
「称号の事を忘れたの? 『霊魂の友』っていう称号を持ってるでしょう」
「きっと幽霊さんたちが、ワラワラと寄って来たりするんじゃないかな」
「勘弁してよ……」
熱りが冷めるまで、決してナンの町には近寄らないようにしよう。そう決意を新たにする蒐一であった。
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。今回は二話のご披露となります。宜しければこちらもご笑覧下さい。




