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第百四十八章 ペンチャン村滞在記(七日目) 10.運営管理室~「鈴の課題曲問題」顛末~

「よぉっしゃぁっっ!!」

「話が繋がった……ようやっと繋がった……」

「一時はどうなるかと……もう駄目かと……」

「良かった……本当に良かった……」

「泣くな! 目出度(めでた)い祝いの席じゃないか!」



 感謝感激感涙に(むせ)び泣く男たちがいるのは、SRO(スロウ)運営管理室のスタッフルームである。ただ、本日はいつものメンバーに加えて、見慣れない顔の数名が交じっており、彼らも等しく感涙に()せている。そんな彼らの正体はと言えば、モックの「鈴の課題曲問題」を解決すべく、開発部から出向いて来ている面々であった。


 いや……この言い方では()(へい)がある。正確に言うならば、開発部から正式に運営管理室へ出向しているのは、(あおき)という若手の男性一人だけ。他の面々は、先に挙げた「鈴の課題曲問題」解決に向けての微調整のため、臨時に出向いて来たスタッフである。


 紆余(うよ)(きょく)(せつ)を極めたモックの「鈴」事情について、この場でくだくだしく再論するのは控えるが……要はバフアイテムとして設計した「()(すい)の鈴」を、何とかして「楽器」に落とし込むために、その修行方法を確立する必要に迫られたのである。


 やれ〝鈴を鳴らすタイミングや音量を工夫する〟とか、〝鈴に合う楽曲を選定するのが先である〟とか、〝鈴の鳴らし方と曲とのマッチングは、手拍子や太鼓を参考にすべき〟とか、色々意見は百出紛糾したのだが……〝手拍子や太鼓の音と鈴の音色が違い過ぎる〟という事実の前に、揃って撃沈する事になっていた。この辺りの事情は、モックが自ら確かめたとおりである。


 迷走の果てに、〝既存の楽曲に合わせるのは無理〟〝鈴用に新たに作曲した方が早い〟というところに落ち着いたはいいが、今から本格的なものを作曲している時間は無いし、(そもそも)駆け出しの、そして恐らくは音楽方面はど素人のプレイヤー(モック)に、そんな本格的な曲を演奏させるのは無理だという意見が支配的となる。

 そうこう紛糾しているうちにも、非情な事に時間は刻々と過ぎて行き、今や当事者たちがいるのは、「技芸神の神殿」の二つ前になるペンチャン村である。最早一刻の猶予も無い。


 ……と、なったところで、



〝なぁ……ペンチャン村って、確か技芸神の礼拝堂があったよな〟



 ――と言いだした者がいた事で、話が一気に動き始める。あのモックというプレイヤーを礼拝堂に誘導できれば、不自然でなく「課題曲」を提示できるのではないか? 少なくとも、その可能性はあるのではないか?

 そして、モックたちの指導役たるシュウイが、ドラマの悪魔に操られたかの如き成り行きで、御神酒(おみき)造りに参加するようになった事で、



〝酒と音楽が揃ったとなると祭りだよな。……村祭りで鈴を演奏するようなシチュは作れないか?〟

〝いや、技芸神の神託にするのなら、村祭りというのはどうなんだ?〟

〝そこはほら、豊穣祈願とか何とかさ〟

〝ゲーム内での季節は、少なくとも秋じゃないぞ? 収穫祭ネタには無理があるだろう〟

〝うむ、他のイベントとの兼ね合いもあるしな〟

〝そこはほら、予祝行事だとか何とか〟

〝あのぉ~……季節のお祭りに(こだわ)る必要はあるんですかぁ~?〟

一言(ひとこと)?〟

〝……何が言いたい?〟

〝ですからぁ~結婚式とかだと駄目なんですかぁ~?〟

〝結婚式……婚礼か?〟

〝それだっ!〟



 これまで曖昧(あいまい)模糊(もこ)としていた「課題曲」のイメージが、暫定的にとは言え固まった事で、話は爆発的に進んで行く。それまでの停滞が嘘のように。


 婚礼となると門出を祝う祝辞は不可欠。これを祝詞(のりと)のようなものに置き換えて、それに合わせる形で鈴の振り方を決める。バフアイテムとしての使用も踏まえて、それっぽい鳴らし方と理屈を工夫してやって、



〝後は礼拝堂に誘引するだけと〟

〝それなんだが……面白い事になりそうだぞ〟



 モックとエンジュの二人が、一日を潰して村内を見て廻るという(あつら)えたような展開になる。見るべき場所として「礼拝堂」を挙げてやれば、後はその場に村の女性連を送り込むだけ。


 長きに(わた)って運営サイドの心痛、ついでに頭痛と胃痛の種であった「鈴の課題曲問題」は、こうして解決への道筋が示された。

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