第百四十九章 その頃の彼ら 7.三人の少女~ナンの町 死霊術師(ネクロマンサー)騒動~(その2)
そして……少し前に使役アーツ取得セールが開催されたという経緯もあって、人口比で使役職が多いのは――レベルを考慮しない場合は――異邦人という事になっている。
折も折、フランセスカの失言を耳にした使役術師プレイヤーが、丁度ナンの町に集まっていたために……
「事態は更にややこしい事になった」
「「うわぁ……」」
死霊術師であろうがなかろうが、レベルが高かろうが低かろうが、使役職というだけで住民たちから無理難題を振られるのだという。仄聞するところに拠ると、「マックス」の斥候職であるパリスも、飛び火を恐れて戦々兢々と宿に籠もっていたそうである。
ちなみに、どこから見てもスケルトンであるサンチェスを連れたカナの場合は、幸か不幸かサンチェスが有名人(?)であったため誤解は免れたが、逆にプレイヤーからの質問が殺到したそうである。
「……ここへ来る前に会ってきたけど、カナが静かにキレていた」
「「うわぁ……」」
使役職としては後発組になるが、βテスターでもあったカナは――サンチェスと使役契約を結んでいる事もあって――使役職プレイヤーの間では有名人である。殊にフランネルは、「ワイルドフラワー」の一因たるミモザのリア友という事もあって、カナとも予てから顔見知りである。
そんなフランネルが語るナンの町の騒ぎに、メイとニアの二人も些か引き気味であった。
「で――収拾が付かなくなりそうなところで、とうとう教会が乗り出してきた」
社会の不安が洒落にならなくなってきたのと、何よりこのまま放って置くと、信者の心の拠り所として鼎の軽重を問われそうな状況になってきたため、重い腰を上げたらしい。
「知らなかったんだけど、実は教会の内部にも、死霊術師……と言うか、降霊が可能な聖職者はいるらしい」
「へぇ……」
「言われてみればありかもね。悪魔祓いなんかもやってそうだし」
「あー……納得」
アンデッド――より正確に言えば動く屍体――との違いはどこなのかという議論も湧き起こったようだが、どうやら自我の有る無しが判断の基準になっているらしい。ゾンビやスケルトンといったアンデッドは、確かに動いてはいるものの、得てして自我も記憶も失っており、取り憑いた下級霊に動かされているだけというケースがほとんどである。
……まぁ、中にはサンチェスのような稀有な例外もあるのだが、それは飽くまで少数派という事らしい。
「で、教会なんだけど……そのプレイヤーに対して、正式に教会に就職しないかっていう打診があったみたい」
「わー……」
「そっちのルートもありなんだ……」
「で、どうなったの?」
「うん。本人も悩んだみたいだけど、やっぱり冒険もしてみたいし、それに異邦人である自分が教会に属するのは拙いんじゃないかって考えて、辞退する事にしたみたい」
ふーんと頷くメイのニアの二人。
然したるメリットも無さそうだという判断から、ナンの町へは行かなかったのだが……
「……行かなくて正解だったみたいね」
「うん。行ってたら酷い目に遭った気がする」
「うん。あたしも召喚術師だって事は秘密にしてた。……召喚術師を選んだ事を、ここまで感謝した事は無い」
もしも従魔術師を選んでいたら、従魔の存在によって、使役職である事が露見したであろうという。
「モフモフの旗」の二人にしても、ニアはともかくメイは従魔術師な上に、ムックというやんちゃな仔ウルフまで連れている。隠し果せたとも思えない。
やはり行かなくて良かったと、しみじみと僥倖に感謝する二人なのであった。




