第百四十九章 その頃の彼ら 6.三人の少女~ナンの町 死霊術師(ネクロマンサー)騒動~(その1)
まず最初に言っておくと、フランセスカは冒険者ギルドの職員ではあるが、同時に錬金術師の卵でもある。それを知っているNPC従魔術師のウィルマが、かなり癖のある素材ではあるが加工次第では色々とピーキーな原料に化けるので、何かの役に立つだろうと、セン(とカナ)がイビルドッグの巣から採集して来た素材の一部を融通したのが事の始まりであった。
今回はこの素材に一手間加える事で、属性の相性を一時的に低減するという効果を発揮させ、【治癒】における術師と患者の属性の相性問題解決に使われた事は既に述べたが……使役術師としての本来の使い方を言えば、相性に問題のある魔獣を使役する時に使う他、単純に使役獣を強化する際にも使われているのだ。
フランセスカがその事をポロリと漏らしたのは純然たる会話の流れによるもので、運営の意図など爪の垢は疎か蚤の目糞ほどにも含まれていないのだが……前述の如き先入観から、これは運営のサジェスチョンに違いないと判断されたのであった。
……まぁ、使役獣を使い捨てにしないというその結論に関しては、正しく運営の意に沿ったものであったため、運営も口を噤んで知らぬ振りを決め込んでいる訳だが。
それに、メイやニア、フランネルにとっても、これが好ましい展開――或いは転回――なのは事実だし。
ともあれ、そんな感じに〝公表〟された情報であっただけに、使役職プレイヤーの多くがナンの町を目指し、これが更なる混迷の一因となるのであるが……それについては後ほど触れるとして、今は彼女たちの会話に耳を傾けよう。
「そんな事になってたんだ……全然気付かなかった」
「それって何時の事?」
「うーん、三日前」
「あー……護衛依頼で出かけてた時だよ、丁度」
「何だかんだで、掲示板なんか見てる暇無かったもんね」
ちなみに、ヒートアップしたとは言ってもそれは使役職の間だけで、一般プレイヤーにまで騒ぎは波及しなかったため、蒐一の幼馴染みたち――俄使役職含む――も気付かなかったようだ。
「で、まぁ……従魔術師と召喚術師の状況についてはそんなものなんだけど……」
「……話の続きがある訳ね?」
「話の流れ的に……死霊術師?」
「うん、ご名答」
使役対象の特殊性から、前述の騒ぎを一歩引いて眺める立場にあった死霊術師勢であったが、運命は彼らにも相応のドラマを用意していた。
「ナンの町で地道に『死者からのお願い』クエストを熟していた死霊術師のプレイヤーが、ナンの町の犠牲者との交霊に成功して、『霊魂の友』称号を貰った」
「「……はあぁっ!?」」
それまではどちらかと言えば日陰者っぽい立ち位置にあった死霊術師であるが、故人との対話を願う住民たちが殺到した事で、一気に重要職へと祭り上げられた。
「イタコルートに入っちゃったかぁ……」
「可能性だけは事前にも議論されてたけど……」
使役職を目指すプレイヤーが自主的に立ち上げたギルド「不遇な使役職のための集い」――通称「使役者友の会」――がジョブ解放以前に行なった検討会では、SROにおける死霊術師の立ち位置として、アンデッドを使役して戦う以外に、死者との交霊を以て社会における地位を確立する……というルートも考慮には入っていた。
ただ、拝み屋方面に進みたいというプレイヤーは多くなかったため、検討の対象外とされた経緯がある。
しかし、思いがけない成り行きによって、件のプレイヤーはそっち方面に進む事を余儀無くされた……と、思っていたのだが、フランネルはふるふると首を左右に振った。
「状況はそんな甘いものじゃなくなってる」
「「………………」」
何しろ、称号を得て犠牲者の降霊が可能になったプレイヤーは、泣いても笑っても一人だけ。そして今や状況は、その一人だけの手には余るものとなりつつあった。
「で……足りないのなら他所から持って来ればいい。そういう風に考えるのが浮世の常」
ナンの町を拠点とする死霊術師が多くない――と言うか、ほとんどいない――事もあって、少しでも死霊術を心得た者の許に、遺族たちの嘆願が殺到したらしい。




